34 四季を髪に咲かせて
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今回は舞花の演説のみ原文を載せています(他は力尽きました)。雰囲気もあわせて楽しんでいただければ嬉しいです。
次の日の夕食後に時間をもらえることになった。
始めはマキシミリアンの執務室で、ということだったのだが、アントワーヌやエレオノールも参加することになり、ダイニングでそのままプレゼンをすることに。さらに、侯爵のアルフォンスも何故か残っている。
とにかく、頑固親父のマキシミリアンを説得するために、アントワーヌに手伝ってもらって準備をした。
スクリーンのない世界では、言葉で伝えるしかない。 言葉で説明できない部分は、絵の具を使って、拙いながらにイメージ図を用意した。絵なんか得意じゃないが、フランス語よりはよっぽど自由に表現ができた。
席順は夕食と変わらない。いつもは視線が集まらないお誕生日席の方に、全員が体を向けている。こうして、私はボーモン家の前に立ち、話し始めた。
「Je viens du Japon. Mais vous ne connaissez pas le Japon. Donc, je veux vous présenter mon pays, d’abord, à travers les accessoires.」
(私は日本から来ました。ですが、あなた方は日本を知りません。だから、まずは髪飾りを通して、私の国を紹介したいです。)
平易で短いフランス語の文を駆使して、言葉を積み重ねていく。
「これは、髪につける装飾品です。かんざしといいます。これはブドウの房をイメージしました。私が作りました。」
ここで、かんざしをマキシミリアンに渡そうとしたら、無言でアルフォンスの方を指した。その指示に従って、かんざしをアルフォンスに渡す。
彼はもの珍しそうに、ひと通り観察した後に、房を揺らしたりしている。そして、エレオノールに渡した。
「私が使ったのは、つまみ細工という名の日本の伝統的な技術です。折り、つまみ、貼り合わせることで作ることができます。シンプルです。特別な道具も、貴重な材料も、厳しい修行も必要ありません。」
私は用意しておいた、折り紙みたいな正方形の紙を折り曲げ、花びらを作っていく。
「サロンでは、四つの髪飾りで日本の四季を表現するつもりです。」
そう言いながら、用意していた図案を一枚ずつ広げた。
「春は桜です。日本には至るところに桜の木があります。毎年、4月の短い期間にいっぺんに咲きます。その間、街も村も山も景色が桃色になります。桜の木の下ではピクニックをします。花びらの雨はとてもきれいです。春の髪飾りはこんな感じになります。」
そこには、五枚花弁の桜色の花が幾重にも重なり、そこからいく筋か花びらが垂れている、髪飾りのデザインが描かれていた。背景には桜並木。そこには、日本の春が咲き乱れていた。
続いて、夏、秋、冬の髪飾りも順に説明していく。
夏は紫陽花。朝顔やひまわりとも迷ったが、紫陽花の小花が集まる形がつまみ細工に最も映えた。
秋は菊。これも紅葉と迷ったが、ここは花で統一することにした。大輪の菊には、他の花にはない華やかさがある。
冬は椿。これも氷の結晶と迷ったが、やはり花ということで、椿一択。白と赤のコントラストで凛とした雰囲気を漂わせる。
ここで一息ついた。もし駄目なら、きっとマキシミリアンは打ち切るだろう。続けさせてもらえる。つまり、反応はまずまずだ。
その後は、実務についての説明に入った。マノンの工房ですでに試作は進んでおり、制作体制が整っていること。また、ブドウの髪飾りを素人の私が二夜で作ったことから、職人の集まる工房ならば、もっと高いクオリティで、短期間で作成できることなどを説明した。
「このように私は髪飾りで日本の四季を表現します。もし可能ならば、デモンストレーションをすることもできます。」
「Avec ce projet, je veux participer au Salon d’Automne. Merci de m’écouter. 」
(この企画で、秋のサロンに参加したいです。ご清聴ありがとうございました。)
私のプレゼンは終わった。
エレオノールが拍手をしてくれる。拍手すら上品だ。アルフォンスとマキシミリアンも一応手を打つ動作はしている。
よかった――。
ひと息ついた途端にマキシミリアンの声が上がった。
「質問がある。出品は誰の名義になるのだろうか。」
「私です。」
「工房への支払い費用は」
「費用?」
「誰が工房に支払うのか、と聞いているのだ。」
考えていなかった。
今まで内輪ノリで進んでいたから、考えてはいたけれど、肝心な資金源のことは考えていなかった。何か適当なことを言って誤魔化したいが、無一文な私に適当な手段などあるわけない。
「……考えていませんでした。」
「分かった。では、出品後のことはどう考えている。」
「マノンは販売したいと言っていますが、売れるか分かりませんので、特に具体的なことは考えていません。」
「デモンストレーションはどんなことを考えている。」
「ファッションショーみたいなことを考えています」
「ファッションショー?」
「舞台の上を髪飾りをつけたモデルが歩きます。」
「それだけか。」
想定内の答えだが、面を向かって言われると、刺さるものがある。もっと具体的に説明しようとすると――。
「弱いな…。自分の立場を分かっているのか。」
「召喚人です」
「もしサロンに出品するならば、それは召喚人が持ち込んだものの最初のお披露目の場となる。つまり、ここで召喚人に対する評価の基準が形づくられる。だから、失敗は許されない。」
「装飾品自体の価値は分からないが、考え自体は悪くない。しかし、それが初手として正しいのか。率直に言って 、インパクトに欠ける。 別の機会でもいいのではないだろうか。」
結局たどり着くのは、アントワーヌと同じところだ。私にとって秋のサロン自体に思い入れはない。だから、次があるのであればそれでいい気もする。
でも――
旬ってあるんじゃないだろうか
勢いってあるんじゃないだろうか
そんな抽象的なことを言って納得する相手ではないことは分かっている。だから言わない。 でも、私はお茶会から始まって、アトリエをして、出品するために、みんなでかけ回っている。
今を逃したら、もう同じようには進めていけない。
この流れを止めてはいけない。
それこそ伝えなければ、いけないことなのに。
舞花の演説
«Je viens du Japon. Mais vous ne connaissez pas le Japon. Donc, je veux vous présenter mon pays, d’abord, à travers les accessoires.»
«Voici, c’est un accessoire pour les cheveux. Il s’appelle kanzashi. Il s’inspire d’une grappe de raisin. C’est moi qui l’ai fait.»
«J’utilise une technique traditionnelle japonaise qui s’appelle tsumami zaiku. Cela signifie « technique de pincement ». On peut le fabriquer seulement en pliant, en pinçant et en collant. C’est simple. Il n'y a pas besoin d'outils spéciaux, de matériaux rares ou d'un long apprentissage.»
«Pour le salon, je veux représenter les quatre saisons du Japon avec quatre accessoires.»
«Pour le printemps, j’ai choisi le cerisier. Au Japon, il y a des cerisiers partout. Chaque année, ils fleurissent tous ensemble pendant une semaine en avril. Pendant cette période, le paysage des villes, des villages et des montagnes devient rose. On fait des pique-niques sous les cerisiers. La pluie de pétales est magnifique. L’accessoire du printemps va être comme ça.»
«Ainsi, je veux exprimer les quatre saisons japonaises avec ces accessoires. Si c’est possible, nous pouvons aussi faire une démonstration avec quatre femmes. Avec ce projet, je veux participer au Salon d’Automne. Merci de m’écouter.»




