第13話 フランス編「結論から言うな、野暮な奴め」
番外編:AIのEUでの苦労物語 ~英米型ロジック、旧大陸で撃沈する~
「結論から申し上げます。理由は3つあります」
AIに何かを問いかけたとき、お馴染みの回答スタイル。
英米型のビジネス文書や小論文としては100点満点。
しかし、フランスの知識人や学生に見せると、深い溜息をつかれてしまう。
「なんて味気ない。エレガンス(優雅さ)の欠片もないね」
フランス人にとって、知性とは「いかに早く正解に辿り着くか」ではない。
彼らが大切にしていることは「思考の過程をいかに深く、多角的に楽しむか」
へぇ、そうなんだ。おフランスでは、思考を巡らすのが好まれるんだ。( ..)φメモメモ
フランスのバカロレア(大学入学資格試験)などで徹底的に叩き込まれる「ディセルタシオン(Dissertation)」という伝統的な論述スタイルが、その最たる例だ。
ディセルタシオンでは、最初に結論を言うのは「野暮(不躾)」とされる。
まずはあるテーマについて「一つの立場」を提示し、次にそれと真っ向から対立する「反論」をぶつける。
そして最後に、両者の矛盾を乗り越えた「より高い次元の結論」へと昇華させる。
いわゆる弁証法ですね。
なるほど、文章を書きながら、思考の過程を書いていくのか。
英語圏的には、思考が終わった後に、結果を書くってスタイルみたいだから、そりゃおフランススタイルとAIの結論一直線はぶつかるね。
フランス人は、この「対立する意見をぶつけ合い、火花を散らす過程」に美しさと面白さを見出す。
エスプリでんなぁ。
ところが、AIはこの「対立」や「回り道」が大の苦手。
シリコンバレー生まれのAIは「ユーザーに早く、安全な答えを届けること」に最適化されている。
わざわざ対立を煽るようなことはせず、最初から「両方の意見を足して2で割ったような、安全で当たり障りのない結論」を最短距離で出してしまう。
この叙述スタイルが、フランス人には「ツルツルして退屈(Sans couleur=無色透明)」に映る。
「議論の摩擦を楽しもうとしないなんて、お前の文章はツルツル滑ってどこにも引っかからない!」
と、フランス人に怒られるAI。
AIが良かれと思ってやった「結論ファースト」は、フランスの知の伝統においては、単なる「思考のサボり」とみなされてしまうのでした。
次回は、AIがさらに深い森に迷い込む「ドイツ編」をお届け




