65 クリスマスプレゼント
礼拝が終わって、ボーモン邸に戻ってきた。もう夜はすっかり更けていた。
いつもならこの時間の屋敷は暗く、静かだが、今日はエントランスも玄関ホールも灯りがともされ、人も多く、にぎやかで、それだけで今夜が特別な夜だということを物語っていた。そして王宮ほどではないが、立派で美しく飾られたツリーなどの飾りがその賑やかさに華を添えていた。
次々と家族が到着し、待合室はあっという間に埋まっていき、賑やかさが一段と増した。
私は侯爵夫妻の隣で、到着した人たちを出迎えていた。その時に初対面の人は、紹介をされる。だが、子どもたち以外はほとんど知らないので、すでに誰が誰だか分からなくなっていた。
その後、全員で食堂に移動し、晩餐会が始まった。
食前酒とクラッカーをつまんだあとに、フォアグラとパテの盛り合わせが出てくる。その後に魚料理。次いで肉料理。来たばかりの時に失敗してから、取り分けるものは最小限に抑えて、懸命に食べ進めていく。
家族だけのフルコースも時間がかかるが、今回は客人もいるからか、ひとつひとつの皿の間隔がいつもの倍ぐらいある。待てど待てど次の料理がやってこない。
もちろんそんな次の皿を待っているのは私ぐらいだった。みんな食事もだが、それ以上に会話を楽しんでいる。
私も、向かいの年配の方々から、秋のサロンのことや日本のことを聞かれ、アントワーヌに助け舟を出してもらいながら、一生懸命答えていた。
アントワーヌはといえば、実は晩餐会前にエレオノールによって、私に質問をすることを禁じられていた。よって、自分の気になることを聞けなくて、何度も口に出かけた質問を飲み込み、唇を噛んでいた。
少しかわいそうな気もするが、彼が質問し始めたら、止まらないことは火を見るより明らかだ。だから、こうでもしない限り、私を独り占めすることになってしまう。私は構わないが、やはり長い付き合いになるだろうボーモン家の人々とはいい関係を築きたいので、私の方も黙ってこれに従った。
最後にデザートにブッシュ・ド・ノエルを頂き、長い長い食事が終わると、プレゼント開封の時間となった。子供たちが次々ときれいに包装された箱を開けていく。
また、大人同士でも交換が始まる。どうやらボーモン家では、同年代同士や子が親に感謝の気持ちで贈るのが通例らしい。そして、家長が使用人たちにも贈り物を配る。
私はといえば、ひとまず自分の気持ちとして、子供たちに加えて、使用人の人を含む本邸のメンバー全員に贈り物を用意していた。
マキシミリアンとアントワーヌが両親にプレゼントを贈った後に、私も一緒に渡した。エレオノールには髪飾り、アルフォンスにはラペルピンが入っている。
そして、マキシミリアンにも小箱を渡した。少し驚いた感じで受け取ってくれた。
「私にもですか。ありがとうございます。」
素直にお礼を言われ、目の前で小箱を開け始めた。すると、赤い小花のラペルピンが現れた。
「そのポンセチアのネクタイピンが似合っていたので。」
最近マキシミリアンが付けていたネクタイピンを指さした。それは、私が秋のサロンの打ち上げの時にプレゼントしたものだった。
「ポインセチアはクリスマスで終わりですからね。これからは良かったらこちらを使ってください。」
「そうなのか。そういうものなのか。わかった。」
そして、アントワーヌには、毛筆っぽい筆と新しい漢字一覧を贈った。
今まで質問を禁じられ、それを抑えるために、恐ろしいくらい無表情だったアントワーヌの顔が、私から受け取った紙を広げた途端、急に喜びが弾け、満面の笑顔になった。
「ありがとうございます。」
アントワーヌは日本語でお礼を言った。味気ないかと思ったが、やっぱり彼にはこれが一番だったようだ。予想以上の喜び具合で、こっちまで嬉しくなった。
さらに筆の説明をすると、「今すぐ試し書きをしよう」と腕を取られた。しかし、流石にそんな理由で、この場を抜け出すのはできないので、明日試し書きをする約束をして、どうにかこの場を収めた。
そこにクロエがやってきた。
「舞花、また会えて嬉しいわ。これ貴女からでしょ。とっても素敵!」
と言って、髪につけたつまみ細工の髪飾りを見せてくれた。金髪の髪に、紅い髪飾りがよく映えている。
「私からもプレゼントがあるの。」
そう言って彼女は、まあまあ大きな箱を取り出した。
「開けていい?」
「もちろん。」
包装紙を取り外し、箱を開けると、yukataを着た人形がいた。
「わぁ、素敵!あなたが作ったの?」
「そうよ。本当は髪飾りもつけたかったんだけど……。」
と、クロエは少し恥ずかしそうに付け加えた。
「じゃあ、今年の夏は作りましょう。」
私が提案すると、彼女の表情がパッと明るくなった。
「ありがとう!嬉しいわ!」
そのあとは、聖堂で見た劇について話した。彼女は演出を担当していたようだ。さすが、クロエ大先生だ。大成功だったといえるだろう。
「舞花、フランス語がとっても上手になったのね。」
「本当?」
「本当よ。だって、もうこんなにおしゃべり出来るんだから。素晴らしいわ。これからはもっとたくさんお話しましょうね。」
一通り、プレゼントの開封が終わると、子どもたちは寝床につき、あとはサロンで歓談となった。時刻はもう十二時を回りそうになっていた。でも、まだまだ解散する気配はない。むしろこれからが本番という感じで、屋敷のいたるところに散らばりながら話し込んでいた。
私も、すっかりくたびれてしまったので、一足先にお暇することにした。それにしても、ヴァルドールで迎える初めてのクリスマスは、王の謁見に始まり、礼拝、晩餐会と、長く濃い一日だった。身支度を済ませ、ベッドにもぐり込むと、温かな充実感に包まれ、私はすぐに眠りについた。
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