第二夜 夢④
良子は振り向くとその目には大粒の涙が溜まっており、勇の姿を確認すると涙が頬を伝っていった。
「勇さん、和樹が起きないんです……息はしているんです。なのに、ずっと起きる気配がしなくて、何かの病気なのでしょうか!」
良子は取り乱し勇に縋りついた、勇は落ち着かせるように肩を抱いてやるとそのまま和樹の側に寄った。
規則正しい寝息をたてて、微かに微笑み眠っている。床に跪いて息子の頬を撫でる、とても温かく柔らかい、忙しいからと言って相手しにていない間に随分と成長したものだと見つめ、そして寝巻きから覗く首の異変に気付くと、手を伸ばし肌蹴させ開き目を疑った。
「なんだこれは……」
右肩から首にかけて黒と藤色の不思議な紋様が浮かび上がり、微かにそれは動き体に広がろうとしていた。
「どうかしたのかい?」
廊下からサチコが顔を出し、息子夫婦の尋常ではない雰囲気に顔が険しくなり和樹に近付き様子を確認し更に顔を歪めた。
「こりゃ……」
「どうしましょう、この子は何かの病気なのでしょうか?」
うろたえる良子の頭を優しく撫でてやり、勇を一瞥してから再び和樹を見る。
「夢の迷い人だ、この子を起すには紡ぎ師様に頼るしかない。しかし、この時代にはその存在は探すのが難しい……」
「紡ぎ師?」
勇は何処かで聞いた言葉にサチコの顔を見た。
「夢と現の狭間に生きる方々の事さ……一度は皆お会いしているんだけれど、目覚めるとその方々の存在だけが消えている、では何故こういう話が伝わっているのか?それは分からないけどね、さて……どうしたものか」
和樹の頭を愛おしそうに撫でると、サチコは何かを思い出したように廊下に向かった。
「母さん?」
「和樹はそのままにしておきなさい、大丈夫。此処は私に任せなさいな」
微笑みゆっくりとした足取りで自室に向かった、そこには今朝届いたばかりの着物が衣桁に飾られている。
「貴女様」
着物の前に座り話しかける、着物はただ目の前に鎮座し続けているだけだが、サチコには彼女の存在が近くにあるのを感じていた。
「私の孫が迷い人になってしまったようです、もし紡ぎ師様との繋がりが残っておいででしたら伝えてはくださいませんか?」
静寂な部屋には微かに桜の香りが漂いだす、すると共に背後に人の気配を感じサチコは畳みに三つ指を立てて頭を下げた。
「宜しくお願い致します、貴女様」




