表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
64/71

64 聖夜の礼拝

 

 王都の大聖堂前にはすでにたくさんの馬車が待機していた。ゆっくりと所定の位置まで誘導されると、我々も例にもれず、到着すると馬車で待機になった。


 エレオノールによると、ここから身分が低い順に案内されるらしい。


 それまで、教会での作法をもう一度おさらいした。ボーモン家の人々の大半は、日曜日の午前中にミサに出かける(ただし、アントワーヌはよく屋敷に残っていた)。しかし、私は異教徒なので免除されており、こちらの世界で、このようなキリスト教のイベントに参加するのは、今日が初めてだった。


 入ったら、手を濡らし、十字を切る。自分でやるのは初めてなので、何回か練習をしているのを、エレオノールが微笑みながら見守ってくれている。あとは周りに合わせれば大丈夫。



 やがて三十分は待っただろうか。御者によって、順番になったことが告げられた。馬車の戸を開くと、マキシミリアンがいつもの無表情で手を差し出して立っていた。


 彼に手を差し出されたのは初めてではない。この国に来て、始めに手を差し出してくれたのも、国民の前に演説した時にエスコートしてくれたのは彼だった。


 あの時、彼は私をどう思っていたのだろうか。まさか、あの頃から心配していたなんてことはあるまい。そして、今はどう思っているのだろうか――。


 イメージが変わっても、その表情からは考えが全く読めない。しかし、白い手袋をはめた手を取ってみると、思ったより冷たくなく、むしろ少し温かかった。


 そして、そのままマキシミリアンの腕を取って教会まで一緒に歩いていく。いつも早足の彼も、今日は私に歩速をあわせてくれていた。


 そんな彼の優雅なエスコートに対して、私は雪で濡れた石畳と大理石の階段を、ハイヒールで滑らずに歩くのに必死だった。滑りそうになるたびに、私はマキシミリアンの腕にしがみついて、どうにか耐え忍ぶ。


 そんな私を見かねたのか、途中からは肩を支えてくれた。この人が心配性で良かったと、はじめて思った。



 大聖堂の中に入ると、前方以外の席はほとんどが埋まっていた。中央で十字を切ると、マキシミリアンに続いて、前方の座席へと進んでいった。そして、座る前に、キリスト像の方に向かい、前の椅子についている膝置きに、片膝をつけると、やっと着席となった。横を見ると、マキシミリアンの反対隣りにいるエレオノールはロザリオを持ち、祈りを捧げている。他にも祈っている人がちらほらいた。


 我々の後に、大貴族が二、三家入ると、ついに王族の番となった。その中にはフィリップ王子や彼のお兄さん達もいた。そして殿(しんがり)は先ほど言葉を交わした国王陛下だった。


 王も我々と同じような作法で席に着くと、白い衣装に金をあしらった衣装を着た、司教が壇上にあがった。祈りを捧げ、そのまま聖歌隊といっしょに讃美歌を歌う。


 こっそりと両隣を観察すると、マキシミリアンもアントワーヌも口は動いている。しかし、小さく歌っているのか、彼らの声はまったく聞こえなかった。


 果たして彼らはどのくらいキリスト教を信じているのだろうか。信仰心というものがあまりない私には、計り知れないところだ。


 とはいえ、彼らも祈ったり、歌ったりしているが、いつもの仕事に対する熱量はなく、こなしているように見える。この二人には、信仰よりも、研究や政治という方が似合っている気がする。


 続いて、子供たちによる、キリスト誕生の劇である。ここには夏休みにお世話になったクロエが出演するらしい。分かるかなとドキドキしていたら、白い衣装をまとったクロエが舞台の真ん中に出てきた。そして彼女のナレーションから物語が始まった。劇自体は、子ども劇とはいえ、なかなか本格的なものだった。もしかしたら、彼女も演出に携わっているのかもしれない。今夜クロエに会えるらしいので、あとで確かめてみることにした。


 劇が終わると、司教のお話が始まった。ところどころに聖書の引用が入る。


 ふと、小学生の頃に、お菓子目当てで友だちと一緒に近所の教会の日曜学校に参加したことを思い出した。そこでも同じように話を聞いた。やっぱりフランスで行なわれているミサと同じなのだろうか。


 でも、キリスト教が語る物語の舞台は、私たちの世界である。それで、次元の違う異世界の人たちは納得できるものなのだろうか。それともこの世界も同じ神が創造したことになっているのだろうか。いや、こういうものに納得も何もないのだろうか。


 こういうのはアントワーヌに聞くに限る。覚えていたら、今度の授業で聞いてみることにしよう。


 そう思って、隣りのアントワーヌを見たら、彼の指が忙しく動き、膝に何かを書いていた。なんだろうと思い、観察してみると、それは漢字だった。多分「空」だ。次は「学」……。


 ちょっと!と、思わず叫びたくなるのを抑えるために、私は唇をぎゅっと結んだ。




火曜日・木曜日・土曜日の21時前に更新しています。

感想や評価などいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ