39話 ゴギッ――絶叫……
中々不穏なタイトルですいません。
ちょっとヒロインの黒い面が強く出る回です。
夜の廃倉庫、構成員達の持つ懐中電灯に照らされつつ、私は彼等の前に堂々と姿を出した。
「北條…星良…?」
私の登場に驚きながら、名を呼んだのは中島馬頭だった。
本来であれば、最愛の人を傷つけた連中に名前を呼ばれるなど虫唾が走る。だが身に襲う嫌悪感を耐えつつ、私は身動きの取れない彼等へ改めて自己紹介を始めた。
「今日の日中は私の恋人がお世話になりましたね。では改めて自己紹介をさせてもらいます。私の名前は北條星良。この街を裏で取り仕切る北條組の娘……もっと分かりやすく言うならヤクザ組の組長、その娘です」
私が噛み砕いて説明すると、彼らは一気に顔面が青ざめていた。
「うそ……だろ……」
「組長の娘……?」
自分達がリンチをした男の恋人が組長の娘と知り、彼らはようやく気付いたようだ。取り返しのつかない事を自分達が行ってしまった事に。
私は南条達の命じて、誠也君を苦しめた連中を一網打尽にする事を画策した。
表向きでは誠也君と二人で下校していたが、私は裏でこっそりと南条と連絡を取っていた。そして愛する誠也君を傷つけたサッカー部員への対応方法を伝え実行に移してもらっていた。
まず、私が最初に目をつけたのは2年の伊豆だった。彼は今回の件が始まる前から私にしつこく言い寄っており、もしもの時に備え色々と事前に調べていたのだ。彼の家の場所、そして下校ルートの下調べがこんなところで役立つとは思いもしなかった。
私に言い寄るだけだったら、ここまで大掛かりな事などするつもりはなかったのに……。
運の良い事に彼は部活動終了後もしばし学園に残り続け、人通りの少ない場所での拉致など南条には朝飯前の事だった。
彼をこの廃倉庫に連行したその後、スマホのメッセージアプリを使ってダミーのメッセージを送信。この件の主犯である中島馬頭を人気のないこのエリアに呼んだ。ただまさか、彼が他の仲間まで連れてくるとは思いもしなかった。ただ私にとっては好都合、この1日で彼を苦しめたメンバー全員と〝お話合い〟ができるのだから。
「さて、それではまず最初の確認です。今日の日中のリンチ行為、このメンバーの主犯は誰でしょうか?」
「中島です!」
「そうです! あいつが主導になって行った事です!!」
「なっ、お前等!?」
私の問いに対して本人以外の全員が一斉に中島先輩を名指しした。
正直、この質問の答えは訊く前から分かっていた。昼間の屋上で誠也君を傷つけている時、明らかに他の人間を誘導していたのはこの男だった。
だがまさか、他のメンバーが一切庇う事もせず、秒であっさり仲間を売るとは予想外だった。
「なんで俺が主犯なんだよ!? お前らだって同罪だろッ!?」
「ざっけんなッ! 大道に直接危害を加えたのはお前だけだろ! 俺たちは手を出しちゃいねぇ!」
眼前で醜く罪の所在を擦り付け合う光景に思わず閉口する。
どうやら他のメンバーはこの場を逃れようと、中島先輩を生贄にして乗り切ろうと考えているらしい。確かに私が飛び込んだ際、誠也君に直接暴行を働いたのは中島先輩だけなのかもしれない。だがもしも私の到着が遅れていれば、他のメンバーも間違いなく誠也君に危害を加えていたはずだ。
未だに罵り合いを止めない目の前の罪人たちにいい加減うんざりし、私は南条に黙らせるように目配せをする。
私の指示を受け取った彼は倉庫内に放置されているドラム缶を蹴り飛ばす。
その衝撃音に小うるさい罵声は止み、全員の視線がこちらに再び集まる。
「醜い言い争いはやめてくれますか? あなた方の罵詈雑言を耳にしたくてここに呼びつけた訳ではありません。さて……では中島先輩に問います。今回の件、直接誠也君に危害を加えたのはあなたのようですが、黒幕はあなたではありませんよね? 裏で誰の指示の元、あなたは誠也君を襲撃したか白状してくれますか? まぁ元々あなた方は三日月さんを想って動いていた、それだけで答えになっていますがね」
笑顔と共に尋ねると、彼は面白い様に動揺の色を顔に出してくれた。
この連中を裏で操作しているのは十中八九、双葉ちゃんだと私は睨んでいる。
昼休み終了後、教室に戻って来た傷ついている誠也君を見て浮かべていた醜悪な笑み、あれだけで私からすれば犯人だと自白しているようなものだ。
そもそもだ、彼女の名前を出しているのは何よりの証拠と言えるだろう。
だけど私の観察眼や憶測だけが理由では、確実性のある証拠にはならない。
だからこそ、彼らの口から真実を吐かせる。その為に北條組の力を使ってここまでの無茶をしている。
「し、知らないって。確かに三日月ちゃんを傷つけた大道が許せなくて動いたけど、あくまで俺たちは自主的に……」
驚いたことにこの状況でも彼は双葉ちゃんを庇おうとしていた。
まるで洗脳でもされているかのよう……いや、洗脳と言っても過言ではないだろう。彼らは無自覚に双葉ちゃんに支配されてしまった傀儡なのだ。
だがここで私は追及を止めるつもりはない。
「南条、お願い」
「分かりました」
「え、何をする……『ゴギッ』……はえ?」
無言で自分の元に歩み寄る南条に怯えを見せる中島先輩だが、不快な音と共にその顔は呆気に取られる。
縄で縛られてるとはいえ、当の本人は嫌でも理解できてしまう。自分の右肩が強引に外されてしまった事を。
次の刹那、廃倉庫内には彼の絶叫が木霊した。




