第7話 パラグラフ・ライティングの具体例 英検1級の簡易版
英検1級相当の内容の英作文・エッセイを、語彙を中高生レベルでチューニングして、語数を減らしたものでご紹介する。
なぜ、突然英検1級と思われるだろう。
日本人がパラグラフ・ライティングを学ぶ数少ない機会と言っていいのが、英検なのだ。
英検は、3級からステップアップしながら、この作法を英作文を通して指導している。
そして、英検1級に到達して、ようやく典型的な「パラグラフ・ライティング」の形式になる。
つまり、英語圏の子どもたちが早い段階から学ぶ Five-Paragraph Essay の基本構造と同じ型に触れることになるのだ。
もちろん、書いている内容そのものが小学生レベルという意味ではない。扱うテーマや求められる語彙、論証の深さははるかに高度である。
ただし、「序論で予告し、本論で証明し、結論で回収する」という書き方の基本設計図という意味では、ようやくスタートラインに立つことになる。
唯一の機会である以上、この英検の例を外すわけにはいかない。
英語が苦手と思われる方は、英文はまるっと飛ばして、解説に進んでほしい。
■ 典型的なパラグラフ・ライティングの例
例えば、「政府は環境問題への対策を強めるべきか」と設問にあるとすると、解答の骨格はこうなる。
I think governments should do more to protect the environment. This is because environmental problems affect our health, the economy, and future generations.
First, environmental problems can harm people's health. Air pollution and dirty water can cause serious diseases. Therefore, governments should take action to improve environmental conditions.
Second, environmental protection can help the economy. New technologies often create jobs and attract investment. As a result, environmental policies can support economic growth.
Third, governments have a responsibility to protect future generations. If we do not solve environmental problems now, young people will face greater difficulties in the future.
For these reasons, I believe governments should strengthen environmental policies. Doing so will protect people's health, support the economy, and create a better future for the next generation.
私は、政府は環境保護のためにもっと努力すべきだと考えます。なぜなら環境問題は、人々の健康、経済、そして将来の世代に影響を与えるからです。
第一に、環境問題は人々の健康を害する可能性があります。大気汚染や水質汚染は深刻な病気の原因になります。そのため、政府は環境改善のための対策を取るべきです。
第二に、環境保護は経済にも良い影響を与えます。新しい技術は雇用を生み、投資を呼び込むことがあります。その結果、環境政策は経済成長を支えることにもつながります。
第三に、政府には将来の世代を守る責任があります。今環境問題を解決しなければ、若い世代は将来さらに大きな問題に直面することになります。
以上の理由から、私は政府は環境政策を強化すべきだと考えます。それは人々の健康を守り、経済を支え、次の世代のためにより良い未来を作ることにつながるからです。
■ 英検1級レベルの論理構造として見るポイント
英検1級のエッセイ採点で重視されるのは、難単語の数よりも、まず論理構造である。
このサンプルの最大の特徴は、「主張を1つ提示し、その主張を3つの理由で支える」という、英語圏で標準とされる Five-Paragraph Essay (5段落構成)の基本形を忠実に再現している点にある。
◆ ① 序論は「予告編」
序論では主張の後に、health(健康)、economy(経済)、future generations(将来世代)という「3つの理由」を事前に予告している。
◆ ② 「本論1」は「健康ブロック」
「本論1」は「健康」だけを扱う。内容は、大気汚染・水質汚染・健康被害だ。
ここで注目してほしい。
日本人の感覚なら、「なぜ水質汚染が起こるのか」「有害物質がどう影響するのか」という背景や解説(周辺知識)を全部並べたくなるところだ。
しかし、この英検の例文を見ると、「大気汚染や水質汚染は深刻な病気の原因になります」という共通知識(事実)だけが、解説なしにポンと置かれている。
これこそが、英語圏の作法である。日本人の「全部置き文化」をぐっとこらえ、余計な解説を省いて論理のパーツとして事実だけを配置しているのだ。
もちろん、「経済」や「将来世代」の話はこの段落には持ち込まない。理由①を説明する段落なら理由①だけを書く。
◆ ③ 「本論2」は「経済ブロック」
「本論2」は、「経済」だけを扱う。内容は、新技術・雇用創出・投資・経済成長。
「本論2」で、「健康問題」には戻らない。「将来世代」の話もしない。
「パラグラフ・ライティング」では、別々の要素を混ぜることを嫌う。
「別のブロック」として単独で語れという強制力が働く。
◆ ④ 「本論3」は「未来世代ブロック」
「本論3」は、「将来世代」だけを扱う。
「今対策をしないと、将来さらに大きな問題になる」という一点のみで、健康や経済の話は出てこない。
◆ ⑤ 結論は「回収」
結論では新しい話を追加せず、序論で予告した「健康・経済・将来世代」を別の表現でまとめ直す。
【序論で予告→本論で証明→結論で回収】という構造になっている。
■ 日本語話者が違和感を抱きやすいポイント
例にあげた英文では、「ただし」「一方で」「もちろん」が存在しない。
日本人なら、「ただし、新技術の導入にはコストもかかる」などと、親切心で横道(別の視点)を書き足したくなる。
しかしパラグラフ・ライティングでは、そうした横道は論点を混ぜる行為になってしまう。
理由①を説明する段落なら理由①だけ。これが基本ルール。
■ なぜAIの文章は「ツルツル」に見えるのか
英文の本論内では、反対意見もなければ、感情の揺らぎもない。
日本人がやりがちな「周辺知識の全部置き」や「親切な背景解説」もなく、健康、経済、将来世代という理由が、独立した段落で一直線に証明されているだけである。
しかし、この「寄り道のなさ」「全部置きをしない潔さ」こそが、英語圏のパラグラフ・ライティングの理想形である。
そして現在のAIは、こうした英語圏の文章文化を大量に学習して育っている。
私たちが英検の英作文で苦労して学ぶあの独特のルールが、AIにとっては標準装備されている。だから、日本語で文章を書かせても、無意識のうちに「一直線で無駄のない論理的な文章」を作ってしまう。
これが、AIさんたちの書く文章が日本語になった時に「ツルッツル」になってしまう、本当の理由なのだ。




