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六十歳、追放されましたが遅すぎることはありません 〜家族に捨てられた私を覚えていたのは、あの子だけでした〜  作者: snow☆rabbit


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最終話 覚えていてくれた味

扉の鈴が、小さく鳴った。


 静かな音だった。


 でも、それだけでわかった。


 顔を上げる。


 そこに立っていたのは——


 「……おばあちゃん」


 小さな声。


 でも、はっきりと届く。


 時間が、少しだけ止まる。


 「小春……」


 名前を呼ぶ。


 それだけで、胸がいっぱいになる。


 小春は、少しだけ緊張した顔で立っていた。


 でも、その目はまっすぐだった。


 「来てくれたのね」


 ゆっくりと歩み寄る。


 一歩ずつ。


 距離が縮まる。


 「うん」


 小春がうなずく。


 それだけで、十分だった。


 「……ごはん、ある?」


 少し遠慮がちな声。


 でも、その言葉に、思わず笑ってしまう。


 「ええ、あるわよ」


 すぐに答える。


 そのために、ここにいるのだから。


 キッチンに立つ。


 手が、自然に動く。


 何度も繰り返してきた動き。


 でも、今日は違う。


 “選んで作っている”味。


 湯気が立つ。


 あの頃と同じ香り。


 でも、今は違う。


 器に盛る。


 小春の前に置く。


 「どうぞ」


 小春が、一口食べる。


 その瞬間——


 表情が、ふっとほどける。


 もう一口。


 ゆっくりと。


 味を確かめるように。


 「……これ」


 小さくつぶやく。


 そして——


 「おばあちゃんの味」


 その一言で、


 胸の奥があふれる。


 涙が、こぼれそうになる。


 でも、こらえる。


 今は、この時間を大事にしたい。


 「また、来てもいい?」


 小春が聞く。


 まっすぐな目。


 迷いはない。


 少しだけ息を吸う。


 そして——


 「もちろんよ」


 やわらかく、でもはっきりと答える。


 それが、今の自分の選択だった。


 小春が笑う。


 その笑顔を見て、思う。


 ——私は、ここにいていい。


 遅すぎた人生なんて、どこにもなかった。


 そして私は、これから初めて、


 自分のために生きていく。

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