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53 キツネの計略

 

「マノン、いいニュースだよ。贈答品リストに入れることになったの!」

挨拶もそこそこに、工房中に聞こえる大きな声でマノンに話しかけた。すると、マノンがすごい形相で近寄ってくる。


「えっ、フィリップ王子の提案を受けたの?」

「ううん。」

「じゃあ、どうやって?」

「マキシミリアンが頑張ったみたい。」

「頑張ったって……。コネがあるからって、易々と入れるものじゃないのよ。」

 そんなに簡単じゃないことは、私でもわかる。実際、彼が何をどうしたのかは分からないので、笑ってごまかした。


「召喚人の地位を使ったのよ。」

 すると到着したクレモンスが代わりに言葉を加える。私にはこれ以上の説明が無理なので、詳しいことは彼女にお願いした。

「召喚初年度ということで、召喚人から、招待頂いた御礼ということで、例外としてリストに入ったの。」

「確かに、納得の例外枠ね。」


「でも、フィリップ王子の提案を断って大丈夫だったの?」

 カトリーヌも工房に入ってきた。


「特別枠が決めてから、それを理由に断ったらしいわ。」

 どきから聞いたのか、クレモンスが教えてくれた。クレモンスのお父さんが、工房の後見人になったから、そのつながりかもしれない。


「流石に、個人的な感情では断れないわよね。」

「それにしても、さすがね。優秀だわ。」

 納得するカトリーヌの横で、マノンが感心している。彼女がこうやって人をベタ褒めしているのを見るのは、初めてだった。やっぱり、マキシミリアンってすごいのかかも、と少し見直した。


「また妨害とか。ないといいんだけど。」

 クレモンスが心配そうにつぶやいた。

「でも、これだけ侯爵家や伯爵家、大商家が絡んでいるのよ。ここに横やりを入れられるのって、よっぽどのお方じゃないと。」

「相手はよっぽどのお方じゃない。」

「えぇ、そんなことするかしら?」

「第三王子派の商売人のなかにはあまり綺麗なやり方をしていない人もいるみたいよ。」

 クレモンスとカトリーヌが、マノンに聞き取れないよう、扇子の後ろで噂話をしている横で、私はすっかりお祝いモードに入っていた。


「Félicitations, Manon ! (おめでとう、マノン)」

「Merci ! C'est grâce à tout le monde. (ありがとう!みんなのおかげよ)」



 そうして、工房の応接間でお茶会が始まった。私は、最近アントワーヌのお願いで、あんこ作りをしていることを話したら、みんなで試食することになった。今度は、あんみつ風にしようかな。みんなで話しているうちに、あれもこれも教えたくなってきた。


 アントワーヌ曰く、こちらではクリスマスは家族で祝うものらしい。礼拝に参加したら、庶民から王族まで、家族で食事を頼む。クリスマスは恋人か友達とという日本とは、テンションが違う。こっちには、忘年会とか新年会とかないのかしら?一人、みんなで鍋を突きたい衝動に駆られていた。




 それから数日経った頃、マノンが屋敷を訪ねてきた。盗難の時も、工房立ち上げの時も、いつも彼女は突然やってくる。今度はどんなニュースかと思って迎えると、彼女は顔を真っ青にしていた。


「舞花、どうしよう。マキシミリアン様はいる?……相談したい。」


 ひとまず、ジョゼットに一足先にマキシミリアンにマノンの来訪を伝えてもらい、私はすっかり弱ったマノンとゆっくり彼の執務室に向かった。



「今朝、工房の方にこの手紙が届きました。」

 マノンは、マキシミリアンに一通の手紙を渡した。見覚えのある豪華な封筒に、赤い封蝋。あれはフィリップ様の......。マキシミリアンが手紙を読んでいるのを待ちながら、マノンに小声で尋ねてみる。


「マノン、何があったの?」

「フィリップ様さまから、商人たちを連れて、家の工房を見学したいっていう申し出よ。」

「それっていい話じゃないの?」

「何言っているの?私たちの技術を盗みに行くってことよ。しかも、正面から。」

「えっ。そういうことなの?それって犯罪じゃない?」

 気づけば抑えていた声量は、いつも通りに戻っていた。


「そうだな。もし黙ってやったら犯罪になる。」

 手紙を読み終えたマキシミリアンが、顔を上げた。


「しかし、こうやって技術交流の名目で正式に見学を申し出ている以上、そこで技を盗まれたとしても、それは交流として処理される。」

「しかも、商人たちに顔が利く第三王子からの申し出でしょ。ここで断れば、父の商売にまで影響が出る可能性がある。」

「Quel renard ...(全く小賢しい)」

 今回は手紙を破ったりはしていなかったが、やはり全身から怒りがあふれ出ている。


「特許を取っておいて正解だったな。」

「でも、粗悪な模造品だと、使用料を納めなかったり、言い逃れしたりするって聞きますよ。」

「それでも、牽制程度にはなる。」

「せっかく、贈答品リストに入って、つまみ細工の髪飾りをどんどん売っていこうっていう時に――。」


 どうやら、マノンが盗まれたくない技術というのは、「つまみ細工」のことらしい。Yukata 関連の縫製技術の方かと思ったけど、よく考えたら、そうなるよね。どうしていつも、私はズレているのだろう。でも……。


「多分、見られるならば、Yukata 製作の方が被害が少ないので、見学日をそちらに回すというのは、どうでしょうか?」

 マノンが恐る恐る提案をする。


「いや、やめた方がいい。そうすると彼の思うツボだ。」

「でも、狙いは「つまみ細工」なんですよね。」

「あの男は、それを我々が見せないために動くことは承知している。もしYukata製作を見せれば、我々が召喚人の技術を私欲で独占しようとしていると、ふれまわるだろう。」

「ひどい……。」

「だからといって、こちらの技術を開示すれば、」

「模造品が出回る……。」

「もちろん、受けないという選択肢もない。」

「……。」


 口早に交わされていく二人の会話にしがみつくように耳を傾けていた私は、重い沈黙が落ちたところで、口を開いた。


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