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六十歳、追放されましたが遅すぎることはありません 〜家族に捨てられた私を覚えていたのは、あの子だけでした〜  作者: snow☆rabbit


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第10話 失ってから気づくということ

家の中が、やけに静かだった。


 前から静かだったはずなのに、


 今はそれが、妙に引っかかる。


 テレビの音が、浮いている。


 食器の触れる音が、響く。


 「……なんか違うな」


 思わず、口に出る。


 美咲が、少しだけ眉を動かす。


 「何が?」


 「味」


 短く答える。


 味噌汁をもう一口飲む。


 やっぱり違う。


 まずいわけじゃない。


 でも、足りない。


 何が足りないのか、うまく言えない。


 「前はこんなんじゃなかっただろ」


 言ってから、気づく。


 “前”が何を指しているのか。


 少しだけ、空気が止まる。


 小春が、箸を止めていた。


 「どうした?」


 声をかける。


 小春は、少し考えてから言う。


 「この前、行ってきた」


 「どこに」


 「ばあちゃんのとこ」


 手が止まる。


 「会えたのか?」


 少しだけ強い声になる。


 小春は、首を横に振る。


 「いなかった」


 それだけ。


 でも、その言葉が妙に重い。


 「でも」


 小春が続ける。


 「においがした」


 「におい?」


 意味がわからない。


 「ばあちゃんのごはんのにおい」


 その瞬間、頭の中に何かが浮かぶ。


 何気なく食べていたもの。


 当たり前すぎて、意識すらしていなかったもの。


 それが、今はもうない。


 「……また行くのか」


 聞く。


 小春は、迷わずうなずく。


 「行く」


 短い答え。


 でも、はっきりしている。


 その姿を見て、ふと思う。


 ——こいつは、ちゃんと選んでる。


 自分が大事だと思うものを。


 俺はどうだ。


 何を選んできた。


 都合のいい理由を並べて、


 本当に大事なものから目を逸らしていただけじゃないのか。


 夜。


 台所に立つ。


 味噌汁を作る。


 適当に、やってみる。


 一口飲む。


 ——違う。


 何が違うのかは、わからない。


 でも、確実に違う。


 その“違い”だけが、はっきりと残る。


 「……遅いよな」


 つぶやく。


 誰もいない台所で。


 答えは返ってこない。


 それでも、わかっている。


 ——もう一度、会わなければならない。

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