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49話 憂鬱な登校(双葉視点)


 小鳥のさえずりと共に、朝日がカーテンの隙間から覗き込む。

 とても爽やかな朝日とは対照的に、私の心情はドロドロに濁りきっていた。


 「眠れなかったわね」

 

 睡魔に襲われつつも、私は登校の為に着替え始める。


 昨日の夜の北條からの連絡、あれから私は一睡もできなかった。

 布団を頭からかぶり目をつぶっても、脳内ではあの忌々しい女の言葉が何度もリフレインして眠れやしない。


 ――『私は証拠をもう掴んでいる』


 完全に傀儡と化した中島先輩達が、この私を裏切る訳がない。

 あの連中は従順な私の言いなり。不利益となる事実は秘匿してくれる。


 そうよ、北條のあの言葉は私に揺さぶりをかけるブラフだったのよ。ああやって脅せば誠也にもう手を出さないとでも踏んだだけ、それだけなのよ。


 そうやって無理やり納得しようとしたが、ブラフと言うなら昨日のスマホのやり取り、もしや彼女は自白を得るために録音していた可能性もある?


 考えれば考える程、頭が痛くなっていく。

 もうこのまま布団の中で丸まり、夢の世界に落ちて嫌な現実から逃れたい気分だった。


 「ちょっと双葉~? いつまで寝ているつもりなの。早く朝ごはん食べちゃいなさい」


 憂鬱な私の気分とは対極な、普段通りの陽気なお母さんの声が部屋まで届く。

 

 「人の気も知らないで……」


 完全な八つ当たりだと知りつつも、私は何も変わらない母親に嫌気がさす。

 急いで制服に着替えると、そのまま軽い挨拶と共に家を出た。


 「ちょっと朝ごはんは?」


 玄関からお母さんが慌て気味に呼び止めるが、それを無視して家を出た。

 正直に言えば腹いせ以上に、今の精神状態で食事などできないと言った方が正しだろう。不安に押しつぶされそうな今は、とてもではないが朝ごはんなど喉を通らない。


 それから通学路を歩いている間も、私の中では様々な感情が入り乱れ続けた。

 朝食も抜いて空っぽの胃袋から、何かがこみ上げる感覚が断続的に続く。


 大丈夫、私は今日も何も変わらない一日を過ごせるはず。


 重い足取りで、まるで呪文のように繰り返し続けていると、気が付いた時にはもう学校に到着していた。

 校内へと入ると、更に気分が重くなる。そして自分の教室の前まで来た時には、背中に冷や汗までかいている始末だった。


 同じクラスである以上、この教室の扉を開ければ必然的に北條が居る。

 もしも、もしも昨晩の北條の言葉が全て本当だったら、教室に入ったと同時にクラスメイトは私をどう見るのだろう?


 陰で先輩達を利用し、幼馴染へのいじめを教唆した罪人として祭り上げられたらどうしよう?


 震える指先で扉の取っ手を掴むと、そのまま開いて中に踏み込んだ。

 

 「ぁ……」


 消え言えりそうな声と共にクラス内を見渡すが、周りの生徒は特にリアクションを見せる事はなかった。

 今の私はクラスでは煙たがられている。だから私が教室に入っても率先して話しかけてくる生徒はいない。だが周囲の反応はあくまで無反応で、私の悪事がバレている様子は見受けられなかった。


 よかった。取り合えず誠也への嫌がらせの件はバレてないようね。


 やはり北條の言っていた事などハッタリだったと一安心するが、すぐに教室内を見回して違和感に気付く。

 どういうわけか、誠也と北條の姿がどこにも見当たらないのだ。


 え、何で? だってもうすぐ朝のホームルームが始まるのに……。


 今日の私はいつもと比べると遅い時間に登校してきた。

 普段のあの二人は私と大差ない時間帯に教室には来ていたはずだ。それなのに、何故か今日に限っても誠也と北條の姿は見当たらない。


 何でこんな時に限ってあの二人はまだ登校してないのよ?


 通常であれば特に気にする事ではないが、昨日に誠也へ嫌がらせを行い、北條から連絡を受けた翌日だ。揃ってあのカップルが見当たらない事に言いようのない危機感が芽生え始める。


 もう嫌よ。どうして私がこんな苦しめられなきゃ……!?


 不安に胸が押しつぶされそうになり、またしても吐き気がこみ上げる。

 だが席に突っ伏しそうになる直前、ようやく探していた二人が教室にやって来た。そのまま何事もなく互いの席に着き、特に私に何かを言ってくるでもない。


 なによ、てっきり昨日の事で詰め寄られると覚悟したけど何もなし? はんっ、やっぱり北條は精神的に私を追い込もうとしていただけの様ね。


 最悪の想像では、二人は担任の杉原先生と一緒に教室にやって来て、そのまま私を呼び出すのではないかと思ったが、どうやら杞憂に終わったらしく安堵した。


 とにかく今日の昼、中島先輩達と合流して話し合う必要があるわね。しばらくは迂闊に動かないように頼んでおかなくちゃ。


 この時、誠也も北條も、私よりも後ろの席順の為に気付いていなかった。

 背後からどこか憐れみの籠った視線を二人が向け続けていたことに……。



 

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