84話 空虚な人生(小日向視点)
この私、小日向瑛美は幼い頃から多くの人間に愛されて育っていった。
実の両親からはまるで人形のようだとよく褒められ、熱烈な愛情を注がれた。
父からは頼んでもいないのにお土産と言って色々な洋服をプレゼントされた。母からはより美しくなる為だと言って高級コスメを渡された。親戚も、祖母も、身内の皆が可愛がってくれた。
私が虜にしたのは親類だけない。他にも両手の指では足りないほどの大勢の人間を魅了してきた。幼稚園時代から小学生時代、そして中学生時代に至るまで大勢の男子から『可愛い』、『綺麗』、『美しい』、そんな陳腐なセリフを添えられ何度も愛を伝えられてきた。
時には同姓からも友達以上の関係を求められ、常に私の周りには人が居た。
だけどここまでの人生の中で私の心が晴れ晴れとした事など一度もなかった。むしろそんなチヤホヤとされる生活に辟易としていた。
だって誰も彼もが私にすり寄る理由は一目瞭然、生まれながらの美しいこの容姿が理由だったからだ。
大勢の人間に群がられて来た人生だった。でもどいつもこいつも結局は見た目の上でしかこの私を見てくれてはいない。
初めて話すような男子から告白される度に思った。
なんで初対面同然の人間に告白なんてできるの? それって私の容姿だけしか見てない証拠じゃないの?
挨拶しかしないような関係の女子からラインを交換しようと言われる度に思った。
ほとんど交流もない私と連絡を交換したい理由は何? どうせ自分のスクールカースト目当てなんでしょ?
人間、一番大事なのは見た目より中身だ。そんな臭いセリフを人生のどこかで誰もが耳にした事はあるだろう。
だが私はこの考えを全否定する。だって私の容姿に見とれて声を掛ける奴らを億劫になるほど見てきたのだから。何が見た目より中身だ。笑わせるな。
そんな他人に優遇される人生を歩み続ければ、嫌でも人間の醜さを思い知らされる。
だからこそ私は両親を含め他人へ関心を持てなくなった。どうせ人間なんて口先だけ綺麗ごとを並べる愚かな生き物。上辺だけしか見ない下らない生き物に興味を持つだけ無駄なのだ。
我ながらなんて虚しい人生を歩んでいると思っていた私だが、高校入学を機に私の心境に僅かながらの変化が訪れた。
その理由は私に与えられた学園3大アイドルという呼称だった。
中学時代までは私は自分以上にもてはやされている人間を見たことはなかった。高校入学して間もあけず、私はこれまで通り多くの男子や女子の注目の的となって学園生活を送っていた。だがそんな私に負けず劣らず、1つ上の先輩に私に匹敵する程に人々の注目を集める人物が居た。
当時2年生であり、前期から既に生徒会長を務めていた司邦長門。
彼女には教師をも凌ぐカリスマ性があり、そして凛とした振る舞いと美しい容姿から多くの支持者を集めていた。
これまで他人に関心など寄せなかった私だが、彼女にだけは〝同種〟の臭いをかぎ取っていた。
生まれながらに人を魅了する力を持ってこの世に生まれ落ち、多くの有象無象とは一線を画す存在感を与えられた選ばれし存在。
それ故に私は司邦先輩に積極的に関わろうとした。私の味わい続けた同じ孤独を理解してもらえると思ったから……。
そしてまた一年後、新入早々に学園内で新たな有名人が誕生した。
その人物は北條星良。彼女もまた多くの人間を魅了する容姿を持っており、いつしか私たちは学園3大アイドルなどと呼ばれるようになっていた。
先輩と後輩、上と下に同じ祝福の星の元に生まれた存在と巡り合えた奇跡に私は歓喜した。だからこそこの二人だけには時折自分から積極的に話しかけ、繋がりを築こうと思っていた。
だがこの二人以上に私の興味を引かせる人物が突如現れた。
それは1年生の大道誠也と呼ばれる少年だった。
なんと彼は私と同じ3大アイドルの一角である北條星良をものにしてみせた。
同じ3大アイドルとして、そして私の興味対象として北條星良の性格は一定把握していたつもりだ。少なくとも簡単に異性に靡くタイプではなかったはずなのだ。
そんな彼女と正式に交際をした大道誠也という存在は、私に強い関心を与えるには十分だった。
私と同じ〝特別な存在〟たる北條星良の心を掴んだ彼ならば、他者へと関心を抱かない私に劇的な変化をもたらしてくれるかもしれない。
そこから私はそれとなく大道誠也という人間を調べた。だがどれだけ調べても特別な情報は入手できず、彼は極めてありふれた凡人の1人でしかなかった。
しかしそんな取るに足らない平凡な人間だからこそ、どうやって自分と同じ3大アイドルを虜にしたのか猶更興味が湧いた。
目の前のこの平々凡々な少年に私は過度な期待を寄せる。
「ねえ、もう一度言うね~。別に真剣に愛してくれなくてもいいの。星良ちゃんの次、2番手でいいから私と付き合ってみないかな~」
他の者からすれば目の前の少年はありふれたモブ男子の1人に過ぎないのかもしれない。
だが私と同じ〝特別な女性〟を虜にした彼は外面では表せない何かを、その内面に秘めているかもしれない。
私の空虚な毎日に彩りを与えてくれる可能性があるならば、どんな歪な関係でも彼をものにしたくて仕方がなかった。




