7話 双葉からのライン
紆余曲折ありつつも正式に星良と交際する事となった。
クラスの、いや学園の男子たちにとっての高嶺の花は、今は俺の腕にコアラのように抱き着いている。
「うふふ、誠也君~♪」
「うん、どうした?」
「呼んだだけ~♪」
教室では男女ともに羨望の眼で見られる模範生が、今はデレデレにとろけ切っていた。
そんな姿が愛らしいと思うのは容姿だけでなく、彼女がこの俺の恋人だからなのかもしれない。
「あの、そろそろ俺の家に着くんだけど。星良の家ってこっち方面なのか?」
「心配しなくても私の家の方角は引っ越し前と同じ、誠也君の家まで一緒でも問題ないよ」
今更気付いたことだが、ここまで同行してきた彼女だが、もしも帰りの方向が真逆なら少し申し訳ない。その場合には自宅まで送っていこうかとも考えたが、どうやらその考えは杞憂だったらしい。
自宅まで辿り着くと彼女は名残惜しそうに腕から離れる。
「誠也君の家に着いちゃったね。本当はもっと一緒に居たかったけど……」
「そう残念がるなよ。明日だって学校で会えるんだしさ」
「そうだね。でも、お別れのその前に……」
残念そうな顔を浮かべる彼女だが、何かを思い出したかのようにニヤリと笑う。
その小悪魔的な笑みに首を傾げていると、いつの間にかズームアップした星良の唇が俺の唇に押し当てられていた。
今日の一日だけで2度も彼女に唇を奪われる。
「ふふ、お別れのちゅー♡」
「ん……ほんっと、大胆なところは変わってないな」
「誉め言葉として受け取っておくね。それじゃあ誠也君、また明日!!」
心底嬉しそうな微笑と共に去っていく星良に俺は手を振った。
彼女の姿が見えなくなった後、俺は家に入り、自室のベッドに背中から倒れ込む。
はぁ……マジで濃すぎる放課後だったな……。
あまりにも濃厚な体験にしばし呆けていたが、すぐに別れ際の星良の笑顔が蘇る。
「まさかせっくんが女の子だったなんてな。しかも交際する事になるとは……」
そこから気が付けば彼女の事ばかりを考えるようになっていた。
幼いころに一緒に遊んだ記憶、絶望の淵に立たされていた自分を引っ張ってくれた感謝、そしてずっと自分を慕ってくれた一途な心、そのどれもが胸を温めてくれた。
だが喜んでばかりではいられないだろう。
「明日からクラスでは騒がれるかもなぁ」
何しろ今の星良は眉目秀麗、文武両道の1年生代表の学園アイドル的存在だ。
そんな人物と交際となれば必然的に他の男子から妬まれる事もある。いや、それだけならいいが自分が情けない面を見せれば、連動して恋人の星良にまで迷惑がかかるかもしれない。
「色々と気を引き締めないとな」
そう言って自分の頬を叩いて気合を入れた時、机の上で充電しているスマホが震えた。
「あっ、もしかして星良からかな?」
交際関係となると同時、彼女とラインの交換を既にしていた。
タイミング的に星良からだと思っていたが、表示された相手の名前を見て一瞬手が止まる。
「双葉から……か……」
表示された名前を見て一気にげんなりした。
それと同時、あの校舎裏での出来事が鮮明に蘇って来て不快感が這い寄って来た。
「わざわざ何の用だよ」
一瞬このまま無視でもしてやろうかと思った。そもそもこっちからメッセージを送っても既読スルーされる事すらあるというのに。
だがなにも言わず一方的に相手を拒絶するのも気が引けた。
こういうお人よしだからいい様に騙されちまったのかもな。
自分の性分へ自虐しつつもメッセージを確認する。
――『ねえちょっと、今日のアレってどういうこと?』
表示されたメッセージは主語の抜けた雑なもの。
丁重さなど欠片もないその適当な文脈がまた、自分をどうでも良いと思っている裏返しに思えて仕方なかった。
――『いきなりなんだよ? アレじゃ分からないから』
取り合えず返信するとすぐにメッセージが返って来た。
――『はあッ!? そんなの北條とのことに決まってるじゃん! いきなりあんなキスシーン見せられてイミフなんだけど!?』
「………」
――『そもそも私に告白された直後で他の女にデレデレしてさ、キモいんだけど!?』
こいつはいったい何を言ってるんだ?
私に告白された直後なんてどの口が言ってるのだろうか?
友人達の見世物にした偽りの告白、それが人の心を傷つけた認識すら持ち合わせていないのか?
――『ちょっと何だんまり決め込んでんの? 早く事情説明しろっていってんでしょうが!』
読めば読むほどに双葉に対して心が離れていく。
いやあんな悪戯をされた時点でもう距離ができていたが、このメッセージは幼馴染である事実すら汚された気分だった。
だから俺が返したこのメッセージはごく自然な文面だった。
――『嘘告白しておいて何言ってるんだ? ちょうどいいからハッキリ言わせてもらうけど、もう俺たち、これからは他人でいよう。それが互いの精神衛生上の為だからさ。サヨナラ』
このメッセージを送った直後、速効でブロックした。
「これで完全に他人だな」
悲しみはなかったが、どこか虚しさが俺の胸に去来する。
だがその直後、再びスマホが震えてラインが送られてきた。
「あ、星良からだ」
スマホに表示された名前はもう1人の幼馴染であり、恋人となった星良からだった。
先程までは渋面を浮かべていた俺だが、口角が一気に上がり、気分が高揚するのを感じたのだった。




