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25 満は持さないけれど

※25話以降は週2回更新(火曜・木曜)になります。次回からはアントワーヌ視点の話が2話続きます。


*付きのセリフは、本来はフランス語で交わされている会話です。下に原文も載せていますので、雰囲気もあわせて楽しんでいただければ嬉しいです。

再試験を言い渡されてから10日が経った。


あれから連日、アントワーヌ先生を連れて、敷地内の至るところで、色んな人に話しかけ回った。


今まで、英会話の授業などでも、間違えたら…と尻込みしていたが、アントワーヌ先生が、私の誤りを予告しておいてくれているので、こちらも気にすることなく話せる。たとえ間違えても、その場で訂正してくれる先生付き。


――本当に、恵まれた環境にいると思う。



相変わらず、私はミスの天才だった。


昨日の授業でも、バッチリやらかしている。可愛らしい髪飾りの意匠をAdorableと褒めたら、アントワーヌ先生から試験では使わないように言われてしまった。やはり、子供っぽいニュアンスが問題らしい。


大人にも「かわいい」は、この世界にはまだ早すぎるらしい。



そして残る課題はひとつ。「ヴァルドールをどう思うか」。


正直、まだ分からない。だって、ヴァカンスでの遠出を除き、ボーモン家の領地から出ていないから。別に文句はないけれど、ボーモン家のことしか語れない。


理不尽なことも多いし、わかっていないことも多い。でも、戻る手段が現時点でない以上、現状を受け止めて、ここで生きていくしかない。


そんな重い答えは求めていないだろうし、言語レベルが低いので、大したことは答えられない。

それでも、ぐるぐると考えてしまう。




時間になり、再びドアをノックした。


「Entrez.」(どうぞ)


そこにはマキシミリアンが座っていた。何も変わっていない。


自己紹介を終え、質疑応答に入った。


「Comment apprenez-vous le français ?」

(どうやって、フランス語を勉強しましたか?)


「まず、ペンと紙を使って、フランス語を勉強します。でも、それではダメでした。だから、毎日他の人、たくさんの人と話しました。私が間違えたときは、先生が直します。」*1


「Très bien. Est-ce que c'était difficile ?」

(とてもいいですね。難しいですか?)

「Oui. Je fais beaucoup d'erreurs. Mais c'est intéressant aussi.」

(はい、たくさん間違えました。でも、面白かったです。)


「 Qu’est-ce qui était difficile pour vous ? 」

(どこが難しかったですか?)

「Je n'ai pas beaucoup de mots. Donc... c’est difficile de trouver un bon mot. 」

(語彙が多くないです。だから、適当な言葉を見つけるのが難しいです。)


「 Qu’est-ce qui était intéressant pour vous ? 」

(どこが面白かったですか?)

「La différent nuance entre le français et le japonais.」

(日本語とフランス語のニュアンスの違いです。)


「Que pensez-vous de l'hôtel Beaumont ?」

(ボーモン邸についてどう思いますか?)

「Il est beau et confortable. Et... les gens sont sympathiques et gentils」

(きれいで快適です。それに、人が感じがよく、優しいです。)


「Merci.」



自分でも驚くくらい、きちんと答えられた。嘘もない。言いたいことが、自然とフランス語で出てきた。でも、油断大敵なのは次だ。



またもやお茶会らしい。そこにある人物が入ってきた。


侯爵夫人。


彼女がお相手のようだ。この1週間強、たくさんの人に協力してもらったが、さすがにマキシミリアンと侯爵夫妻は避けていた。マキシミリアンよりも馴染みもなければ、褒め言葉の準備もできていない。


前回とは異なり、本格的なお茶の準備が目の前で進められ、緊張が高まってきた。



「Commencez.」

――始まった。


「Merci pour votre invitation, madame la duchesse.」

(ご招待頂きありがとうございます、侯爵夫人。)

「来てくれてありがとう。舞花と呼んでいいかしら? 私のことは、エレオノールと呼んでくださいね。さあ、座ってください。」*2


ボーモン邸に住んで早3ヶ月。初めてまともに言葉を交わした。時々、晩餐時に目が合うと微笑んでくれるが、それ以外は何も交流がなかった。

話すには少し遠い距離にいるエレオノール夫人は、斜め前にいるはずなのに、まるでスクリーンに映るおとぎ話のお妃様のように、遠い存在だった。


「Aimez-vous le thé?」

(お茶は好きですか?)

「Oui, j’aime bien le thé. C’est… rela… rela…」

(はい、お茶が好きです。)


リラックスが邪魔をして、別の単語が出てこない。


「C’est chaud.」(熱いですから。)

「C’est vrai. Grâce à sa chaleur, le thé est reposant.」

(本当ですね。その温かさのおかげで、お茶は落ち着きますよね。)


Reposant(落ち着く)


それは、私が探すのを諦めた言葉だった。

フォローが、さり気なさすぎる。


「Et vous?」

聞き返してみた。


「私もお茶が好きなんです。もちろん純粋に茶葉を楽しむのもいいのですが、色々と混ぜたりしたものもいいですよ。今回用意させたものはリンゴとシナモンを混ぜたもので、お口に合うといいのですが。」*3


カップに紅茶が注がれた。

リンゴと何かが入っているらしい。いつもより赤みがかかった色やスパイスの香りがする。


「Ça sent bon. Et la jolie couleur...」

(いい匂いです。それにきれいな色...)


お砂糖をひとかけら入れて、混ぜてから一口飲んだ。

美味しい。


「C’est bon.」


言葉が思わずこぼれ出た。


「Vous vous plaisez ici ?」

(ここは気に入っていますか?)

「Oui. Il n’y a pas de souci. Les gens sont sympathiques et gentils.」

(はい。問題がありません。皆さん、感じが良く、優しいです。)

「C’est très bien.」


「Terminé」


――試験が終わった。


「Maïka,」

振り向くと、マキシミリアンがこちらを見ていた。


*1 «Au début, j'apprends le français... avec le stylo et la papier. Mais, ça ne marche pas. Alors, je parle en français avec des gens, ...beaucoup de gens, tous les jours. Quand je fais des erreurs, mon professeur... les corrige.»


*2 « Merci d’être venue. Puis-je vous appeler Maïka ? Et je vous en prie, appelez-moi Éléonore. Je vous en prie, asseyez-vous. »


*3 « J’aime beaucoup le thé, moi aussi. Bien sûr, on peut apprécier le thé tel quel, mais les mélanges sont également très intéressants. Celui que nous avons préparé aujourd’hui est parfumé à la pomme et à la cannelle. J’espère qu’il vous plaira. »

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