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3話 学園アイドルの正体


 「ふふ、こうして誠也君と腕組をして下校できるなんて夢みたい♡」


 満面の笑みと共に腕組をしながら俺と北條さんは学校を後にしていた。


 どうして、どうしてこんな状況になっているだ?


 現在の俺は混乱のあまり北條さんに腕を引かれ、なすがままとなっていた。だが呆然となってしまうのも無理はないと思う。だって幼馴染に嘘告白をされ地獄の底に落とされたかと思えば、突如乱入した学校を代表する3代美少女の1人にキスをされ、挙句には恋人とされたのだ。


 目まぐるしい状況の変化に未だ頭が追い付かないでいると、隣で腕組をしている北條さんが不安げに見つめてきた。


 「大丈夫誠也君? なんだか顔色が良くないけど」


 上目づかいでこっちを見る北條さん。

 

 自分とは比較にならないほどに端正な顔立ちに、とても甘い香り、そして腕組で二の腕に感じる柔らかな感触。その全てが小心者の自分には刺激が強すぎた。


 それでもだ、どうして彼女があのような行動に出たのか知る必要があり、俺は照れつつも疑念を投げる。


 「あのさ北條さん。どうしてあんな……」


 「星良だよ誠也君。せ・い・ら!」


 「ん…それじゃ改めて星良さん。どうしてあんな真似したんだ?」


 「あんな真似とは?」


 キョトンとした顔で小首を傾げながら聞き返す星良さん。

 その何気ない仕草1つで心臓の鼓動音が大きくなる事を自覚する。


 だが今は彼女の目的を問いただす事を最優先とする。


 「誤魔化さないでくれ。その、俺のことを貰うって言ってキス…しただろ……」


 「決まってるよ。あなたのことが…好きだから……」


 頬を朱色に染めつつ即答する彼女だが、俺はそれだけの事で納得する事は出来なかった。


 「正直さ、まだ理解が追い付いていないんだ。色々とショックなことがあった直後だし。そもそも北じょ…星良さんが俺を好きになった理由は何? 高校でも俺と君は深い交流があった訳でもないし……」


 自分で言うのも悲しいが、彼女の様な超一級美少女が自分のような平凡男子に好意を抱く理由が見当たらない。

 あくまで俺たちはただのクラスメイト。まさか一目惚れなんて理由はないだろう。むしろその理由は自分たち男子に当てはまるものだ。


 双葉が行ったような罰ゲームでもない限りは、俺が彼女に好意を抱かれる理由はないのだ。


 「やっぱり……憶えてないんだね。ちょっとショックだなぁ……」


 どこか寂しそうに笑いつつ星良さんがため息を漏らす。


 「最初に言っておくけど、私が誠也君を好きになったのは高校からじゃない。もっと前から私は君が好きだったんだよ」


 「それってどういう……」


 高校入学よりもずっと前から俺を好きだった? 

 それはつまりだ、彼女は俺が高校生の時よりも前の時代、中学時代から片思いしていたと言うことになる。

 

 でも俺の記憶が確かなら、中学時代に星良さんは同じ中学にはいなかったはず。


 今の高校でも学園の美少女代表の1人として知れ渡っているのだ。中学時代に彼女が同じ学校に在籍していたのならば、間違いなく当時噂になっていただろう。

 

 となればそれよりも更に巻き戻し、小学生の頃に俺と彼女は交流があったとしか思えない。


 「………あれ?」


 記憶の海を探りつつ、自分の瞳を見つめる星良さんを見ていると、遠い過去の記憶がゆっくりと浮上してきた。


 そう言えば……小学生の頃に双葉ともう1人……よく一緒に遊んでいた子がいたっけ?


 まだ幼いころ、幼馴染の双葉と同じくらい交流のあった〝男の子〟がいた。

 とてもやんちゃで意気投合して、よく学校終わりに公園で遊んだり、お小遣いを出し合って買い食いしたりした。

 だけど親の都合で5年生の夏ごろに転校してしまって、それ以降はもう……。


 もう一度、腕に抱き着いている星良さんを見つめる。


 まるで俺が自力で思い出してくれることを期待するかのような瞳、そうこの瞳に俺は憶えがある。

 とても真っすぐでキラキラと輝き、それでいて相手を思いやれる優しいこの目は、あの幼いころに何度も遊んだ〝男の子〟と同じものだ。


 「まさか〝せっくん〟なのか?」


 当時一緒に遊んでいた男の子の名前を俺が口にすると、星良さんは華やかな笑みと共に抱き着いてきた。


 「ばかっ! やっと…やっと思い出してくれたんだね」


 目尻に涙を溜めながら彼女は俺の胸に飛び込んだ。

 とても暖かな彼女の体温を感じつつ、俺は未だに動揺を隠しきれなかった。


 「本当に君があのせっくんなのか?」

 

 「そうだよ。小学生の頃、何度も誠也君と一緒に遊んだせっくんだよ」


 俺の胸に顔を埋めながら頷く彼女に対し、申し訳なさがこみ上げる。

 決して彼、いや彼女との思い出を忘れた訳ではない。それでも今の今まで気付けなかった自分が情けなくて仕方がなかった。


 「ごめん、俺……ずっと……」


 「ううん許さない。罰として誠也君は……責任取ってもらうからね」


 そう言いながら俺の胸から顔を離した彼女は、先程までの泣きそうな顔はすっかり消え、小悪魔的な笑みを浮かべていた。


 その顔は紛れもなく、小学生時代に一緒に遊んだせっくんそのものだった。


 

 

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