24話 母と恋人の談笑時間
玄関でしばし感情が零れ出た星良だったが、今はもう普段の調子に落ち着いていた。
居間の方へと移動した今は、母さんと星良が女性同士仲睦まじげに談笑している。
「それにしても見た目だけじゃなくて中身まで大人びちゃっても~。うちの誠也なんてデカくなっても中身は子供のままなのにね~」
「おい母親」
「そこが誠也君のいい所ですよおばさん。別れた時と変わらない誠也君のお陰でむしろ話しやすいです」
「おい恋人」
何故か俺を若干ディスりながら笑い合う二人に軽く突っ込むを入れる。
だがこの空気は決して嫌いではなかった。本当に小学生時代の頃に戻ったみたいだ。
きっと母さんも昔の思い出が蘇って懐かしいんだろうな。
「なんだかこうしてあなたとお喋りしてると色々と思い出すわね~」
古き良き思い出を懐かしみながら、成長した星良との対談に花を咲かせる。
だが過去を振り返るとなると、母さんが〝彼女〟のことも話題に挙げるのは必然とも言えた。
「そう言えば双葉ちゃんはもう星良ちゃんの事を知ってるの? 確か誠也は同じクラスだったわよね?」
そう、俺と星良の過去を回想すれば彼女の存在を母さんが気にかけるのも当然だった。
ほんの刹那の時間、俺と星良の返しにラグが生じる。
「……あのおばさん、実は『双葉はもう知ってるよ。学校でもお喋りしたしさ』……誠也君」
全てを包み隠さず話そうとする星良を遮り、俺は代わりにこう答えた。
母さんには聞こえぬよう、小声で隣に座る星良に俺は囁く。
「ごめん、遮ったりして。たださ、母さんは双葉の本性を知らないんだ。だからできれば黙っていたい」
中学に上がるにつれて塩対応となった双葉だが、それはあくまで俺に対してだけだ。
彼女は他の生徒は無論、母さんの前でも純粋なままの演技を崩したことはない。だから母さんは俺と双葉が絶縁したなんて露にも思わない。
星良に対してだけでなく、双葉に対しても母さんは実の娘の様に可愛がっていた。そんな母さんに全てを赤裸々に話せば間違いなくショックを受けるだろう。
俺のこの意図をくみ取ってくれると、彼女は小さく頷きそれ以上は口を紡ぐ。それどころか、双葉のことが談笑の中心とならぬようにするためか、星良はいきなり話題の舵を俺へと切る。
「そう言えば誠也君って中学時代はどんな感じでした? 私は中学時代の彼は知らないから教えてもらいたいです」
「そうねぇ……あ、中学時代の誠也の写真がいくつかあるの。ちょっと待っていてくれる」
両手をパンッと叩くと母さんは席を立って一旦場を離れる。
残されたのは俺と星良だけとなり、母の耳が遠ざかると彼女は双葉のことを話し出す。
「雪子おばさんの前ではいい娘だったんだね双葉ちゃん」
「ああ……ごめんな」
「どうして誠也君が謝るの?」
急に俺が謝ったので不思議そうな顔を向けられた。
「星良からすればやっぱり面白くないだろう。自分の彼氏が他の幼馴染を庇うような真似をして」
俺がそう言うと彼女はしばしキョトンとする。
だがすぐに小さく息を吐くと、首を横に振って全然気になどしていないと言ってくれた。
「心配しなくても別に気にしてないよ。確かに双葉ちゃんの行いを見た立場からすれば複雑だけど、誠也君が庇っているのは双葉ちゃんじゃなくて雪子おばさんの方でしょ?」
「そりゃまぁそうだけど……」
「私もおばさんが何も知らないなら無駄に悲しませたくないからさ、誠也君の行動を咎める気なんてないから安心してよ。それにね……」
そこまで言って言葉を途切れさせると、彼女は俺の肩の方に頭を乗せる。
「誠也君が私を一番大事にしてくれている事は良く知ってるから。だから……そんな風に後ろめたさなんて感じないで」
「星良……」
「誠也君……」
お互いの瞳を見つめ合い、まるで引力の様に俺たちの距離が縮まっていく。そのまま同時に瞼を閉じて唇をそっと合わせる。
時間にすれば1秒程度だったが、まるで数十倍の時間、重なった錯覚を憶える。
ゆっくりと閉じた瞳を開きながら至近距離でお互いの顔を見合わせ、そして同時にくすっと笑みが零れ出る。
「あらあら~……流石は幼馴染同士ね。もうそこまで進んでいるなんて」
「うえっ!? かか、母さんいつから!?」
「もしかしてお邪魔だったかしら? なんならしばらく外に出ようか?」
「余計な気遣いとか今はむしろキツイから!!」
耳に飛び込む母の声に振り替えると、アルバム片手に母さんが生暖かい目で笑っていた。
母親にキスシーンを目撃され狼狽する俺とは違い、星良はむふーっと鼻息を荒く満足げな顔をしており、俺の気など知らず二人は互いに親指を立てる。
「見ての通り内気で童貞で頼りない息子だけどよろしくね」
「おいコラ母親ッ!?」
「任せてくださいおばさん。それに誠也君の童貞はすぐに私が貰いますので」
「おいコラ恋人ッ!?」
俺を置き去りにして最低なワードで分かり合う二人に対し、俺は顔を真っ赤にしながら怒声を上げるのだった。




