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28 先生は役立たず

意外と書き溜まったので、火曜日・木曜日・土曜日の21時前の更新にしようと思っています。

感想や評価などいただけると励みになります。


*部分は、本来はフランス語で交わされている会話です。

下に原文も載せていますので、雰囲気もあわせて楽しんでいただければ嬉しいです。

 口頭試験をパスしてから、夕食の席順が変わった。


 それまで隣はアントワーヌ、向かいはマキシミリアンと兄弟に囲まれていたが、私は誕生日席になり、両隣りがアントワーヌとエレオノールになった。


 今までは私が何をしても、兄弟間で処理出来る体制だったのが、そのスクラムから解放された。エレオノールが味方になったのか、大きなやらかしがないと判断されたのかわからないが、話し相手が一人増えた。


 侯爵夫人だから、社会的には雲の上の存在だが、私の中ではエレオノールはバイト先で憧れていた社員さんに近い。出来ればお近づきになりたい。


 だから、この変更は大歓迎だった。




 エレオノールは色々と私の知りたいことに答えてくれる。


「Qu’est-ce qu’il y a dans cette sauce ?」

(このソースの中に何がありますか?)


 今日もいつも気になっているきのこソースについて、聞いてみた。実はアントワーヌにも何回か尋ねているのだが、「キノコ」という、私にとっては情報量ゼロの答えしか、返ってこなかった。しかし、エレオノールは、使われている3種類のキノコの名前と一緒に使っているハーブも教えてくれた。やっと知ることが出来た!


 こうして夕飯が少しずつ、充実した時間になっていた。




 また、この時間が充実したのには、もう一つ秘密がある。「Il y a 〜(〜がある)」だ。


 いわゆる英語の There is / there are 構文と同じである。これが意外と便利で、あるかないかを聞くのにはこれ。何があるのかを聞くのもこれ。


「 Est-ce qu’il y a ~?」(~ありますか?)


 この Il y a の中にある a は avoir を活用したもの。そう思うと、avoir の活躍範囲がかなり広い。「J’ai ~」で「何を持っている」が一般的な意味だが、こんな使い方もある。


 J’ai 22 ans.(22歳です)

 J’ai faim.(お腹がすきました)

 J’ai chaud.(暑いです)

 J’ai peur.(怖いです)

 Est-ce que vous avez l’heure ?

(今何時かわかりますか?)


 全て avoir だ。

 万能過ぎるだろう。




「Avez-vous des amies, Maïka ?」

(舞花、友達はいるかしら?)

 ある日の夕食でエレオノールから聞かれた。


「J’ai une amie. C’est Chloé. C’est tout.」

(友達は一人います。クロエです。それだけです)


「D’accord. À mon avis, vous avez besoin d’amis. Est-ce que je vous présente une jeune fille à peu près de votre âge ?」

(分かったわ。あなたには友人が必要だと私は思うの。あなたと同じくらいの歳の女の子を紹介してもいいかしら?)


 この前、授業で聞いた「Avoir besoin de ~(~が必要だ)」 の表現を生で聞けたことに感動しつつ、エレオノール直々に友だちを紹介してもらえることに心躍っていた。


 アントワーヌやジョゼットとはだいぶ打ち解けているし、エレオノールとも話すようになって、特に不自由を感じたことはなかったが、同年代の同性の子とおしゃべりできるのは嬉しい。


「Oui, avec plaisir.」(はい、喜んで)

「Dans ce cas, venez donc prendre le thé samedi prochain.」

(ならば、次の土曜日にお茶に来てくださいね。)

「D’accord.」


 でも、よく考えたら、侯爵夫人が紹介する女性なのだから、平民ということはないだろう。マキシミリアンみたいな厳しい人だったら、どうしようか。まだ会っていない友だち(仮)にあれこれ考えを巡らしていた。


「Pour cette occasion, j’ai choisi un petit thème.」

(次のお茶会には、テーマがあるの)

「Le thème est… la récolte.」

(テーマは「収穫期」よ。)


「La récolte?」

「装いの中に、ほんの少し“それらしさ”を感じさせるものがあればいいのよ。例えば、色でもデザインでも。深みのある赤や緑の色を選ぶ人もいれば、葡萄のような小さなモチーフを身につける方もいるわ。何も厳しいルールはないの。ただ、気にかける人には伝わる――そのくらいで十分よ。」*1



 そもそもテーマが何か分かっていないのだが、エレオノールにはそれが伝わっていない。彼女は、多分どうやってテーマに沿ったものを用意するかを説明してくれているのだと思うが、理解が追いついていない。

 でも、これを遮ってまで聞くのは野暮だ。私は、アントワーヌが聞いていることを確かめ、後で聞くことにした。


「Avez-vous quelque chose à vous mettre sur ce thème ?」

(このテーマにあうものって持っているかしら?)

「Peut-être. Je… demande à Josette.」(多分。ジョゼットに聞いてみます)


 テーマが正直よく分かっていない。

 そういえばいいのだろうが、どうしても言えない。

 まあ、どうにかなるだろう。


 ここで、夕食はお開きになった。


 


 次の日の授業の始め、ジョゼット立ち合いのもとで、アントワーヌからお茶会のテーマの説明をしてもらった。


「La récolte, c’est la saison des fruits et des légumes. On les ramasse à la fin de l’été ou en automne.」

(テーマは「収穫期」です。果物や野菜の季節ですね。夏の終わりから秋にかけて収穫をします)


 収穫期をテーマにした格好?

 具体的には何をどうしたらいいの?



「Mademoiselle. Pour l’instant, vous n’avez rien. Nous avons trois jours. Il faut trouver quelque chose. 」

(お嬢様。今のところ何もないですよ。3日あります。何か探さなくてはいけません。)

 こう言い残してジョゼットは、部屋を飛び出していった。


「Ce n’est pas difficile. Ça va aller.」

(難しいことじゃないです。大丈夫でしょう。)

 一方、アントワーヌの方はのんきなものだった。



 授業中にジョゼットが何か見つけてくれることを祈りながら、私の方でもアイディアを絞りだしてみる。


 授業に集中していないと小言をもらったが、それどころではなかった。


 エレオノールが多分ヒントをくれていたはずなのに、

 アントワーヌはその事実すら、すっかり忘れていた。


 物知りなアントワーヌでも、

 テーマのあるお茶会のことは何も知らない。

 収穫期らしい装いが何かも、分かっていない。


 今回、先生は全く役に立たない。



 ジョゼットと頑張るしかない――。


*1 «L’idée est simplement de l’évoquer à travers quelque chose dans votre tenue. Par exemple, une couleur… un détail… Certaines choisissent des tons profonds, comme le rouge ou le vert. D’autres portent un petit motif… une grappe de raisin, par exemple. Rien de strict, bien sûr. Il suffit que cela soit… reconnaissable par ceux qui y prêtent attention.»

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