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29 菊と聞くと

火曜日・木曜日・土曜日の21時前に更新しています。

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 授業後に、まずはジョゼットと話し合うことにした。

 すると現状が見えてきた。



 どうやらジョゼットにとっても、こうしたテーマのある茶会は馴染みがないらしい。

 話を聞いたとき、彼女は仮装舞踏会を想像したという。それで、三日後に衣装を用意するなど無理だと、相当焦ったらしい。しかし、侍女の先輩方に相談したことで勘違いが判明し、ようやく状況を理解した。そして、それを私に伝えてくれた、というわけだ。



 誤解が解けたのはよかった。

 だが問題は残っている。

「Qu’est-ce que je peux faire?」(私には何ができるかしら?)

 何をしているか、聞くには英語のdoに近いfaireを使う。さっき習ったことが早速活躍している。


 いや、それどころではない。

 アクセサリーや色で何かを表現する――その感覚に、私たちはどちらも慣れていない。「収穫」を想起させる装い。それが、どうにも思い浮かばない。日本から来た私も、ヴァルドールで育ったジョゼットも、そもそも「収穫」のイメージが曖昧だった。


 だから、第三者に頼ることにした。ベテラン庭師、ポールである。庭と菜園を任されている彼ならば、「収穫」にも詳しいはずだ。そんな軽い気持ちで、彼を訪ねた。




 ポールは、ほかの庭師たちとともに、お茶会の会場を整えていた。


 紫に熟した葡萄が、ゆるやかな弧を描くように垂れ下がるゲートをくぐる。その先には、小道に沿って置かれたカボチャが、色と大きさの違いでリズムを作っていた。足元には赤や黄色の小菊が添えられ、わずかな隙間までも埋めるように配置されている。

 小道を抜けると、円形の小さな広場に出る。中央にはお茶のテーブルが据えられ、その周囲を囲むように装飾が広がっていた。ポールは、その一角で最後の調整をしている。

 古びたおし車を中心に、カボチャと花が重ねられ、脇には束ねた小麦が立てかけられている。藁がさりげなく積まれ、高さと奥行きを作っていた。無造作に見えるのに、すべてが計算されている。


 素人の私の目には、すでに完成しているように見えた。これもきっと、同じ「La récolte」がテーマなのだろう。言葉では分からなかったものが、目の前で、形になっていた。


「Bonjour, Paul. Comment ça va?」

「Ça va, merci. Et vous?」

「Ça va bien, merci.」


「Que faite-vous ici?

(ここで何をしているのですか?)

 ポールの質問を聞きながら、Vousの時はfaites でいつも消えてしまうtの音が復活する、という事実を思い出す。ポールも活用しているんだな、なんて当たり前のことに感動しながら、ポールに事情を説明した。

「J’ai une question. Quelle est l’image de la récolte pour vous ? J’ai besoin de ça pour après-demain.」

(質問があるの。「収穫期」のイメージって何がある?明後日のために必要なの。)


 そこから、ポールは「La récolte」でイメージされる、色(赤、黄色、深緑、紫)、収穫物(小麦、葡萄、りんご)から始まり、庭の装飾を使いながら、具体的なイメージを教えてくれた。この時期の花といえば、ダリアと菊らしい。菊なんて日本のイメージが強いので意外だった。


 菊のアクセサリー――。

 あれが使えるかもしれない。


「Je fais un accessoire.」

(アクセサリーを作るわ)

「C’est vous qui le faites?」

(あなたが作るんですか?)

「Oui. J’essaie.」

(そうよ。試してみるわ)


 アクセサリーを手作りする文化って、ないのだろうか。

 庭園からの帰り道に、ジョゼットに何度も確認を取られてしまった。ひとまず、彼女に必要なものを伝え、さっそく材料と道具集めをしてもらった。


 用意してもらったのは、接着剤と細いワイヤー、テープ、そして深緑と紫の太めのリボン。


 作るのはつまみ細工のかんざし。

 成人式のために髪飾りをDIYした時のテクニックを再利用だ。


 細い編み棒を一本拝借する。

 先端に、深緑の花を一輪。

 葉の代わりだ。

 そこから紫の花びらを垂らしていく。

 連ねていくと、一房の葡萄になる。


 本当は小菊を沢山合わせて、花びらを垂らすと華やかなのだが、

 時間がないから、葡萄っぽいもので誤魔化す。


 早速その夜から作業を始めたが、気づけばお茶会当日の朝。予想以上に時間がかかってしまった。それでも、見せるたびにジョゼットは「Incroyable!(信じられない)」「Magnifique!(素晴らしい)」「Fantastique!(素晴らしい)」「Extraordinaire!(素晴らしい)」と誉めてくれた。おかげで、この3日で賛辞のボキャブラリーは増えたと思う。

 上手ではないけれど、変ではないはず。 


 授業後に赤いワンピースに着替え、髪をかんざしでまとめる。

 私は、お茶会に向かった。


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