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57 革命を起こしたいわけじゃない

 

「En fait… j’aimerais organiser une fête.」

(実は私、パーティーを開きたいんです)


「Une fête ?(パーティー?)」


 エレオノールにとって、パーティーというと人を集めた社交の場である。祝賀、披露、縁談、人脈作り――そういった目的に沿って開催される。だからこそ、料理や席順に至るまで意味を持つ。では、舞花の目的は何だろうか。舞花が貴族たちとつながりを持ちたいと思っているわけでなさそうだ。大きな違和感を抱いたエレオノールは、真意を探っていくことにした。


「Dans ce cas, qu'est-ce que l'on célèbre ?」

(では、何を祝う会なのかしら)


「Ce n’est pas pour célébrer quelque chose.」

(お祝いというわけじゃないんです)


 お祝いじゃないパーティーということは、舞踏会や音楽会だろうか。


「では、そのパーティーは何をするのかしら。」

「みんなで集まって、ご飯を食べて話すんです。あと、少しイベントがあってもいいかもしれません。」

「では、誰を呼ぶのかしら?」

「私がここにきて知り合った人たちです。」

「というと?」

「カトリーヌたちに加えて工房やかんざしプロジェクト関係者。ジョゼットやポールたち。あとは、夏に会ったクロエたち。そういう、今年お世話になった人たちを集めて、みんなで楽しくご飯を食べながら話したいんです。日本ではこういうのを、『忘年会』と言います。こうやって、一年を終わらせていくんです。」


 顔にこそ出さないが、エレオノールは驚いていた。舞花の言う「パーティー」は、自分が思っていた「パーティー」とは真逆の内容だったからだ。人と人を結び、関係を広げる社交の場と、人と人の結びつきを確認し、すでにある関係を強くする「忘年会」。たぶん、我々で言う仲間内の夜会に近い。


「いいんじゃないかしら。12月末にやるのよね。クリスマスの後でいいかしら?」

「はい。日本でもその時期です。」

「では、アルフォンスに相談してみますね。」





 その夜、ふたつの会がお開きになり、アルフォンスは執務室で手紙を書いていた。そこにノックがあり、エレオノールが入ってきた。


「舞花が年末に夜会を開きたいそうよ。」

「そうか。招待客は誰だ。」

「かんざしプロジェクト関係者や親戚の子たちみたい。」


 エレオノールは、招待客に貴族も平民、屋敷の者たちも混ざっていることは、まだアルフォンスには明かさないことにした。ここはまだ十分に舞花と話し合いの余地がある。


「いいんじゃないか。招待客のリストだけ見せてほしい。あとは、お前の方で進めてくれ。」

「ありがとうございます。舞花も喜びますわ。」


 まだ舞花がやりたい「パーティー」の全貌は全く見えてこないが、日程も迫っている中、理解してから動くのでは遅すぎる。


「彼女が何かやりたいと提案してくれるのは、初めてですもの。協力しなくてはね。」





 翌日の授業で、アントワーヌに「忘年会」をやりたい旨を伝えた。アントワーヌは私の計画よりも、「忘年会」そのものの方に興味があるみたいだ。いつも通り彼の質問に答えていきながら、出来そうなことを考えていく。


「それで今回は、誰を呼ぶんですか?」

「かんざしプロジェクト関係者。ジョゼットやポールたち。あとは、夏に会ったクロエたちですね。」


 そこでアントワーヌが腕を組み、考え込み始めてしまった。


「それって、どういう形式で食事をする予定ですか?」

「形式ですか?」

「はい。テーブルに座って食べるんですか?それとも立食ですか?」

「日本だったら、テーブル...に座ってですかね。」


 忘年会って、居酒屋でやるイメージが強い。大学のサークルでやっていた忘年会も大衆居酒屋の座敷を使ってやっていた。そのせいだろうか。テーブルに着いて、というとなんだか違和感があるので、少し言い淀んでしまった。そこにアントワーヌが目を光らせる。


「どうして今、止まりましたか。」

「いや、日本ではこういう時にレストランでなく、お酒をのむ用のレストランでやることが多いんですよ。」

「バーですか?」

「いや、そんなお洒落なところじゃなくて、長いテーブルがあって、そこで床に座ってお酒やご飯を食べるんです。」

「床に座って、ご飯を食べるんですか?」


 そのまま、話が脇道へとどんどんと逸れていき、ついには雷親父がちゃぶ台をひっくり返すところまでたどり着いてしまった。


「あなたの家のちゃぶ台は......」

「ちょっと待ってください!ちゃぶ台の話はもういいです。それに私の家にはちゃぶ台はありません。話を戻しますよ。」

「どこにですか?畳に座るというところでしょうか?」

「違います。私が計画している忘年会についてです。」

「ああ。」


 日本文化の話ではないと分かると、アントワーヌは急にそっけない態度になった。あなたにとっては畳文化の方が面白いかもしれないが、舞花にとってはアントワーヌの質問の意図の方が気になっていた。


「アントワーヌはどうして形式を聞いたんですか?」

「というのは、色んな身分の人が混ざっているので、会の仕切りが複雑だなと思いまして。でも、母上がどうにかするでしょう。それより......」

「そこをもう少し説明してください。」


 ここで私はパーティーの座席に様々な配慮があることを知った。確かに、この身分社会のある世界では、日本以上に、常に上下関係をはっきりさせている。これが崩れているところを見たことがない。そもそもマキシミリアンが私にテストをしかけたのも、Tu とVousの使い分けが原因だった。


 確かに、日本にも上座とかあるが、忘年会ではそういうことは気にしては楽しめないだろう。


「日本には『無礼講』という習慣があります。」

「それは何ですか?」

「飲み会やお祭りの場では、上下関係を忘れて、みんなで楽しもうというものです。」

「それはそれは。」


 アントワーヌは何やら頷きながら相槌を打っていた。彼にとっては、「無礼講」は新しい概念だったのだろうか。ただ、いつもだったら、すぐに質問が飛んでくるところを、今回はワンテンポ遅れていた。


「危険じゃないんですか?」

「危険?」

「はい。無礼講だと日頃の不満が爆発して、革命が起きたりしそうですが。フランスはそうやって革命を起こすことで、民衆が貴族から権利を勝ち取っています。」


 革命!?また大げさな。この世界で「無礼講」が受け入れられるかは微妙だと思ってはいたが、そもそも捉え方が違う。「無礼講」でなく「無秩序」になっている。でも、アントワーヌでこうならば、別の人にとってはもっと衝撃的なことなのかもしれない。


「いやいや。......お祭りを身分関係なくみんなで楽しむ感じですよ。わざわざ無礼なことをしにいくわけではありませんし、最低限のモラルは守らなければいけません。」

「そうなんですか。安心しました。」

「とにかく私は、お世話になったみなさんと、身分とか忘れて楽しく時間を過ごしたいだけなんです。」

「では、『無礼講』についても、母上にちゃんと説明をした方がいいですね。そうでなければ、舞花が思っているのとは違う「忘年会」になってしまうかもしれません。」

「分かりました。」


 私が思っているのとは違う「忘年会」というのも気になるが、ここではいったん置いておいて、ひとつ迷っていることを相談することにした。


「分かりました。あと、招待する人について相談なんですが――。」

火曜日・木曜日・土曜日の21時前に更新しています。

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