6話 計画が台無しだわ!?(双葉視点)
「ああもうっ、イライラする!」
家に戻ってから私は自室でやり場のない怒りを抱えていた。
ベッドの上の枕を殴って発散しようとしたが、激情の宿った拳はそれで満足する事はない。
むしろ拳を叩きつけるたび、脳裏ではあの忌々しい光景がフラッシュバックした。
「どうして北條があのバカにあんなことを……」
突然割り込んできたあの女が誠也の唇を奪った。
その事実を思い返すだけで腸が煮えくり返りそうになり、怒りのあまり吐き気すらしてきた。
「あいつのファーストキスは私がもらう筈だったのに……」
友人達と一緒に誠也に嘘告をした双葉だが、彼女は決して誠也を嫌っていたわけではない。むしろその逆ともいえる。
彼女は幼馴染である誠也に好意を抱いていたのだ。
ではどうしてそんな彼に対して見世物の様な扱いをしたのか、そこには身勝手な理由が隠れていたのだ。
幼いころから誠也はとても優しく、小さい頃は彼と一緒に過ごす時間は本当に幸せだった。
小学生の頃までは彼に対し素直な感情を振りまいていた。だが中学生へと年齢が上がるにつれ、思春期特融の照れ隠しが私の中では強まっていた。
気が付けばよく彼に対し心にもないキツいセリフをぶつけたり、露骨に交流を避けたりとしてしまった。そして何より厄介なのは高校に入学してからだった。
自分で言うのもなんだが中学中盤辺りからだろう、オシャレなどに力を入れ始め、私の容姿は男受けするほど美しくなり、肉体面も大きく発達して成長を遂げた。
誠也には冷たくとも、他の人間ともコミュニケーションは円滑に行えたので、高校入学からはすぐにクラス内でも友達もできた。運動部の上級生達にもいい顔を見せ、私は多くの男子に評価された。
だがそれに引き換え誠也は違った。小学生時代から大きな変化は遂げなかった。
私のように容姿が大きく変貌した訳でもなければ、特段誇れるような何かがある訳でもない。
もちろん私が彼を好きになった理由は外見でなく中身である。だからこそ口調はきつくとも誠也に対する想いは揺らいでない。
だがクラス内ではスクールカースト上位の私、それに引き換え優しさしか取り柄のない誠也、そんな二人が交際すれば悪い意味で目立ちかねなかった。
現にクラスの友達たちも誠也が幼馴染だって知ると、可哀そうだねって言ってたし。
今の私では誠也は釣り合わない。だからこそ、私は誠也をカースト上位に押し上げるべくある計画を練った。
始まりは友人達とのスマホゲームでお遊びの中、1人の娘がこう言った事が切っ掛けだった。
「よーし、じゃあ次のステージで一番スコアが低かった人は罰ゲームね」
「別にいーけどさ、あまりキツいのはヤダよ~」
「ん~……じゃああれ、クラスの男子に嘘告ってのはどう?」
友人達のこの話を聞き、私の中で閃いた。
この罰ゲームを利用して誠也をイケてる男子にしてあげようと。
高校からはツンツンした態度しか誠也にぶつけていなかったが、彼が私に好意を抱いているのはなんとなく理解できていた。伊達に長年幼馴染同士ではないのだ。彼と私は両想い、それを知っているからこそ素直になれずとも焦燥感は感じなかった。
私が考えた作戦はこうだった。
まず、わざと罰ゲームを受けて誠也に嘘告白をする。
本当ならばそのまま交際したいのだが、今のままでは周囲の目が痛すぎる。だからこそ、一度は彼を突き放して絶望させる。
多少は胸が痛むが私は誠也の性格を知っている。彼は簡単に折れる人間でなく芯が強い男の子だって。だからこそ彼はすぐに立ち直り、きっと私に相応しい男になるべく努力をし、そして今度は自分からもう一度私に告白してくれるはずだ。
この考えは決して自分に都合の良い妄想ではない。
幼稚園児時代からの幼馴染なのだ。もう一度チャンスはあるはずだと思い、彼だって奮起するに決まっている。そう簡単に幼稚園からの絆は切れたりしない。
そして、その努力はきっと周囲からも認められる。
今は誠也をダサい男と思っている友達たちだって、生まれ変わった誠也なら受け入れてくれる。
そのために誠也には心苦しくはあるが一度絶望を与えた。
そこから彼は這い上がるべく努力する筈だった。その筈だったのに……。
「どうしてここであの女が横やりを入れてくるのよ……!?」
嗚呼忌々しい。人の幼馴染を横から奪い取ったあの北條が妬ましい。
しかもだ、あの女は誠也の唇だけでなく誠也を『貰う』と言っていた。
「まさか誠也、あのままあの女に靡かないよね?」
いや、そんな展開にはならない。
いくら相手が学園代表される美少女の1人とはいえ、長年の幼馴染を裏切る訳がない。
「優しい誠也なら私を選んでくれるに決まってるんだから」
そもそも北條が誠也を気に入る理由が分からない。
いったいどのタイミングで誠也と接点を抱いたと……ん……?
「あれ…そう言えばあの女の下の名前って星良。そう言えば小学生の頃に田畑星良って男子が居たような……」
一瞬だけ記憶の奥底に眠っていたかつての友人を思い出す双葉だが、すぐに同一人物な訳がないと首を横に振る。
「苗字も違うし、それに性別だって。あっ、それよりも今は……!」
私は慌てて起き上がるとスマホを取って誠也にラインを送った。




