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41話 悪女は独り嗤う(双葉視点)


 ベッドの上に寝ころびながら私は達成感に包まれていた。

 

 「私の傀儡達はうまく事を運んでくれたみたいね」


 仰向けに寝ころびながら、頭上に持ち上げたラインのメッセージ欄を読み返す。その度に誠也が悲惨な目に遭わされた姿が脳内で再現され、心地よい気分になった。


 「ふふ、今頃…明日以降の学校生活に誠也も頭を悩ませているはずね」


 どうやら中島先輩達は、明日以降は精神的に誠也を追い込む気でいるみたい。

 できる事なら手早く心を折るため、直接的に痛めつけてもらいたいのが私の本音だ。とはいえだ、流石に毎日暴行を受ければ目立つ痕跡が残り、誠也は何も言わずとも、クラスメイトや教師が動きかねない。何よりあの忌々しい北條だって黙ってはいないだろう。

 その点を考慮すれば、精神的に追い込む手法は一番正しい方法かもしれない。


 先輩の話では誠也には、誰かに相談をすれば北條の身が危うくなりかねないと釘を刺しておいたらしい。

 

 「誠也は優しいからねぇ~。恋人に危険が及ぶと知れば迂闊に動けないはずよね」


 彼はいつだってそうだ。例え自分が傷ついてでも、自分の身近な人間を護ろうと奔走する。


 誰かの為に貧乏くじを自ら引きに行く、それが大道誠也という人間なのだ。


 「だからこそ、あいつの隣にはこの私が相応しいのよ」

 

 ベッドから起き上がり、私は机の引き出しを開く。

 そこには大量の誠也の写真が詰まっており、1枚1枚取り出して見返す。


 幼稚園時代に親に撮ってもらった写真、小学生時代に私が撮った写真、中学時代に私がこっそり撮った写真、それぞれの時代の誠也がたーくさん、この引き出しには納められている。


 「ふふ……ずっとあんたを見てきたのはこの私なのよ」


 そう言いながら写真の1枚を取り出し、画の中で笑う誠也の顔にキスをする。

 

 「絶対に誰にも渡さない。もう私しか考えられないようにしてやるんだから……」

 

 写真の中で動かない誠也に語り掛けながら、私の脳内では日に日に弱っていく誠也の姿が連想される。


 大勢の人間から悪意を向けられ、学校を辞めたくなるほど、もしかしたら生きていくことが辛くなるほど追い込まれるかもしれない。


 「だけどこれは必要な痛みなんだよ誠也」


 写真の中の彼に頬ずりしながら、私は物言わぬ彼に諭すような口調で語り掛ける。

 

 「誠也が全部悪いんだよ? 幼稚園から一緒だった幼馴染を捨てようとするから、将来を誓い合った女性を蔑ろにするから」


 小学生時代の彼の写真を取り出すと、かつて交わした約束が頭の中で想起される。


 『じゃあ私が将来、誠也君のお嫁さんになってあげる』


 まだ幼稚園を卒業し、小学生に上がったばかりの頃、私が誠也と交わした約束。

 初めてこの約束をした私はまだ、この言葉の意味を深く考えてはいなかった。ただ他の男の子よりも距離が近く、ともにいる時間が長い相手だったから、子供ながらの儚い口約束に過ぎなかった。

 だがその後の人生もずっと誠也は隣に居た。いつしか彼に抱く子供ながらの友情は、生涯を共にしたいと願う強い愛情へと変貌していた。


 だが彼を特別扱いするほど、彼に強く当たるようになってしまっていた。

 年齢が上がるにつれ、精神が大人びていくにつれ、素直になれず、強気な態度を取るようになる。そして高校になる頃にはすっかり天邪鬼な人間が出来上がっていた。


 「もっと私が素直だったらなぁ……」


 自分を戒めるような発言が無意識に零れ出ている事に気付き、私は首を左右に振って自分は間違ってないと言い聞かせる。


 「なんで私が後悔する必要があるのよ? 一番悪いのは誠也の方の筈じゃない」


 確かに私が素直になれない点は少し、そうほんの少しだけ悪かったとも言えなくもない。

 だがそれでも、長年幼馴染を続けているのだ。誠也だってもっと早い段階で私の本心を看破できなかった事がそもそもおかしのだ。さりげなく何度もアピールしたのにあいつは気付いてくれなかった。

 

 私はずっと誠也の事を考えていた。あいつとの未来、将来見据えて考えていた。それなのに誠也は私のことを真剣に考えず、ただなぁなぁで済ませていた。挙句は照れ隠しも見抜けず、言い返しもせず、笑ってヘラヘラと流し続けてきた。

 もしも誠也が、もっと早く私の言動や行動を注意してくれれば、私が嘘告する前にプロポーズをしてくれたら、きっと今頃は彼と結ばれていたかもしれないのだ。


 「そうよ。私を真剣に考えてくれないから、ぽっと出の北條に簡単に靡いたんだわ」

 

 そう思うと誠也の薄情ぶりに腹が立つ。

 手に持っていた写真の1枚を破りそうになりながら、代わりに机を叩いて苛立ちを発散させる。


 大丈夫、すぐに元の関係に戻れるに決まっている。

 

 人生のほとんどを一緒に過ごした自分が選ばれない筈がない。そんなことは許されるわけがない。


 「だから私が誠也を追い込む事だって、正当性が宿るに決まっている……」


 身も心もボロボロにして、彼には私しかいないと教育し直す。そうすればきっと、お互いにとって、もっとも理想的な未来に辿り着けるはずなのだ……。


 「くひっ」


 口から乾いた笑い声を漏らしながら、双葉は最後に自分の元にやってくる幸せな未来、自分しかもう見る事しかできない理想的な誠也の姿を想像し、酔いしれるのだった。




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