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29話 交際3日目の登校


 星良が実は極道の組長の娘と、驚愕の事実を知った俺ではあったが、だからと言って彼女と俺の関係に変化は一切なかった。

 確かに驚きはしたが、それだけだ。親や家庭環境が理由で彼女と言う人間の何かが変わるわけではないのだから。


 いや、厳密に言えば俺と星良の関係は前日より変化をもたらしてはいた。


 「なあ…星良……」


 「うん? どうしたの誠也君?」


 「その……かなり目立っているんだが……」


 前日と同じく今は星良と一緒に朝の登校中なのだが、さっきから周囲の目が痛くて仕方がなかった。

 学校に近づくにつれ、同じく登校中の生徒達と必然的に顔を合わせる事となる。すれ違う大勢の生徒達の目は、俺の腕に抱き着きながら歩いている星良を見て動揺に染まっていた。


 「おい、あれって北條さんだよな。どうして男と腕を組んで……」


 「嘘だろ……まさかあの北條さんに彼氏ができたなんて……」


 「ぐぅ~……あのやろー許せん!」


 全男子の憧れである学園アイドルが男と腕を組んでの登校、その現実を目の当たりにして多くの男子は嫉妬と羨望の混ざり合った視線を投げ掛けてくる。

 

 ぐぅ……チクチクと他の男達からの視線がいてぇ……。


 男子からの妬み嫉みにげんなりする俺とは対照的に、星良は満足げな顔で囁いてくる。


 「えへへ、これだけ大勢の人に見られればもう学園公認のカップルだね♡」


 間近で見せるその柔らかな微笑に思わず見惚れてしまう。

 それは俺だけでなく、周囲の男子の心もときめかせた。そして直後に俺へ嫉妬の炎を燃え上がらせる。


 四方八方から浴びせられる男共の妬みによる包囲網を突破し、何とか自分たちの教室の前まで到着する。

 ちなみにだが未だに星良は俺の腕に抱き着いており、廊下ですれ違う生徒達の視線も意に返さず俺に甘え続けている。


 「星良、もうクラスに付くぞ。一度離れてくれないか?」


 「む~…私に抱き着かれるのは迷惑?」


 「いや全然、ただ時と場所は弁えて欲しい。ここに来るまで俺はきっと、学園内の大数の男子生徒を敵に回したと思う」


 やんわりと頼むと不満を顔に残しつつも星良は離れてくれる。

 なんだか交際が始まってから、一日置きに星良の距離が凄まじい勢いで縮まっているいる気がする。まだ恋人となって3日でこれでは、来週にはどうなっているのだろう?

 

 いや、冷静に考えてみれば今更かもな。正式に交際関係となる前から唇を奪われているわけだし……。


 教室に入るとクラスメイト達の視線が俺たちに集まる。

 昨日と同じく星良と同時の入室、しかし前日とは違い針の筵となる事はなかった。


 「おはよう大道君」


 「今日も一段とアツアツだね~」


 声をかけてきたのは昨日の放課後に、率先して俺に頭を下げてきた女子達だった。

 すっかり俺への誤解や偏見もなくなった彼女等は、今や俺たちカップルをからかってくるようになっていた。

 

 「たくっ、学園3代アイドルと登校なんて羨ましーじゃねぇか」


 女子達だけでなく、男子からも俺は気さくに話しかけられる。

 

 昨日の放課後の質問攻め以降、クラスメイトの俺に対する接し方に変化が起きていた。

 これまでの俺のクラス内での立ち位置は地味な男子、もしくは雑用など押し付けられる『便利君』と呼ばれる陰キャと言う認識だった。

 だが前日の皆の前での堂々と星良との交際発表以降、俺への見る目が変わったと思う。少なくとも俺に対して男子達がこんな風に親し気に声をかけてくる事なんてなかった。


 ただ変化が起きたのは俺だけではなかった。


 「チッ……」


 舌打ち交じりに複数の敵意を含む視線が刺さった。

 刺々しい視線の先を辿ると、そこに居たのは3人の女子達だった。


 彼女等は双葉によってピエロにされた俺を一緒に笑っていた娘達だ。

 

 双葉による嘘告白がクラス内に露呈した際、双葉は自分だけでなく彼女等も巻き込んでしまった。

 その事が原因により、これまでクラス内ではカースト上位の位置づけされていた彼女等も肩身が狭くなっているみたいだった。

 

 だがもっともこのクラス内で窮屈な環境に立たされているのは彼女等ではない。


 「………」


 俺と星良が他の生徒に囲まれている中、双葉もクラスにやって来た。

 彼女の登場にクラスメイト達は一瞬目を向けるが、すぐに視線を外してしまう。

 これまで彼女が教室にやってくれば多くの生徒が率先して彼女に話しかけていたが、今は仲の良かったグループからも外され見る影もなかった。


 正直……あまり気分のいいもんでもないな……。


 ハッキリ言って双葉が孤立しているのは自業自得としか思えない。

 だがそれでも、俺は決して彼女を孤独に追いやりたかったわけではない。ただもう俺と彼女の関係が切れさえすれば良かったのだ。

 お互いに別々の道を進めればそれでよかった。こんな風な孤独に追いやられる彼女を見てもスカッとはせず、なんだかモヤモヤしてしまう。


 そんな事を考えていたせいか、思わず一瞬だけ双葉に視線が向いた。


 「なっ……」


 視線を双葉に向けた刹那、思わず背筋が凍る感覚に陥る。

 何故なら彼女はどす黒く濁った瞳を俺に向け、口元には歪んだ笑みが浮かべていたからだ。


 あいつ……この期に及んでまだ何か企む気か……?


 クラスメイトにもみくちゃにされながらも、俺は一抹の不安を覚える事になる。


 そして今日の昼休み、俺のこの嫌な予想は的中してしまう。




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