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77話 残酷な真実(星良視点)


 誠也君には百地さんの付き添いを任せてゲームセンター内に私は戻って来た。

 彼が一緒ならば、御手洗先輩と百地さんが店の外で遭遇する危険を回避できるはずだ。

 

 百地さんのことは一旦彼に任せて、私は財布の捜索に専念する。


 「確か百地さんはクレーンゲーム近くの両替機に置いたって言っていたけど……あっ、あった!」


 百地さんの記憶の通り両替機の横を探すと、皮製の財布が放置されていた。

 幸いにも誰かに持ち去られる事もなく、無事に財布を回収できた事で私は一息ついた。


 「よし、それじゃあ早く戻ろうかな」


 目的の物が見つかった以上、もうこの施設に長居する理由もない。

 すぐに踵を返して入口で待っている二人の元に戻ろうとする。


 だが戻りの道中で私は1人の女性の姿を視界の端に捉えた。


 あれ、あの人は御手洗先輩の……。


 私の視野に入って来た相手は御手洗先輩の恋人であるあのマネージャーさんだった。

 御手洗先輩と共にこのゲームセンター内に居る事はすでに確認済みなので、彼女の姿を見かけたこと自体は何も不思議ではない。

 だが私が気になった点は、彼女の傍には彼氏である御手洗先輩の姿が見当たらないのだ。しかも彼女はスマホで誰かと連絡を取り合っている。


 お手洗いに行っている先輩を待っているのだろうか? そんな疑念と共に私は彼女の横をこっそりと通り過ぎようとする。


 だがすれ違いの間際、飛び込んできた言葉に思わず耳を疑った。


 「ほんっと、真面目で面白味のない男よ。しかも初デートでゲームセンターってセンス疑うわ」


 え……なに、今のセリフは……?


 偶然にも耳に入って来た言葉に私の足は意志とは無関係に停止した。

 

 「やっぱり顔だけで男を選んだら駄目ね」


 振り返って凝視する私にマネージャーさんは気付かず、相も変わらずスマホ越しの相手と不穏な会話を続けていた。


 「………」


 私は近くの柱の陰に隠れて耳を澄ませる。


 先程の彼女の気になる発言は、どうやら通話越しの相手に向かって言ったものらしい。

 

 通話相手が誰かは分からないが、軽い口調から察するに友人あたりと連絡を取っているのだろう。

 それだけなら何も問題ない。むしろこうして盗み聞きしている私が間違っている。だがしかし、通り過ぎざまに私が拾ったセリフ、それはとても聞き流せない不穏なものだった。


 ――『真面目で面白味のない男よ。しかも初デートでゲームセンターってセンス疑うわ』 


 この状況でこのセリフが当てはまる相手は1人――御手洗先輩だけだ。

 そしてこのセリフは完全に御手洗先輩を嘲笑している類の発言としか思えないかった。少なくとも愛する人に向ける言葉ではない……。


 私が神経質になって大きな勘違いをしているだけ? 


 真相を確かめるべく、彼女のセリフに更に意識を傾けた。


 「やっぱり今回の彼氏はハズレかな? それよりもさ、今度の合コンには私も呼んでよ。えっ、今の彼氏君はどうするかって? だいじょーぶだよ、アイツかなり鈍いし、学校でニコニコしてればバレないって。だいたい同じ学校内でも他にキープの彼氏がいる事すら気付いてないんだよ?」


 それはあまりにも残酷な真実だった。


 もう聞き間違いだなんて言い逃れもできないほど、彼女の口から醜悪な事実が語られる。

 まさかすぐ近くで同じ学校の生徒に聞かれていると思ってないのか、スマホを片手に彼女は御手洗先輩の尊厳を踏みつけにする発言を更に繰り返す。


 ひどい……こんなのひど過ぎるよ……。


 気が付けば私の目尻には涙の玉が滲んでいた。

 怒りから拳はブルブルと震え、頭の中では百地さんの言葉が繰り返される。


 ――『幼馴染が幸せな未来を歩める、それだけで私は大満足だよ』


 彼女は自分が失恋を経験しても、妬みや嫉みも持たず一心に御手洗先輩の幸福を望んだ。

 そんな彼女の優しさを知っているからこそ、彼女の想い人を貶すあの先輩が許せなかった。


 気が付けば私は物陰から飛び出し、今もスマホに夢中となっている彼女へ向けて歩を進めていた。



 ◇◇◇



 星良がゲームセンター内へと戻り衝撃の事実を知ってしまった頃、待機中の誠也も予想外の邂逅を果たしていた。


 「それで、俺たちに一体何の用ですか?」


 疑念の入り混じった声色と共に俺は眼前の相手に尋ねる。


 星良とまるで入れ替わるかのようなタイミングで、1人の女性が俺と百地の前に現れた。その人物の姿を見て百地も俺も揃って驚いた。

 きっと百地が驚いた理由は純粋に〝有名人〟と遭遇した事実を驚いたに過ぎない。だが俺は違った。この対面上に居る人物には苦手意識が植え付けられているからだ。


 「こんな場所でばったり会うなんて奇遇だね~」


 俺と百地に声を掛けてきた人物、それは星良と同じ学園3大アイドルの1人である2年の小日向瑛美だった。

 

 


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