33 Lireとrireほど似ていて違う
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本来はフランス語で交わされている会話の原文も載せていますので、雰囲気もあわせて楽しんでいただければ嬉しいです。
明後日になっても、エレオノールから返事が来なかった。
さらに、カトリーヌからの手紙の返信には「ボーモン家の長男が面倒くさくて、クレモンスが苦労している」と書かれていた。
どうやら、私たちのサロン出品をマキシミリアンが妨害しているらしい――。思わず、「またか」と心の中でつぶやいた。どうしてこの人は、ことあるごとに私につっかかってくるのだろう。
嫌いなわけではないが、正直煩わしい。
毎回、毎回、正論を掲げ、私の前に立ちはだかってくる。まるで過保護な父親みたいだ。今回は一体、何がダメなんだろうか。
まずは、事情を知っているであろうアントワーヌに探りを入れることにした。
本日の授業は活用形のテストの再試から始まった。アトリエの後、サロンに出品する飾りのコンセプトやデザインばかりを考えていたら、翌日のテストでひどい点数を取った。
基本中の基本の-er型と-ir型の活用は完ぺきだったのだが、-re型は規則があるようでいて、動詞ごとの差が多い。だから、見本と違う動詞がくると誤答率がぐっとあがる。そして、出題する方は堂々とその混乱をねらってきている。
例えば――
prendre(取る) lire(読む) rire (笑う)
je prends je lis je ris
tu prends tu lis tu ris
il prend il lit il rit
nous prenons nous lisons nous rions
vous prenez vous lisez vous riez
ils prennent ils lisent ils rient
これを並べて聞いてくるあたり、性格が悪いとしかいいようがない。今まではこのような意地の悪いテストではなかったので、よっぽど私が午後の授業をキャンセルして、アトリエをしたことが気に食わなかったことが伝わってきた。しかし、言外のメッセージは受け取ったものの、それを素直に受け取って改心するほど、お子ちゃまではなかった。
デザインに加え、カトリーヌの手紙に書いてあったことを考えていたため、再試の点数も伸び悩んだ。
「先生、話があります。」
「サロンの件ですね。」
少し間をおいて尋ねる。
「……どう思いますか?」
「僕の意見を尋ねているのですか。」
アントワーヌは、ほんのわずかに眉を動かした。
「はい」
「優先順位の問題です。あなたがまずやるべきことはなんでしょうか」
「優先順位……?」
「言葉です。これが出来なくては、何も始まりません。」
「サロンは来年もあります。それでも遅くはありません。」
アトリエの後の活用テストに、今日の単語テスト。明らかに、髪飾りへの当てつけのように、テストを頻発するアントワーヌ先生だが、返ってきた答えはド正論だった。
「マキシミリアンも同じような考えなのでしょうか。」
「彼の判断基準までは分かりません。 」
「ひとつ確かなのは、彼の視点は僕のものとは異なります。直接聞いてみたらいいのではないでしょうか。」
また正論だ。いつも親身になってくれたアントワーヌ先生の機嫌を損ねた私は、理屈で殴られ、最後にはきれいに突き放されてしまった。
いつもだったら、ここで引き下がってしまうところだが、今回は私一人の問題ではない。だから、アントワーヌには図々しく、先生としてマキシミリアンへの直談判を手伝ってもらう。
アントワーヌ相手にさえ、こうなのだ。マキシミリアン相手には、万全の装備をしていかなければ、鼻であしらわれて即終了となるのは、目に見えている。質問や反対意見を想像しながら、文を用意していく。
それにしても、どうして出品を阻止するのだろうか。毎日数時間共にしているアントワーヌが反対している理由は予想がつく。でも、ほとんど言葉を交わさないマキシミリアンの考えは、全くわからなかった。
今さらだけれども、私はマキシミリアンについて全く何も知らないことに気がついた。彼がどういう仕事をしているのか、彼が私に対してどういう立場なのか。「敵を知り、己を知れば」というし、早速アントワーヌに尋ねてみた。
「伝えていませんでしたか。マキシミリアンはあなたの正式な後継人です。つまり、あなたに何かあった時に、あなたを保護する義務があり、あなたがしたことに対して、責任を取らなければいけない立場にあります。」
「だから、あなたはこの屋敷にいるのですよ。彼には政府の役職もあります。なので、フランス語の教授を含め、実際のところは私が代行しているものが多いですが、あなたに関する社会的な責任者は彼なのです。」
細かいところはやっぱりよく分からなかったが、要は保護者ということだろう。確かに、これまでも私情からくるやっかみではなく、私が困らないための試練?というものだった。私が感じた、父親的煩わしさというのは、遠からずというわけだ。
それならば、今回はきっと「日程が厳しいのにちゃんとできるのか。具体的に決まっているのか」という心配だろう。
ここは――
企画書を書いて
プレゼンをするしかない
またもや、私の頭の中はお花でいっぱいになった。
« Antoine, je veux vous parler. »
« C’est au sujet du Salon, n’est-ce pas ? »
« …Qu’est-ce que vous pensez? »
« Vous me demandez mon avis ? »
« Oui. »
« C’est une question de priorité. Selon vous, quelle est la chose que vous devez faire d’abord ? »
« Une priorité… ? »
« La langue. Sans cela, rien ne peut commencer. Le Salon aura encore lieu l'an prochain. Il ne sera pas trop tard. »
[…]
« Est-ce que Maximilien pense la même chose ? »
« Je ne sais pas exactement comment il juge. Il voit les choses autrement que moi. Demandez-lui directement. »
[…]
« Je ne vous l’avais donc pas encore expliqué ? Maximilien est votre tuteur légal. Cela signifie que, s’il vous arrive quelque chose, il a le devoir de vous protéger, et qu’il doit répondre de ce que vous faites. »
« C'est pour ça que vous habitez ici. Il travaille aussi pour le gouvernement. Du coup, c'est souvent moi qui remplis certaines tâches à sa place, y compris pour votre enseignement du français. Mais, officiellement, c'est lui qui est responsable de vous.




