83話 常人の外側の学園アイドル
私と御手洗先輩は野次馬達の元を離れ、人気の少ない場所までひとまず移動を終える。
「本当に申し訳ないな北條さん。こんな事に巻き込んでしまって……」
「いえ、その点については先輩が謝罪する必要性はありませんよ」
御手洗先輩は自身のいざこざに私を巻き込んだ事を申し訳なく思っているのだろう。元凶は山中先輩だというのにも関わらず私に頭を下げる。
実際にあの騒ぎに巻き込まれた事は私も気にはしてない。だがそれよりも私にはどうしても確認しておきたい事があった。
「あの、御手洗先輩。破局したばかりのあなたにこんな事を尋ねるのは失礼だと存じますが、それでも訊いていいでしょうか?」
「そんな気を使わないでも大丈夫だよ。それで訊きたいことって?」
「………先輩……本当はあなた……百地さんの事が好きだったんじゃないんですか?」
私のその問いかけに、質問前は平然としていた彼の表情に動揺が浮かぶ。やがてその顔は寂しげなものへと変わっていく。
「どうして……そう思ったのか訊いても?」
「先程の山中先輩との口論が理由です。明らかに不自然な点がありました」
切なそうな色を隠し切れない表情のまま彼は理由を尋ねる。
その反応を見るだけで、私の中の疑念はより一層の確信を帯びた。
「山中先輩との口論の中、あなたは自分の事を悪く言われるより、この場に居ない百地さんが侮辱されている事実に激しい怒りを露わにしていましたね。あの時の先輩の怒り、あれはただ幼馴染を馬鹿にされただけの熱量だと私には思えないんです。本当に大事に思っている人が侮辱された事で発せられた怒り……私にはそう思えて仕方がなかったんです」
彼の口から真実を聞き出したく、あえて強気な口調で疑念を投げる。
しばしの間、御手洗先輩は私から視線を逸らし続ける。だがやがて諦めたかのように口を開いてくれた。
「こっちの事情で君には迷惑を掛けてしまったからね。質問には答えるよ」
御手洗先輩は近くのベンチに腰掛ける。
そして遠い目をしながら自分の本音について語りだした。
◇◇◇
ゲームセンターの外では、誠也は星良と同じ学園アイドルの1人である小日向瑛美から意味不明なお願い事をされていた。
「ねーどうかな誠也君? 私とお試しで付き合ってみない?」
この人は一体全体何を言っているんだよ?
小日向先輩の唐突な告白に俺の思考は完全に混乱していた。
学園の有名美少女からの交際の申し込み、普通の男子なら即決でOKを出すだろう。だが俺には既に星良という大切な恋人が居る。当然だが選択肢はNOの一択と決まっている。しかもだ、彼女は既に俺と星良が交際している事実を知っているのだ。その上で自分を恋人にしてほしいと二股宣言しているのだ。
眼前の小日向先輩は相も変わらずニコニコと笑って俺の答えを待っている。
だが彼女の口元は笑っているが、その瞳は黒く濁っている。
「ねえ誠也君、今すぐここから逃げた方が良くない?」
隣で一緒に話を聞いていた百地がそっと囁きかけてくる。
彼女も目の前の小日向先輩の異常性を肌で感じ取ったのだろう。
「星良の帰りなら私が残ってここで待つよ。だから君は今はこの場から離れた方がいいって。この人……絶対に危ないよ……」
俺にこの場から一刻も早く退散する事を百地は進めてくる。
友人の気遣いには感謝するが、ここで百地と彼女を二人きりにする。それはそれで俺が不安だった。何よりもゲームセンターから出てきた星良とこの人が遭遇するのを俺の本能が危険だと促す。
百地に大丈夫だと告げ、俺は先輩へと口を開く。
「先輩……一体何が狙い何ですか?」
「ん? 何が狙いって……どういう意味かな?」
俺の投げた疑問に対して彼女は不思議そうにコテンと首を傾げた。
首を傾げたいのは俺の方だ。そう言いたい気持ちを抑え、彼女の狙いを見極めるために俺は真意を探ろうとする。
「もしかして先輩は俺と星良の仲を引き裂こうとしているんですか? だから俺が星良と交際していると知っていながらこんな風に言い寄ってきたりしたんですか?」
「ん~? そんな気なんてサラサラないよ~。最初にも言ったけどさ、私は君に強く興味が湧いたんだよ。私と同じ〝特別な人間〟である星良ちゃんの心を揺り動かし、君は自分の物にして見せた。誰にも靡こうともしない星良ちゃんを虜にした君と居れば、私にも人間らしい感情が芽生える気がするんだよね~」
人間らしい感情が芽生える、その言葉はまるで今の彼女には真っ当な感性が存在しないかのような物言いだった。
「私ってさ~、自分で言うのもアレだけどね、他人に対して〝何も感じない〟んだよね~」
そこから彼女は自分の抱える〝深い闇〟について語りだす。
「子供の頃からね~、周囲の人間に対して私は興味も、共感も、関心も、な~んにも感じなかったんだ。同じクラスの娘も、告白してきた男の子達にも、そして実の家族も私にとってはど~でもいい存在としか認識できないんだ。でもね、そんな私にも興味が湧いた存在が二人いたの」
そこまで言うと彼女の表情はどこか楽しげに歪む。
「私と同じ学園アイドルと呼ばれる存在――1年の北條星良と3年の司邦長門。この二人は私と同じ〝同類〟だったから」




