78話 醜悪極まりない女
私の名前は山中茂江。2年のバスケ部のマネージャーだ。
つい最近、私はバスケ部に所属している同じ2年の御手洗蓮司君と交際を始めた。そして今はその御手洗君と放課後デートでゲームセンターに立ち寄っている。
「よしっ、やっと取れた!」
視線の先では彼は嬉しそうな声を上げている。
私が欲しと言っていたぬいぐるみをクレーンゲームでゲットして、そのままクマのぬいぐるみをプレゼントしてくれた。
「はい茂江。欲しがっていたぬいぐるみゲットしたよ」
「わぁありがとう蓮司君。大事にするね」
手渡されるぬいぐるみを受け取りながら、私はニコニコと笑みを浮かべる。
「ごめんね。随分とお金使わせちゃって……」
「全然大丈夫だよ。大した出費にならずゲットできたし」
実際は2千円くらい使っている所を間近で見ているが、大した出費でないと彼は笑って返す。
「………」
私が露骨に喉のあたりをさすると、彼は慌てたようにこう言ってきた。
「もしかして喉乾いている? 何か飲み物でも買ってくるけど……」
「いいの? それじゃあオレンジジュースがいいかな」
「もちろん! 少し待っていてくれ!」
彼はしばし待っているように告げると、自販機の置いてあった場所まで駆けて行った。
独り取り残された私はその場で盛大に溜息を吐いた。
「はぁ~……ぶりっ子も疲れるわ」
彼氏の目がなくなった事を確認すると、私は胸中に溜めこんでいたストレスを吐露しだす。
「やっぱり顔だけで選んだの早まったかな~」
ハッキリ言ってしまえば私は御手洗君に愛情など欠片も抱いていない。
それならどうして彼と交際、まして私の方から告白までしたのか? それは私という人間をより引き立てて輝かせる為だ。
御手洗君は自覚はないのかもしれないが、女子の間からの人気は高かった。
その主だった理由は、端正な顔立ちや、紳士的で優しい性格。そして何よりもバスケ部内で期待のエースという肩書を持っていた事だった。
この学園には3大アイドルと呼ばれる特別視される3人の女子が居る。
学園内の男女問わずに多大な人気を得ている彼女等の存在は、この私にとっては目障りで仕方がなかった。
自分で言うのも自画自賛かもしれないが、私は容姿に自信を持っていた。
実際に中学時代は多くの男子から告白を受けたし、容姿を維持するためのオシャレにも力を入れた。
だけど私が〝特別〟と持て囃されたのは中学まで、高校では3大アイドルの存在がこの私の存在を薄くしてしまったのだ。
特に屈辱的だったのはクラス内で男子共が漏らしたこの話題だった。
『なあお前等、2年で一番の美女って誰だと思う?』
『そりゃやっぱり小日向だろ』
『学園3大アイドルだもんな~。最近聞いた話じゃ1年の北條さん、同じクラスの男子と交際したらしいぜ?』
『マジ? くそ~3大アイドルを彼女にできるとか幸せ者がよ』
同じクラスの男子が盛り上がっていた下世話な話。それ自体は不愉快だが、2年で一番美しい人物と問われ小日向の名前が即座に出て悔しかった。
だが私自身も容姿では勝てないと悟り、だからせめて他の同姓から羨望を集めたいと思った。
私のクラスの女子も御手洗君に目をつけていた娘は多く、私が彼と交際したと知ると誰もが羨望の眼差しを向けてくれた。
他の女子達からの羨ましがったり、悔しがったりする視線が心地よく、久しぶりに中学時代の人気だった頃の自信に満ちた自分を取り戻せた気がした。
だがいざ交際が始まって既に辟易していた。
だって私は彼を愛してなどいない。所詮は私の見栄えをよくする装飾品、その程度の存在でしかないのだ。あくまで人気を高めるためのキープでしかないのだ。
そもそも私には既に他の彼氏もいる。交際関係を始める前から本命彼氏にこの事を話すと、間抜けな男だって二人で笑ったものだ。
まぁ私から言えばその彼氏も偽りの関係であり、本人だけが自分は本命だと錯覚している。
私はスマホを取り出すと、中学時代から交友を続けている友人に掛けた。
「もしもし、今ちょっといい?」
『久しぶりじゃん。何、何か用?』
私が中学時代の友人に連絡を入れたのは特に理由はない。
強いて言うならばこの退屈なデートの愚痴を零したかっただけ。
そこから御手洗君の悪口で盛り上がる。
「それよりもさ、今度の合コンには私も呼んでよ」
もう既に私の意識は他校の男子との合コンに向いており、現在進行形でデートしている御手洗君への配慮など消え失せていた。
「ちょっといいですか?」
後ろから肩を叩かれ私は慌ててスマホを切った。
話に夢中で御手洗君に聞かれたかと振り向くが、そこに立っていたのは予想外の人物だった。
そこに居たのは忌まわしき3大アイドルの一角である、1年生の北條星良だった。




