23話 親への交際報告
俺の家が目視できる距離まで来ると、星良はそっと耳打ちして来た。
「ふふ、ガールフレンドができたって知ったら、誠也のお母さんどう思うのかな?」
そう言いながら小悪魔的な笑みを向ける彼女に思わずドキッとしてしまう。
俺の前では学園のアイドルとしての清楚な振る舞いを脱ぎ捨て、どこまでも子供の頃のやんちゃな恋人に戻る星良。
そんな悪戯っ子のような彼女に翻弄されつつも、俺は自宅へ彼女を招く。
「ただいまー、帰ったよ母さん」
「あら、おかえりなさい。今からお夕飯の用意するから待ってて……」
台所の方から玄関まで顔を出して出迎える俺の母、大道雪子。
いつも通り息子の帰宅に挨拶をする母さんだったが、俺の隣に立っている星良を確認すると戸惑いを見せる。
「えっと、誠也のお友達……かしら?」
明らかに友達として判断すべきか否か、母さんは疑問を持っている顔だった。
まぁ無理もない事だろう。これまで俺にとって女性友達と言えば幼馴染の双葉だけだったのだ。そこにいきなり別の女性を連れて来れば、この娘は誰? と思われても仕方がない。
そして母さんのリアクションからして、まだ俺の隣にいる彼女の正体が、小学生時代から自分とも親子の様に仲の良かった星良だと気付いていないみたいだった。
さて、まずはどこから話すべきかな……。
恋人ができたことを話すべきか、それとも地元に戻って来た星良の紹介をすべきかなのか。どう切り出そうか言葉を選んでいたが、隣の幼馴染兼恋人は母さんに直球で纏めた文章を送る。
「お久しぶりです雪子おばさん。私、小学生の頃に誠也君と仲良くしていた星良です。今日は誠也君との交際報告にやって来ました」
すらすらと一切噛む事もなく、星良は俺が嚙み砕いて話そうとしていた事実を並べて放った。
あまりにもドストレートかつ、凝縮された第一声に母さんはしばしポカン。
だがすぐにハッと我に返ると、様々な感情が入り乱れて取り乱した。
「えええええ? せ、星良ちゃん? あなたあの星良ちゃんなの? いやそれもだけど誠也との交際報告? ちょ、ちょっと待って追い付けないわ!」
「おい星良、いっぺんに纏めて言い過ぎだ。母さん完全にオーバーヒートしてるから」
「ご、ごめんなさい。あの…雪子おばさん大丈夫ですか?」
未だに目をぐるぐると回している母さんに、コテンと可愛らしく首を傾げる星良。
そんなどこか抜けている彼女に苦笑していると、混乱冷めきらぬ母さんが俺の肩を掴んで揺すって来た。
「せ、誠也ちゃんと説明なさい! お母さんもう何が何やら!?」
「ちょちょ、ちゃんと説明するから母さんも一旦落ち着いて!!」
情報処理が追い付いていない母さんを何とか宥め、俺はゆっくりと隣に居る星良について話した。
丁寧に全てを順に話し終えると、先ほどまで混乱していた母だったが、数年ぶりの星良との再会を喜んでくれた。
「驚いたわぁ。まさか星良ちゃんがこっちに帰って来ていたなんて」
「すいません。もっと早くご報告すべきだと思ってはいたんですけど」
「そんなの謝る事なんかじゃないわよ。それにしても随分と美人さんになっちゃって!」
かつてボーイッシュで男勝りだった星良の変貌に母さんは驚いていたが、なんと俺と違い母さんは昔から星良が女の子だと知っていたらしい。むしろ、俺が星良を男の子だと思い込んでいたと知らなかったそうだ。
「ほんと綺麗になったわね星良ちゃん。こうして見るとあなたのお母さんの面影もちゃんとあるし……」
何気なく口にした星良の母の話題。
その話題が出ると同時、俺はしまったと焦って話題をずらそうとする。
しかし当の本人は一切動じず、目を伏せつつ事実を告げた。
「実は……母は亡くなったんです。お母さんが死んだことでこっちで暮らすお父さんの元に戻って来て……」
「え……」
それまで笑顔だった母さんの顔が曇る。
「ごめんなさい。そう……辛いことを聞いちゃったわね」
知らずとは言え傷口をつついてしまった事に母さんが頭を下げると、星良は慌て気味で頭を上げて欲しいと頼む。
「いいんです。お母さんのことは悲しかったけど、今はもう乗り越えました」
「星良ちゃん……」
「それに、今日お邪魔させてもらった理由はもう1つあって……」
そこまで言うと星良が俺に目配せをしてきた。
どうやら俺の口から改めて母さんに事実報告をしてもらいたいのだろう。
俺は軽く咳き込むと、星良の肩に手を置きながら母さんに彼女との関係を伝えた。
「もう星良が先に言っちゃったけどさ、実は俺、星良と恋人関係になったんだ」
「そ、そう言えば最初に星良ちゃんも言ってたわね。その……二人の冗談とかじゃなく、本気のお付き合い……なのね?」
念押しして確認を取る母さんに対し、俺たち二人は手を繋ぎながら頷いた。
そこからしばらく母さんは無言だったが、やがて固いその表情が緩むと俺にこう言った。
「そう……誠也、私は星良ちゃんのことを良く知ってるわ。そんないい娘、決して手放したらダメよ。ましてや泣かせるような真似をしたら許さないからね」
「当たり前だろ。必ず幸せにしてやるさ」
生半可な気持ちでないと証明するため、俺は無意識に拳を固く握って返答していた。
「星良ちゃん、馬鹿な息子だけどよろしくね」
「っ……はい、雪子おばさん!」
俺の家族から認められた事が嬉しかったのか、感極まった星良は母さんの胸に飛び込んでいた。
「懐かしいわね。子供の頃も星良ちゃんが泣いたとき、こうして抱きしめていたわね」
「う……うぅ……」
気が付けば星良は涙を滲ませながら母さんの胸に顔を埋めていた。
それはまるで失った母の温もりを求める幼子の様に見え、俺もまた後ろから彼女が落ち着くまで抱きしめる。
それからしばし、俺と星良、そして母さんは互いの体温を感じ合い続けるのだった。




