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4話 もう1人の幼馴染


 「いやでも驚いたよ。まさか学園代表の美少女の1人が小学生時代に別れた幼馴染だったなんて」


 「もうっ、私はちゃんと憶えていたのにひどいよ」


 可愛らしく頬をぷくっとリスのように膨らませ、不満顔で抗議をぶつけてきた星良さん、いやせっくん。


 確かに薄情だったのかもしれないがこれは仕方ないと思う。だって当時の彼女と今隣に居る彼女はハッキリ言って別人だ。髪も長く伸び、あの頃の少年らしさなどなく、むしろ世の男性を纏めて虜にする魅力的な女性に変貌しているのだから。


 それに決してせっくんの存在を今の今まで忘れていた訳ではない。


 「いや俺だってせっくんとの思い出はちゃんと憶えているよ。でも苗字も変わってたし、それにそっちから全然話しかけてくれなかったし……」


 俺の記憶が混濁していなければ、せっくんの苗字は田畑(たばた)だったはずだ。だが今の彼女の姓は北條となっている。容姿の変貌もあるが、それ以上に苗字が変わっていたからこそ、今までまさか星良さんがあのせっくんだと気付けなかったのだ。


 そんな俺の疑念に対し彼女の表情は少し曇る。


 「そっか……これは自分から説明しなかった私も悪いね」


 そこから彼女は自らの苗字が変わった理由を語りだす。


 どうやら子供時代の田畑という苗字は母のものらしく、小学生時代は母の姓を名乗っていたらしい。

 そして母親の仕事の都合上、彼女は小学生の頃に転校した。だがその転校先の地で1年前に悲劇が起きてしまった。


 「今から1年程前、私のお母さんは交通事故で亡くなっちゃってね……」


 「そ…れは……」


 自分の失恋が可愛くなるレベルの悲劇をさらりと言われ、咄嗟にリアクションが取れなかった。


 そんな言葉を詰まらせる俺をよそに、せっくんはなおも過去を語る。


 「高校入学を機にこの地元に戻って来たの。それで今は父親の家で暮らしていてね。その際に苗字も父の北條に変わったんだ」


 「えっ、ちょっと待ってくれ。それじゃあお袋さんと親父さんはずっと別居していたのか?」


 俺の問いに対してせっくんが小さく頷いた。

 小学生時代から両親共に暮らしていたとばかり思っていたので、この事実にも何気に衝撃を受けた。


 夫婦関係が冷めきっていたのだろうか? それとももっと別の理由からか?


 疑念は尽きないが、これ以上の詮索をする事は避ける事にした。

 どう考えてもかなりデリケートな話題の類であり、無神経に根掘り葉掘り聞いていいものではない。


 どうにか話題を変えようと俺は咄嗟にこう口走っていた。

 

 「でもさ、せっくんからだって、もっと早く気軽に話しかけてくれればよかったんじゃないの? 少なくとも俺と双葉は昔から仲の良かった……」


 そこまで口にして、自分が間抜けな墓穴を掘った感覚に陥る。


 ああそうだった。俺ってばその幼馴染に嘘告されたんだ……。


 せっくんの起こした予想外のアクションで、今まで忘れかけていたショックが今更ぶりえかしてきた。しかもそのかさぶたを自分から剥がすような真似をしてしまい、一気に気落ちしてしまう。


 無意識に震える俺の腕をぎゅっとつかみながら、せっくんはこう言ってくれた。


 「大丈夫だよ誠也。嘘告の苦しみなんて私がすぐ忘れさせてあげる」


 そう言うと彼女は腕組をやめ、両手で俺の後頭部を抑え込む。

 そのまま勢いよく彼女は俺の頭を……自らの胸部へと誘ってきた。


 「うぶっ!?」


 「もう大丈夫だからね誠也君」


 まるで幼子をあやすかのような優しい声色で頭を撫でられ、そして柔らかな双璧に顔を埋め、俺の中では羞恥心よりも安堵の方が強く生まれた。

 同時に長年想い続けてきた幼馴染の非道の苦しみが堪えきれなくなった。


 気が付けば嗚咽を漏らしながらせっくん……星良に縋りついていた。


 「君の幼馴染は双葉ちゃんだけじゃないから。私だって……ずっと誠也君を見てたんだから……」


 その言葉で俺は今更ながらに気付く。

 俺が双葉を想っていたように、彼女もかつて別れた幼馴染の自分を想ってくれていた。

 

 その事実が嬉しくて、気付けない自分が情けなくて、失恋のショックとはまた異なる熱い雫がボロボロと零れ落ちる。


 そして……こんなボロボロの自分を支えてくれる星良が愛おしく感じた。

 

 それから俺が落ち着くまで、彼女はまるで母親のように俺を抱きしめ、そして優しく包み込んでくれた。

 やがて俺が落ち着くと、彼女は今まで素性を隠していた理由を明かし出す。


 「地元に帰って来て高校で誠也君と再会した時は嬉しかった。でも同時に君が双葉ちゃんを意識していたことにも気づいてさ、だから身を引こうと思ったんだ」


 「じゃあ俺や双葉に今まで正体を隠していたのは……」


 「うん、二人の仲をかき乱したくなかったんだ。だから二人が交際してから明かそうと思っていたんだけど……」


 そこまで口にすると、星良は悔し気に歯噛みして呟く。


 「まさか双葉ちゃんがあんな酷い事を誠也君にするなんて……。確かに教室で誠也君にキツい態度を取っていたところはしばし見たけど、てっきり素直になれず照れ隠しだと思っていたから……」


 まだ小学生の頃、俺と双葉、そして星良の3人は本当に仲が良かった。

 あの頃の双葉はどう間違っても、先ほどのような人の心を弄ぶ行為など働かない子だった。


 俺だけでなく、星良としても双葉が幼馴染に嘘告をするなんて信じられなかったのだろう。


 「正直残念だったよ。あの双葉ちゃんがあそこまで豹変してしまったなんて……」


 隣で悲し気に目を伏せる星良の姿が目に移り、俺は思わず彼女に気遣うような言葉を投げていた。



 

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