82話 俺の幼馴染の悪口は許さない!
お久しぶりです。
最近仕事の忙しさ、そして代表作の3巻の修正作業が忙しくて投降期間が空きました。
ここからちょくちょく投稿再会するので引き続き応援してもらえるとありがいたいです。
私と山中先輩は割り込んできた声の主を見て動揺した。
とはいえ驚きが大きかったのは山中先輩の方だけで、私の心の乱れはそこまで大きくはなかった。
「今の話は……どういう事なんだ?」
きっとこの浮気者に買って来たであろう缶ジュースを震わせながら、御手洗先輩はゆっくりと山中先輩へと質問を繰り返す。
「答えてくれ茂江。今の話はどういう事なんだよ?」
御手洗先輩は動揺しつつも、強い憤りを纏わせながら詰問する。
何とか言い逃れられないか考えているのか、彼女は視線を右往左往させながら口ごもる。
だがやがて言い逃れが不可能だと理解すると、私の時に見せていた醜い本性を露わにした。
「あーうっざ! そうよ、アンタと付き合っていたのは本心からアンタのことを好きになった訳じゃない。ただ女子人気の高いアンタを傍に置いて私の評価を上げるためだったのよ。どう、これで満足かしら?」
この人は……この人は………!?
反省どころか開き直り始めた山中先輩。
どこまでも救いようがない性根に私の怒りは再燃する。
私は誠也君という1人の男性を心から愛し、彼と無事に結ばれた。それがどれだけ幸せな事なのか理解しているからこそ、彼女の発言は汚い言い方をすれば反吐が出そうで仕方なかった。
自分の恋人を装飾品として扱い、あまつさえ恋仲と言う関係を他者からマウントを取る為に利用する。
こんな醜悪でエゴイスティックな女に、友人は涙を呑んで陰で祝福を送っていたかと思うとやるせなくて、悔しくて……許せなかった。
いつの間にか私の目尻には涙の粒が浮かんでいた。
噛み砕かんばかりに奥歯を噛みしめ、拳はブルブルと震える。
しかし怒髪天状態の私とは対照的に御手洗先輩の表情は落ち着いていた。
「そうか。それがお前の本性なんだな……。正直に言えば話の一部始終は聞いていた。でももしかしたら俺の聞き間違いじゃないかとも期待したが……」
「ふん、謝る気なんてないわよ。今日のデートで少しはいい思いさせてあげたんだからむしろ感謝してほしいわ」
「………」
何も言い返そうとしない御手洗先輩の態度に、山中先輩は更に調子に乗り出す。
「だいたい私の本性を見抜けずあっさりと交際した鈍いアンタが一番悪いんじゃない。それにさ、そこの学園アイドルさんが言うには、アンタは付き合いの長い幼馴染の娘が自分に好意を向けていた事にも気づかなかったみたいじゃない。ずっとアンタを好きでいた幼馴染の娘の愛情に気付けず、あっさり私に靡く軽薄なアンタがこの状況を招いたのよ」
完全に自らの浮気と言う不届き行為を棚に上げ、山中先輩は身勝手な責任転嫁を始める。
「……ああそうだな。結局は俺が馬鹿だったってことだ」
論点をずらす彼女の言い分に対し、あろうことか御手洗先輩は同意した。
落ち着き払った声で頷く彼に、内心で私は怒りを覚え始める。
どうしてそんなにも冷静でいられるの? あなただってこの人に騙された被害者だっていうのに……!?
事の成り行きを無言で見守ろうと思っていた私だが、次の侮蔑はいくらなんでも聞き逃せなかった。
「その幼馴染の娘も人を見る目がないようね。こんな頭の軽い男をずっと好きでいたなんて。挙句には私に先を越されて失恋なんて馬鹿丸出しもいい所だわ」
「ッ!?」
この場に居ない友人まで侮辱され、私は声を上げそうになる。
だが私が激昂するよりも先に、怒りの咆哮を発した人物が居た。
「ふざけんなぁ!!」
周囲の人間がこちらに振り向くほどの怒号。
その発生源はこれまで言いたい放題言われ続けていた御手洗先輩だった。
「な、なによ。いきなり声なんて張って……」
これまで一方的に言われていた相手が急に大声を出したことで、調子づいていた山中先輩の勢いが落ちていく。
ここまでの彼の情けない対応には私も怒りを感じていたが、すぐに彼の様子がおかしい事に気付く。表情こそは顕著な変化を見せていない先輩だが、両手に握られている缶ジュースの缶がへこんでいたのだ。
震えながら御手洗先輩はゆっくりと口を開いた。
「俺がお前に騙されていた。それはまだ俺が馬鹿だったって事で納得してもいい」
「え、ええそうよ。少し甘い顔した程度でコロっと靡いたアンタが悪……『でもなッ!?』…ひうっ!?」
自らの浅薄ぶりを反省する御手洗先輩の言葉に山中先輩の口角は吊り上げる。
だがそんな彼女の言葉を遮りながら御手洗先輩はこう続ける。
「俺の幼馴染の……百地の悪口は聞き逃せない。お前みたいな性根の腐った女にあいつを馬鹿にする資格なんてない」
「はっ、自分はよくても幼馴染の悪口は許さないって? 本当に安っぽい男よね」
そう、御手洗先輩は自分が騙されていた事よりも、この場に居ない幼馴染への侮辱に怒っているのだ。
その行動は私の中で軟弱だと思っていた彼に対する印象を僅かに変える。だが山中先輩は自分よりも幼馴染の娘に憤るその態度を鼻で笑う。
「その幼馴染の娘が向ける好意にも気付けなかったくせに、今更その娘の為に腹を立てるなんて間抜け以外のなにものでもないわよ」
「そうだな。お前の本性も見抜けず交際をはじめ、挙句ずっと百地の……幼馴染の娘の気持ちにも気付けなかった俺は愚鈍で間抜けな男だ。だがな、俺の幼馴染が本当に素晴らしい女性だという事は誰よりも知っている。気配りもできて優しい娘だ。少なくとも彼氏をアクセサリーに見立て、何食わぬ顔で浮気行為を働く女に貶されるいわれはない。勢いに任せ、この場をうやむやにして、自分の罪を誤魔化そうとする小汚い根性のお前があの娘のことを侮辱するな!」
「ぐっ……」
痛い部分をつかれた山中先輩は苦い表情を浮かべる。
言い淀んでいる彼女に対し、周囲で様子を伺っていた他の人間がヒソヒソと会話を始めた。
「自分が浮気しておいて何様? 論点すり替えようと必死じゃん(笑)」
「言い逃れに必死でこの場に居ない人間を貶すって……ぷっ、小物だよねぇ……」
一番近くにいた女性陣の会話に山中先輩は顔を真っ赤に染め上げる。
「ぐっ、もういいわよ! アンタみたいな他の娘に未練タラタラな男とかマジないわ!!」
誰がどう見ても分かりやすい負け犬の遠吠えを吐きながら山中先輩は逃げていく。
その後ろ姿を眺めながら野次馬達はクスクスと嘲笑を上げていた。
「あっ逃げた(笑)」
「うわ~惨めだねぇ」
野次馬達の視線が去っていく山中先輩に向いている最中、タイミングを見計らい私は御手洗先輩へと近づき声を掛ける。
「ひとまずこの場を離れませんか先輩。それに、私としてもあなたと少しお話したいことがあります」
「北條さん……ああ、そうだね。ちょっと注目を集め過ぎたみたいだ」
幸いにも野次馬達の目は逃げていく山中先輩に向いており、私たちはその隙を見てこの場から一先ず退散する事に成功したのだった。




