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30話 担任教師からの呼び出し


 午前の授業が終わり昼休み、俺と星良は一緒にお昼を食べようと屋上に行こうとするが、教室を出ようとするタイミングで担任の教師である杉原(すぎはら)先生が入室してきた。


 「おおっ、まだ教室に居たな北條。少し話があるんだがいいか?」

 

 「えっ、はい。いったい何でしょうか?」


 「少し確認したい事があるんだ。ちょっと職員室の方までいいか?」


 「分かりました……」


 担任から名指しで急に呼ばれた星良は疑問符を浮かべつつも、断ることもできないので頷いた。

 これから一緒に恋人同士のお弁当タイムと、ルンルン気分だった星良は沈んでいく。教師の前故に顔にこそ出しはしなかったが、内心かなり落ち込んでいる事が理解できた。

 そんな彼女を気遣うよう、俺は小声で気落ちしないように伝えた。


 「そう落ち込むなよ。星良が戻るまで先に屋上で待ってるからさ」


 俺がそう言うと彼女は上目遣いで念押しをしてきた。


 「ちゃんと屋上で待っててね」


 「う、うん。分かってるよ」


 未だに不意打ちで見せる彼女の甘えた姿にドキドキしつつ、担任と一緒に職員室に向かう彼女を見送った。

 先に出て行った二人に続き、同じく教室を後にしようとした俺だったが、背後から声を掛けられた。


 「デレデレしちゃってみっともない」


 明らかに悪意の籠った言葉に振り替えると、そこには俺に侮蔑の視線を向ける双葉が立っていた。


 「ふんっ、気持ち悪い」


 侮蔑や嫌悪に塗れた双葉の態度に内心で俺は溜息を吐く。


 本当に彼女にはいい加減にしてほしいが、ここで言い返しても得などないだろう。

 きっと俺がここで熱くなれば彼女は益々調子づき、より一層噛み付いてくる。だからこそ俺がここで取った行動は言い返したりせず、相手にしない事だった。


 「悪いけどさ、大した用がないなら俺は行くから。星良とも約束してるし」


 そう早口で言い切って、そのまま教室を出た。

 この時に俺は彼女が何かを言い返すよりも早く教室を出た。


 だから彼女が残した不穏な独り言を聞き逃しってしまっていた。


 「ふん、生憎だけどアンタの待ち人は北條なんかじゃないわ」


 俺が教室を出て視界が完全に切れた直後、彼女はスマホを取り出し、ある人物へメッセージを送っていた。



 ◇◇◇



 「さて、急に呼び出してすまないな。ただどうしても確認しておきたい事があってな」


 「いえ、一体話とは何ですか先生?」


 杉原先生に呼びつけられて私は職員室まで案内されていた。

 本当なら今頃は誠也君と一緒にお弁当を食べていた事を考えると、先生には申し訳ないが手早く要件を済ませてもらいたいというのが本音だ。


 でもどうして私個人を呼び出したりなんて……?


 自分で言うのは気が引けるが、私は成績も良く問題行動も起こしていない。

 こうして個人的に職員室に呼び出される理由がはっきり言って見当たらない。


 だからこそ、先生の口から飛び出してきた次の言葉は耳を疑うものだった。


 「なぁ北條、ここ最近お前、他校の生徒と何か問題行動を起こしたりしたか?」

 

 「それは……どういう意味でしょうか?」


 投げられたその問いに私の眉根が自然と寄る。

 思いもよらない担任からの言葉に、私の声は無意識に不快感が混じっていた。


 「すまん、言い方が悪かったな。厳密に言えばお前が何かしたのかと疑っている訳じゃないんだ。その……お前の家、つまり北條一家の人間について相談を持ち掛けられたんだ」


 杉原先生が言いにくそうな顔でそう言ってきた。

 

 「詳しく教えてもらってもよろしいでしょうか?」


 もしかしたら私やお父さんのあずかり知らぬところで、北條家に所属している人間が迷惑をかけたのかもしれない。

 もしそうだというのならば、北條家の娘としてこの問題は看過できないことだった。


 そこから先生は事の詳細を説明しだした。

 杉原先生はどうやら他の高校の教師とも交流があり、その中の1つである石破高校(いしばこうこう)の女子教師から相談を持ち掛けられたらしい。


 「その先生が言うには北條一家を名乗った男性が石破高校の女生徒にしつこく絡んだそうだ。自分がヤクザの一員である事を理由に脅され、危うくその女の子は乱暴を働かれそうだったらしい。偶然にもその現場を目撃していた通行人が警察を呼ぼうとして、その男は逃げ出したおかげで事なきを得たらしいが……」


 杉原先生から全ての話を聞き終える頃、私は怒りのあまりに拳を震わせていた。


 許せない……私のお父さんの組を脅しに使って悪事を働くなんて……!?


 堪えきれない怒りに震える私に対し、杉原先生は冷静に口を開く。

 

 「なぁ北條、今回の一件だが私は正直疑念がある。これは本当に君の身内の仕業なのだろうかと? 私はとてもそうは思えないんだ」


 「先生……」


 「確かに北條のお父さんは極道一家の組長だ。だがな、直接あの人と話したことがある私としては、君の父親が今回の様な不義理を許すとは思えない」


 実は杉原先生は一度だけ私の家に来訪した事がある。

 これは後から知った事なのだが、自分の受け持つクラスメイトが極道の娘と知り、私や生徒が円滑にやっていけるのか知るため、北條家の人間を見定めるつもりだったらしい。

 

 「確かに肩書こそ恐ろしいが、お前のお父さんや、所属している人達はとても優しい人だって俺は知っている。だから北條に聞きたいんだ。何か思い当たる節があるなら教えてほしい」


 真剣な眼差しを向ける杉原先生に思わず胸が温かくなった。

 

 やっぱりこの人は人格の良い先生だ。私の身内が理由で偏見を持たず、全ての生徒を平等に見てくれる。まるで私が愛した人と同じように……。


 「北條聞いているか?」


 「あっ、すいません」


 思わず物思いにふけっていると先生が少し大きな声で呼んできた。

 真面目な話の最中に思考がそれた自分を反省しつつ、私は先生との対談を続けるのだった。




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