37話 廃倉庫への呼び出し
日没直後の夕闇の中、もう空も黒ずんだ廃倉庫の近くに集まる複数の人影があった。
「たくっ、なんだってこんな場所に……」
苛立たし気にぼやくのはサッカー部2年の中島だった。
どうして彼はこんな時間帯、それも人気のない廃倉庫に集まったのか、それにはある理由があった。
「おいどこに居るんだよ伊豆!?」
大声を出しながら、廃倉庫に入口付近目掛けて中島は叫ぶ。
「くそっ、返事しろよ伊豆! 大道の件で話し合いすんだろ!?」
彼をこの場に呼び出したのは、同じサッカー部2年の伊豆だった。
「なあ中島、本当に伊豆に指定された場所ってここで合ってるのか?」
「薄気味悪ぃな……」
「うるせぇよ。場所は間違いなくここで合ってるよ」
中島の後ろには一緒に誠也をリンチした2年の男子達もおり、中島の指示で呼び出されたのだ。
本来であればこんな夜遅く、ましてや薄気味悪い廃倉庫に呼び出しを受けても、集合拒否をしているだろう。
だがこの呼び出しに関しては、彼等は拒絶する訳にもいかなかった。
くそ……どこに居んだよ伊豆?
懐中電灯で辺りを照らし、この場所に招集をかけた人物を探しつつ、彼は悪態を吐く。
ちくしょう……こんな面倒な思いさせやがって。許さねぇぞ大道……。
歯ぎしりをしながら、彼は自宅でくつろいでいた時の事を思い返していた。
帰宅後、彼は三日月に仕事完了のメッセージを送っていた。
――『三日月ちゃん、あの大道ってヤロウにはちゃんと教育しておいたよ』
――『はい、教室に戻って来た彼の頬の跡を見ました! これで多少は留飲も下がりました。でもまだ胸の痛みが取れなくて……』
――『心配しなくても明日以降も俺たちが教育してやるさ。君みたいな慈愛の深い娘を傷つけた報いは受けないとね!』
――『でも大丈夫でしょうか? あまり大きく誠也が怪我している姿が見られると、いじめを働いていると誤解されないでしょうか?』
――『大丈夫だよ。明日以降は精神的な制裁方法にチェンジするからさ』
――『ありがとうございます! やっぱり中島先輩に頼んで正解でした!!』
このラインのやり取りの最中、顔のニヤけが終始治まらなかった。
これってもう三日月ちゃん、完全に俺を頼りにしてるじゃん。
この流れで誘えばデートぐらいならしてくれるかもしれない。いや、それどころか俺に特別な感情を持ってくれる可能性もある。
「よし、思い切ってアプローチ仕掛けてみるか!」
俺は興奮気味にメッセージを打ち込んだ。
――『ねえ三日月ちゃん、今週の休みは部活の練習も休みなんだ。もしよかったら俺と一緒に出掛けてみないかな? 俺ならきっと君の心の傷を埋めてあげられる気がするんだ』
我ながら果敢に攻めた内容と思いつつも、このメッセージを三日月ちゃんへと送信しようとした時だった。
ピコンっという電子音と共に、伊豆からメッセージが送られてきたのだ。
「たくっ、いい所で邪魔しやがって……」
悪態をつきながら届いたメッセージを、めんどくさそうに眺めた俺だったが、内容を読み終える頃には嫌な汗が噴き出ていた。
伊豆から送られたラインには、このようなメッセージが記されていた。
――『おいやべぇぞ! 大道が俺たちの事を教師に相談しようとしている! さっき大道本人から連絡が来たんだ!!』
「は……いや、いやいやいや……」
画面に送信されているメッセージに思わず声が震えた。
あれだけ脅しをかけていたというのに、大道は俺たちのことを学校側にチクる気でいるのか?
屋上を立ち去る際、あいつは悔し気に震えるだけで何も言い返してこなかった。
それに俺たちが暴行を振るった証拠はないのだ。だからアイツも泣き寝入りすると思っていたが、まさか今更抵抗を見せてくるとは……!?
落ち着け……いくらアイツが訴えようが証拠はないんだ。
とはいえだ、このまま放置して置くのも不味い。
三日月ちゃんへ別れのメッセージを送ると、すぐさま伊豆にメッセージを送る。
――『おい伊豆、マジで大道から連絡来たのか? あいつは一体何って言っていた?』
――『それなんだけどな、実は大道から呼び出しがあったんだ。今から指定する廃倉庫まで来てくれって……』
――『はあ? なんだってそんな場所に俺たちを呼び出すんだよ?』
――『そんなの分かんねぇよ。でもここでシカトするのも不味いだろ』
大道のヤロウは一体何を考えてやがる?
言いたいことがあるなら電話すりゃいいだけだろ? なんだってそんな人気のない場所まで俺たちを誘導する? まさか仲間を呼んで復讐でも企んでるのか?
俺のこの考えはあり得る話だ。
人気のない夜の廃倉庫、リンチを働いた俺たちに暴力で仕返しをしようと、自暴自棄な陰キャなら目論んでいる危険性もある。
だから家を出る前に、俺はあいつを制裁したメンバー全員に連絡を入れ、数を集めてこの場所に乗り込んだ。
他のメンバーも事情を聴くと二つ返事で了承し、家族には適当な理由を付けて抜け出してくれた。
だがいざ目的の廃倉庫に付くと、伊豆も大道も見当たらない。
「ぐぎゃッ!?」
「え?」
俺の背後からカエルの潰れたような悲鳴が上がった。
その悲鳴は次々連鎖し、振り返ると同行したメンバーは全員倒れていた。
「なに……がッ!?」
事態が呑み込めず立ち尽くしていると、首筋に強い衝撃が走り火花が散る。
「のこのこやって来てくれたご苦労さん。それじゃあ事情聴取のお時間だ」
薄れゆく意識の中、俺の耳には大道とは別人の低い男の声が聴こえた。




