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19 君と呼んだ代償

***で囲まれた部分は、本来はフランス語で交わされている会話です。

下に原文も載せていますので、雰囲気もあわせて楽しんでいただければ嬉しいです。

「Antoine, 」

「Que ce soit moi, passe encore. Mais face à d’autres personnes… à des nobles, ou pire, à des membres de la famille royale, ce genre d’excuse ne serait pas toléré. 」


その後、本当の家族会議が始まった。マキシミリアンがアントワーヌに静かに問いかけ、アントワーヌは弁明しつつも、あらかた同意している感じだ。そこに侯爵夫妻も加わる。ものすごく重要な話し合いが行われていることは分かった。


でも、そのきっかけはただの言い間違い。

初心者のミス。

しかもたった一文字。



私の代わりに責めらるアントワーヌ先生への申し訳ない気持ち

大げさすぎるだろうという不条理な気持ち

そのせめぎ合いの上に、場の深刻な雰囲気が重くのしかかり

息が詰まる。


「Oui, Maximilien. C’est raisonnable.」

どうやら話し合いが終わり、その後、何事もなかったように夕飯が再開した。


***


「アントワーヌ、」


マキシミリアンが、静かに、しかし揺るがぬ声音で口を開いた。


「今回の相手が私であったからこそ、まだ見過ごせる。だが、他の相手――貴族、あるいはそれ以上、王族に対して同じことをすれば、そのような言い訳は、決して許されない。」


一度言葉を切り、同意を求めるかのように軽く首を傾げる。


「君も、分かっているはずだ。」


言の刃先が、アントワーヌの首元に触れる。そこに侯爵が口を挟んだ。


「その通りだ。わずかな誤りが、大きな結果を招くこともある。たとえ彼女がフランス語が拙くとも、看過できる誤りとそうでないものの区別はしなければならない。」


アントワーヌは、わずかに頭を下げた。


「承知しています、兄上。ですが、彼女のフランス語が向上していることも、また事実です。ただ、その時機は熟していない。」


マキシミリアンは視線を逸らさない。


「では、進捗をどうやって速めるつもりだろうか。時間は待ってくれない。遠いようで、すぐに来てしまう。同じ過ちを繰り返すことは許されない。」


侯爵夫人が、やわらかな声で会話を継ぐ。


「けれど、彼女の努力まで否定してしまうのは、少し惜しい気もするわ。」

短い沈黙が落ち、――やがて、マキシミリアンが再び口を開いた。


「わかった。十日後、口頭試験を行う。」

「異論はないな。」


アントワーヌは即座に答えた。


「ええ、兄上。妥当だと思います。」


***


次の日の授業は、いつもと同じ部屋で。同じ時間に、同じ言葉で始まった。


「Asseyez-vous.」


言葉は同じだけれど、響きがもつ緊張感が違った。


「D’abord, est-ce que vous comprenez ce que vous avez fait hier ? Expliquez-moi.」


聞き取れた単語で、昨日の説明を求められていることがわかった。やっぱり、重大な過ちとして事が運んでいるようだ。忘れもしない――。


「Prenez et prends...」

「C’est exact.」


そのあと、アントワーヌ先生の説明という名のお説教が始まった。残念ながらよくわからない。日本語が不自由な外国人が偉い人相手に敬語が上手く使えなかったところで、それはしょうがないと思っていた。ただ、ここではその認識はないようだ。たとえフランス語の初心者だろうが、Vousを話す相手にTuの活用で話すことは許されない。私の予想より10倍以上重く受け止められている。


「Maïka.」


名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。アントワーヌは、私を見ていた。


「Dans dix jours, ******.」


10日後。それだけが分かった。でも、再び危機に立たされていることだけはわかる。しかも、今回は向こうから一方的に押し付けられたのではなく、私の身から出た錆だ。これは乗り越えなければいけない。

そして、アントワーヌの説明が続いた。


分かったのは、10日後に口頭面接があるということ。

この面接に合格しなければいけないらしい。面接の意図、そこまでは分からなかった。ただ、避けて通れないということだけは確かだ。内容は、簡単な自己紹介。質疑応答。そして、最後にシチュエーショントークの3つ。


「Compris ?」


分かったかと聞かれ、反射で「…Oui.」と答えた。

Maximilien: «Antoine,»

« Que ce soit moi, passe encore. Mais face à d’autres personnes… à des nobles, ou pire, à des membres de la famille royale, ce genre d’excuse ne serait pas toléré. »

« Vous le savez aussi bien que moi. »


Le duc: « Il a raison. La moindre erreur peut être lourde de conséquences. »


Antoine: « Je le sais, Maximilien. Cependant, il faut aussi reconnaître qu’il y a des progrès. »


Maximilien: « Dans ce cas, comment comptez-vous accélérer ces progrès pour éviter que cela ne se reproduise ? »


La duchesse: « Mais il serait dommage d’ignorer ses efforts. »


Maximilien: « Très bien. Dans dix jours, je lui ferai passer une épreuve orale. »

« Cela vous paraît-il raisonnable ? »


Antoine: « Oui, Maximilien. C’est raisonnable. »

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