48話 頼りになる担任
翌日の登校日、俺と星良は普段よりも早い時間から登校していた。
運動部が朝練をしている中、無所属の俺たちがこの時間帯から学校に来た理由、それは事前に双葉、そしてサッカー部の先輩達への嫌がらせ行為を学校側に報告するためだ。
「すいません杉原先生、こんな朝早くから相談に乗ってくれて」
「いや構わないさ。むしろ今まで気付かなくてこちらこそ申し訳ない気持ちだよ」
学校に着くなり俺たちは職員室に赴いた。
自席で朝のホームルームの支度をしていた杉原先生を見つけると、昨日の昼休憩の時の出来事を報告した。
運動部でもないのに、こんな朝早くから登校した俺たちに、最初は怪訝そうな顔をしていた先生だったが、全てを話し終える頃にはその表情は硬く、そして真剣なものへと変わっていた。
「まさか三日月がそんな事をしていたなんて……」
「信じられない気持ちはわかります。ですが、全て事実です」
自分のクラスで起きていた問題に杉原先生は額を押さえる仕草を見せた。
朝一からこのような嫌な話を聞かされれば憂鬱にもなるだろう。
「三日月は成績も悪くなく、科目ごとの先生からも評価が高かったんだがな……」
「先生が見抜けなかったのも無理はありません。双葉の豹変はあくまで俺の前だけでしたから」
「そうか。なんだか想像がつかないが、それでもこの証拠がある以上は事実なんだな」
先生は手元のボイスレコーダーをいじりながら呟く。
このボイスレコーダーの中には、昨日に星良が手にしたサッカー部の自白音声が記録されている。俺も事前に一度その内容を聴いてみたが、言い逃れは不可能な告白がされていた。
それに加え、昨日の夜、星良はスマホで双葉とやり取りもしており、その時の音声まで録音されているのだ。
「まさか先輩達を利用してまでこんな事をするなんてな。はぁ……なんて馬鹿なことを」
先生からすれば、被害者の俺も、加害者の双葉も大事な自分のクラスの生徒に違いない。そう思えば知りたくない事実だったのかもしれないが……。
「杉原先生。この件はかなり重い事態です。どうか厳正な対応をお願いします」
凛とした表情を崩すことなく、星良は適正な処罰を求める。
担任である先生の気持ちはわかるが、俺も双葉の悪行にはきちんとした対応を学校側に求める気でいる。ここで甘い顔をしても誰のためにもならず、下手をすれば双葉は増長して次に何をしでかすか分からない。
正直に言えば、学校側にこの報告をするには不安要素もあった。
現代の学校では、生徒同士の問題に深く干渉せず、それどころか見て見ぬふりをする風潮が強まってる。いじめ問題の発覚による世間体、それに伴う学校評価の低下を防ぐべく、加害者に大きな処罰を下さず、被害者の気持ちを蔑ろにする傾向が強まっている。
実際にそのせいで、泣く泣く逃げるように転校、自主退学の道を選ぶ生徒だっているのだ。
だが俺のそんな不安などお門違いだとすぐに教えられえた。
「よし、この証拠品を持って今から校長に相談してくる。サッカー部の生徒も複数人関わって人数も多い。それぞれのクラスの担任とも話し合う必要もあるし、これは朝の一限目は多くのクラスが自習だな」
「先生……」
杉原先生は迷うことなく俺たちの味方となってくれた。
あまりにスムーズに望む展開に進み、俺は少し呆けてしまう。
まさかここまでトントン拍子に進むなんて……。
「ん、どうしたんだ大道? そんな呆気に取られた顔をして?」
「え、いやその……」
流石に先生がここまで即決で動いてくれるとは思わなかった、などと言いづらく言葉を濁していたが、星良には俺の考えなど筒抜けだったらしい。
「先生が迷うことなく問題解決に尽力してくれて驚いたんだよね~」
「ちょ、そんなハッキリ言って……あっ、その違うんです!」
反射的に本音を隠し切れず、杉原先生の反応にビクつくが、当の本人は俺たちを見て小さく笑っていた。
「ははは、まぁ大道の気持ちも分かるよ。昨今の教師ってのは生徒同士の問題に首を突っ込みたがらないからな。教師としての評価、学校側の評価、そんなものを気にしてな」
最初は笑いながらそう言っていた杉原先生だが、後半では表情が引き締まってこう言ってくれた。
「まぁ実際、この学校にもお前が懸念する体裁を気にする教師もいるだろう。だが安心しろ。俺はそんな薄っぺらい評価よりもお前の未来を優先してやる。自分の教え子も守れず何が教師だって話だよ」
「杉原先生……」
「悪かったな。今日まで気が付いてやれなくて」
そう言うと先生は俺の肩をポンと叩き、後は任せろと言ってくれた。
とても嬉しかった。それと同時、自分で抱え込もうとした愚かしさを改めて自覚した。
どうやら星良も同じ心境だったらしく、どこかバツの悪そうな顔をしている。
困った事があれば誰かに相談する。昨日の連絡でお互いに反省しあった事を、改めて俺たちは杉原先生から学んだのだった。




