38話 お話し合い(中島視点)
「ん……んぁ?」
闇に沈んでいた俺の意識は浮上し、閉じていた瞼を持ち上げる。
あれ……俺…何やっていたんだっけか?
まだ半分意識が寝ぼけた状態のまま、俺は気を失う直前の出来事を思い返す。
確か廃倉庫の中へと踏み込んですぐ、背後から悲鳴が聴こえた。そして振り返ると連れは全員倒れていて、その直後に俺の首筋に強いショックが走った……気がする……。
そこまで思い出すとようやく俺は我に返る。
「そうだ、俺は誰かに襲われ……ッ!?」
全てを思い出すと俺は勢いよく立ち上がろうとする。
だが意志とは無関係に俺の体は動かず、今の自身の状態を認識して思わず息をのんだ。
「なんだよ…これ? 何で縛られてんだ?」
俺の体は椅子に座った状態で縛り上げられていた。
両手を後ろへ回され、脚まで拘束されて身動きを封じられてしまっていた。
何一つ理解ができない状況、焦りや恐怖、様々な感情が入り乱れ上手く声すら出てこない。
「な、中島……」
隣の方から俺の名前を呼ぶ声が聴こえ、唯一動く首を声の発生方向に向ける。
「お前ら……」
そこに居たのはこの廃倉庫に呼び出した伊豆だった。彼だけでなく、この場に一緒に訪れた他のメンバーの姿も確認できた。
どうやら俺以外はもう全員目覚めていたようだが、自由に動ける人間は1人として居なかった。なぜなら全員、俺と同じく椅子に固定されているからだ。
「おい伊豆、お前ら、これってどういう状況だよ!? 何で俺たちは縛られてんだよ!?」
「………」
「おい聞いてるのか! 誰か説明しろよ!!」
喉が張り裂けんばかりに叫んで状況の説明を求めるが、誰も何も答えようとしない。
どいつもこいつも怯えた目で俺を見ている。いや……よく観察してみれば皆の視線は俺でなく、俺の背後に向いている。
「おいお前ら、黙り込んでないで説明を……」
「おい静かにしろガキ。さっきからうるせぇぞ」
俺の背後から聴こえてきたのは、濁った太い男の声だった。
その声は鼓膜を震わせ、声に乗せられた威圧感に冷や汗が止まらない。
「だ、誰……だ……」
怯えを振り切ろうと背後の人物へ向け、虚勢を張って声を出そうとする。だが俺の心はすっかり恐怖に締め付けられ、口から出てくるのは掠れ声だった。
その問いかけに答えず、その人物は俺の前へと回り込み顔を露わとした。
「よお初めましてクソガキ共。俺は北條組の若頭の南条平治ってもんだ」
その男は手に持っている懐中電灯で自らを照らしながら、笑顔と共に自己紹介をしてきた。
おいおい、コイツ……明らかにヤバいヤツだろ。
黒スーツにサングラスと、お手本のようなヤクザの恰好。誰の目から見ても、眼前の男が裏の人間である事は一目瞭然だった。
男が名乗った直後、同じくガラの悪そうな男共が背後からゾロゾロと姿を露わにする。
椅子に固定され身動きを封じられた俺たちは、強面の面々にぐるっと囲まれてしまう。
「ななな、なんですかあなた達は? 何が目的で俺たちを? 俺たちヤクザの方々に迷惑をかけた覚えはありませんよ」
本物の暴力の気配を纏わす男達に俺はもう震えを隠せなかった。
体の震えと同調し、縛り付けられた椅子もガタガタと揺れる。
廃倉庫内はいつの間にか、俺と同じく身震いが止まらない椅子の鳴る音が響き渡る。
この場の誰もが同じことを考えているだろう。どうしてこんな展開になってるんだよと。
だってそうだろう。大道の件で呼び出されたかと思えば、いきなりヤクザとしか思えない男共に拉致監禁、この事態についていける訳がない。
いったい自分たちはどうなってしまうのか、その恐怖から震えはさらに大きくなる。
「ガタガタうるせぇよ。大事な話があるから少し黙れや」
そう言いながら南条と名乗った男に俺は頭を鷲掴みにした。
それだけで止まらなかった体の震えは恐怖の上塗りで止まり、命令通りに口を紡んで黙り込む。
俺たちが静かになると、若頭の男性が俺に話しかけてきた。
「なあ坊主、どうしてオメーらがこんな目に遭ってるか分かるか?」
「わ、分かりません」
「そうか、まぁいきなりヤクザもんに詰められてもパニックになるわな。じゃあ次の質問だ。俺たちの所属している〝北條組〟って名前を聞いて思い当たる節はねぇか?」
そう言いながら返答を待つ男だが、俺には本当に心当たりなどない。
これまでの人生、暴力団などとは無縁なのだ。そんな俺がどうしてヤクザに目を付けられなくちゃ……あれ……北條組……あれ……北條って?
北條と言う組の名前を頭の中で何度も繰り返す。
そう言えば大道を庇った1年女子の苗字って……。
そこまで思考が辿り着くと同時、この廃倉庫にもう1人の来客者が現れた。
「こんな夜分遅くに申し訳ありません先輩方。ですが、どうしても今晩中に決着をつけたくて」
強面の連中を押しのけ俺たちの前に姿を見せたのは、学園の3代アイドルである北條星良だった。




