32話 そこをどきなさい!(星良視点)
職員室に呼び出された私は中村先生から衝撃的な話を聞かされた。
どうにも父の組に所属している人間が、他校の女学生に絡んだらしい。
だがこの話を知った中村先生は、決して北條組の人間の犯行だと決めつけはせず、組長の娘である私に何か知っている事はないか問うてきた。
先生と同じく、私も父の下についている人達の人間性を知っている。
確かに私の家は極道一家だが、父は決して不義理や無意味に堅気の人を傷つけはしない。今は珍しく父の組は仁義を重んじており、そこに所属している人間も弁えている。
だから私はハッキリと先生の質問にこう返した。
「申し訳ありませんが私も今の話は初耳です。ですが、父の組の人間がそのような卑劣な行為を働くとは思えません」
先生の目を真っ直ぐ見据えながら私はハッキリ言いきる。
「そうか……すまないな。北條にとっては気分の良い話ではなかっただろう」
「いえ、中村先生が謝る事は何もありません。むしろこの事実を知れて私としても助かりました」
もしも父の組の名を身勝手に使っている不届きな悪党がいるならば、このまま放置して置くわけにはいかない。
とはいえ、これ以上ここで私と先生がいくら話し合っても意味はないだろう。
「この一件についてですが、私も父の方に確認を取ってみます。もしかしたら父の方には情報が入ってるかもしれないので」
「そうか、分かった。もしも何かそちらの方で分かった時には教えてくれ」
こうしてひとまずこの件についての話し合いは終了した。
この話については学校から帰宅後、父にも報告しておくとしよう。
職員室を出ると私は意識を切り替え、屋上で待っている誠也君の元まで急いだ。
「待たせちゃったかな」
先に屋上で待ってくれている彼氏に想いを馳せて階段を上りながら、私は彼と二人きりの時間を想像して胸を弾ませた。
一緒に並んでお弁当を食べて、昨日はしなかった食べさせ合いっことかもしてみたい。
ご飯を食べ終わった後は他愛ない話をしながら、休日のどこかでデートの約束もしたい。
「えへへへへ~」
自分でも自覚できるほどに緩んだ声が口から漏れる。
屋上付近の階段を上がっていたお陰で人目はなく、このだらしない顔を見られずにすんだ。
だが屋上の扉の前の踊り場で、私は足を止める事となる。
扉の前には1人の男子生徒が居た。しかもまるで通せんぼの様に扉の前に佇んでいた。
「あれ、もしかして屋上に用があるのキミ? でも悪いけど今は使えないよ」
校章バッジの色から察するに2年の先輩みたいだった。
彼は私に対してヘラヘラと笑いつつ、屋上へ続く道を閉ざす。
「あの、そこをどいてもらえませんか?」
「だから今は屋上が使えないんだよ。この後ここに俺の友人達が来て、一緒にメシを食う先約で埋まってるからさ」
「……屋上には先に私の知り合いが待ってくれているはずなんです」
「え~誰もいなかったよ。ほらキミも帰りなよ」
私に終始向ける態度を見ただけで完全に察した。
この先輩は明らかに何かを誤魔化している。もっと深く言えば屋上に人を入れないように邪魔をしている。
もしかして誠也君の身に何か起きている?
そこまで思考が進んだ瞬間、私はもう動いていた。
「そこをどいてください!」
荒ぶる感情と共に叫びながら私は扉の向こうを覗こうとする。
相手の先輩は私がここまで直情的に動くと思っていなかったのか焦りだす。だがそれでも扉の前に陣取ってやはり邪魔をしてきた。
「だから、先約があるって言ってるだろ!」
「私の方こそこの屋上で約束をしています! だいたい屋上を占領する権限などあなたにありません!」
私の正論に対し、先輩はどこまで言葉を濁し追い返そうとしてくる。
この押し問答をしている間、誠也君の身に危機が迫っていると思うと体中の血液の温度がどんどんと上昇し、ついに私は〝裏の顔〟を見せて吠えた。
「……なさい」
「ああ? 何をもごもご言って……」
「いいからどきなさいッ! それとも本気でこの私を怒らせたいのかしらッ!?」
「ひぃッ!?」
この時に私の見せた顔は学園のアイドルでなく、〝北條一家〟の組長の娘としての顔だった。
母の死後、父の北條組に身を置き、毎日多くの荒くれものと一緒に過ごしてきた。そんな彼等と比べれば目の前のいきがっている1つ年上の先輩など小物でしかない。
「何度も同じことを言わせるな! それとも……分かるように教育してあげてもいいのよ?」
「う、うぅ……」
鬼面を浮かべながら、ヤクザ組長の娘としての圧を叩きつけてやる。
まだ私が極道一家の娘と知っている生徒は誠也君だけだが、それでも私の向ける覇気に気圧され目の前の男は情けない悲鳴を出し、そのまま扉を譲る。
半ば押し飛ばすように先輩の体を横に突き飛ばし、私は屋上の扉を開く。
開かれた扉の先の隠されていた光景が視界に飛び込んで来た。
「なに……やってるの……?」
私の眼界に映った光景、それは愛する人が集団で袋叩きにあっていた光景だった。
次の瞬間、私の視界は真っ赤に染まった。




