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24 「古い」にだって多様性

*の部分は、本来はフランス語で交わされている会話です。下に原文も載せていますので、雰囲気もあわせて楽しんでいただければ嬉しいです。

「Josette, le thé ce matin est bon. Et... 」

(ジョゼット、今朝のお茶は美味しいですね。それに...)


 香りがいい、ってどういえばいいんだろう?

 アントワーヌ先生の方を見て、匂いをかぐようなジェスチャーをした。


「Ça sent bon.」(いい香りです)

 ひとまず先生の言ったことをそのままくり返す。


「J'aime bien cette tasse. Elle est jolie. 」

(このカップ好きです。きれいです。)

「Merci, mademoiselle.」


 一連の会話が終わり、アントワーヌ先生の方を向く。フィードバックの時間だ。


 まずは手持ちの黒板に、「香りがいい」のフランス語を書いてもらう。それを写しながら、疑問をぶつけていく。紙を指さし、「sent」の意味を尋ねた。


「C'est le verbe "sentir".」(動詞「sentir」ですよ)

「C’est bien d’avoir utilisé « j’aime bien quelque chose ». C’est naturel.」

(「何が好きです」という表現はよかったです。自然でした。)

 

 こんなジョゼットを巻き込んだやり取りが、朝から続いていた。



 ジョゼットにも褒めてもらう。

「今日のドレス、すてきですね。黄色水仙の色がよく似合っています。」*1


 彼女は褒めるのが上手い。お世辞でも嬉しい。今度は私の番だ。

「Ta coiffure est mignonne aujourd'hui.」

(今日、髪型がかわいいですね。)


 笑顔が固まり、ジョゼットの首が傾いた。


「舞花、まず髪型に対して「かわいい」は言えないですよ。それに、女性に対して適当な言葉でもありません。子どもに使う言葉ですからね。」*2


「かわいい」が、褒め言葉でない?

「かわいい」が、使えない?


 別に私は「かわいい」もの好きというわけではない。それでも、「かわいい」と思うことはあるし、そうしたら「かわいい」と言いたい。毎日のようにカルチャーショックを受けているが、これは地味にガツンときた。


 とにかく、「mignon」に代わる、「かわいい」に近い単語を探す。褒め言葉の語彙に乏しいアントワーヌ先生を横に、ジョゼットに必死に絞り出してもらい、見つかったのがこの2つ。

 Charmant →チャーミング 

 Adorable →愛らしい

 とにかく、子ども以外に「かわいい」と思った時の逃げ道は確保した。




 午後からは、教室の外にも、アントワーヌ先生を携え、くり出した。昨日、アントワーヌ先生にお願いして、ボーモン家にいる人たち相手に会話の練習をする許可をもらっている。仕事の手を止めて申し訳ないが、ここはフランス語ネイティブの人たちに胸を借りるしかない。


 早速、年配の庭師さんを捕まえた。アントワーヌが事情を説明する。まずは自己紹介。自分のが終わった後に「Et vous ?」で聞き返す。今回は、Vousで話すことに慣れるために、Vousを使う。



「Je m'appelle Paul. J'ai 57 ans. Je suis jardinier chez Beaumont depuis 42 ans. 」

(私は、ポール。57歳だ。ボーモン家で42年間庭師をやっている。)


 この道40年の大ベテランだった。それでも57歳なんて、仕事を始めるのが早いのだろう。



「Est-ce que vous êtes le plus vieux ?」(一番年上なのですか?)

「Attendez, Maïka.」


 アントワーヌ先生の静止がすかさず入った。

 一瞬止まったポールが大きな声で笑い始めた。


「Ah, ça alors !」 (なんてこった!)

「On évite de dire "vieux" pour une personne. C'est trop direct. 」

(人に対して"vieux"は避けた方がいいですね。直接的すぎます。)


 直接すぎ?意味が分からない。


「Désolée, Paul. Est-ce qu’on peut dire «vous êtes le plus ancien» ?」

(«vous êtes le plus ancien»って言えますか?)


「Oui, mais ça change le sens.」

(ええ、でも意味が変わりますよ)

「庭師の中で誰が一番ベテランか聞くのにはancienを使いますが、それは雇用期間に対してです。年齢には使えません。単に一番年上か聞くのであれば、 âgéを使います。では、もう一回聞いてみましょう。」*3


「Vous êtes le plus âgé ?」

「Oui. Je suis le plus vieux jardinier chez nous.」

 私は皆と笑いながらも、マキシミリアンの言ったことを思い出す。今回、間違えたのが笑ってくれるポールさんで本当に良かった、と密かに冷や汗をかいた。




 そして、お茶の時間になる。

 今度こそという思いで、めげずに挑んだ。


「Cette théière vieille est belle.」


 給仕してくれたジョゼットに話しかけると、彼女の眉間にしわがよった。また地雷を踏んだらしい。

 私は「そのアンティークのティーポットはきれいですね」というつもりだった。また、vieille だろうか?


 ここに来て初めてアントワーヌ先生からため息が出た。


「その短いフレーズには、いくつもの間違いが含まれています。自分の仮説が正しいか確かめるためには、もう少し似たような文を作って地道に検証した方がいいですよ。」*4


「まず、vieuxの形容詞は名詞の前に置くことが多いです。だから、正しい語順は、「Cette vieille théière est belle」となる。次に、vieuxの語にはネガティブなイメージがあるから、褒め言葉にはふさわしくありません。さらに、物に対してvieux とつけると、古いや使い古しのという意味になります。あなたはどうして、古いティーポットをきれいだと言ったんですか?」*5


「Quand on utilise beaucoup une théière, elle change. Donc, une vieille théière est belle.」

(たくさん使われてくる。すると、新しいときと魅力が変わる。だから、古いものは美しい)


「C’est intéressant. Je n’ai pas ce point de vue.」

(面白いですね。その観点はありませんでした)


「我々の文化では、古くても価値があるものは、その技術自体に価値のあるものです。時代を越えることに価値を見いだしていません。日本では、そこを愛でるんですね。実に興味深いです。」*6


 要は、私の言った「Cette théière vieille est belle.」は、

 語順もダメ

 語のチョイスもダメ

 さらには褒めるポイントもダメ

 ダメのフルコンボだった。


 これじゃあ、私のフランス語に慣れているジョゼットだって、眉をひそめたくなるだろうし、先生だってため息をつきたくなるもんだ。



 私には、間違える才能がある――


 と強く思った。

*1 «Votre robe d'aujourd'hui est élégante. Cette couleur de jonquille vous va très bien.»


*2 «Maïka, d’abord, on ne dit pas “mignon” pour ça. Et puis, pour une femme, ce n’est pas vraiment le bon mot. On l’utilise plutôt pour les enfants.»


*3 «« Pour parler de l’expérience parmi les jardiniers, on utilise “ancien”, mais cela renvoie à la durée de service. On ne l’emploie pas pour l’âge. Si vous voulez simplement demander qui est le plus âgé, il faut utiliser “âgé”. Essayez encore une fois. »


*4 «Cette phrase courte contient plusieurs erreurs. Pour vérifier si votre hypothèse est correcte, il vaudrait mieux construire d’autres phrases similaires et les examiner progressivement. »


*5 « D’abord, l’adjectif “vieux” se place le plus souvent avant le nom. La forme correcte serait donc : “Cette vieille théière est belle.” Ensuite, “vieux” a souvent une connotation négative. Ce n’est donc pas très approprié pour un compliment. De plus, appliqué à un objet, “vieux” évoque quelque chose d’usé ou de trop ancien. Pourquoi avez-vous dit qu’une vieille théière est belle ? »

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