63話 誰か…助けて……(双葉視点)
その頃の双葉の様子です。
「………」
今日も私は自室のベッドの布団に包まって無為な一日を過ごす。
学校を退学処分とされ、そして誠也とも縁を切られた。実の親から成人すると同時に追い出される事が確定し、もう私にはどうすればいいのか分かりはしない。
全てを完全に失った今だからこそわかる。全て自分が愚かだったという現実、そしてこの末路も因果応報だと……。
「私に生きている意味なんてあるのかな?」
もうこのセリフも口から出すのは何度目だろうか?
これまでの自身の所業を振り返れば、こんな哀傷に浸る資格すらないのは分かっている。だが自分にとって真の幸福がもう訪れない、その事実は胸に圧し掛かり続けた。
この先の人生、どれだけ誤魔化そうと私は自分が幸福だと訪れる機会など巡ってこないと断言できる。だって、一番の幸福は遠ざかってしまったのだから……。
いっそのこと、この人生に終止符を打って次の人生をやり直せば良い。
だがそんな考えを捨てきれない癖、私は自分で死ぬ勇気すらなかった。
「ほんっと……小心者よね私は」
自身の手首を見つめながらぼやいていた。
全てに見放され、カッターで手首を切り裂こうとしても、いざ自分が本当に死ぬビジョンを浮かべると躊躇ってしまって未遂に終わる。
「楽に死ねる方法とかないかなぁ……」
今の私には生きる希望などない。それならばいっそ、死して楽になった方が良いと本気で考えてはいる。だがいざ死のうとすれば恐ろしくなり実行に移せない。
「いっそ、誰かに刺されれば楽なのかな……」
我ながら唾棄すべきセリフを吐いている自覚はある。
自らの罪科を償うそぶりも見せず、更生する気概だってない。
「はぁ……」
もう一度布団の中で蹲り眠りの世界に入ろうとする。
眠っている間は何も考えずにすむ。そんな無駄な現実逃避を何度も繰り返してきた。だが体の方は惰眠を貪り続けたせいか、どれだけ瞼を閉じ続けても夢の世界に逃げる事は出来なかった。
「将来の私ってどうなっているのかな……」
無気力気味に、そして他人事の様にそんなことを呟いていた。
こんな腐っている暇があるならば、少しでも前に進めるために行動を起こさなければいけない。だが何度考えても自分が立ち直り、心から笑える日を想像できない。
だって……私を心から笑顔にしてくれる人とはもう逢えないのだから……。
「はっ、バッカみたい。いつまで未練引きずってるのよ私は」
未だに心の片隅には誠也との思い出が残留し続けている。
もう忘れてしまえ、そう思えば思うほど、むしろ彼との思い出はより強く輝き私を焼き尽くす。
「ねえ、私はどうすればいいの? どうしたらここからやり直せるの?」
誰に問うでもなく、ただ独り虚空に向けて喋る。
当然返って来るのは静寂だけ。当たり前だ、大好きだった幼馴染も、仲の良かった友人達も、私の言うことを聞いてくれた先輩達も、血のつながった実の家族すらも……もう誰も私の傍に居やしないのだから……。
「誰か助けてよ……」
烏滸がましい事を言っている事は自覚している。
でももう限界なの。この苦しみからは独りじゃ逃れられない。
誰でもいいから……私を助けてよ………。
◇◇◇
「くそ……商品ぐちゃぐちゃじゃねぇか」
コンビニの冷蔵棚で散乱しているおにぎりを片付けながら、1人の店員が舌打ち交じりに苛立っていた。
「ちょっと中島君。店内にはまだお客さんもいるんだよ。汚い言葉は控えなさい」
「うっす……」
このコンビニの店長に叱られながら、中島馬頭は納得のいかない顔で小さく返事を返す。
くそったれがよッ! 何で俺がこんな中年ジジイに小言いわれなきゃいけねぇんだ。叱るべきはこの棚の商品を荒らしたクソ客だろうがよ!!
思わず手に持っているおにぎりを握りつぶしそうになりながら、中島は歯ぎしりをする。
双葉にいい様に利用され、結果として彼女と一緒に退学となった。
そのせいで大好きなサッカーも辞める事になり、今はこうして時給の安いコンビニのアルバイトをしなければいけない。
なんで俺が中年ジジイに叱られながら低賃金でバイトしてんだよ。こんなのおかしいじゃねぇか。
本当ならこんな場所で働くなど御免だった。だが親は別の学校に再入学させる気もなく、むしろ家から出ていくように促される毎日だ。
一定の生活費さえ入れるならまだ家に置いておくと言われ、こうして今はコンビニのアルバイトで金を稼ぐ毎日を送る。
こんなの俺の送りたかった人生じゃない。
これも全て双葉の……あのクソ女のせいだ。
あの女と関わってしまったばかりに俺の人生は……ヤツさえこの世にいなければ……。
我慢が抑えられず、俺は片づけていたおにぎりを握りつぶしていた。
定期的に双葉は登場するので、こちらの末路もお楽しみください。




