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22話 忍び寄る悪意


 放課後の質問攻めを半ば強引に抜け出した俺と星良は、帰路につきながらへとへととなっていた。

 いや正確に言うならくたびれているのは俺だけで、星良の方は普段通り何も変わっていない。


 「まさかあんなもみくちゃにされるなんてな」


 俺が苦笑とともにそう言いながらクラスの熱を振り返っていると、星良はどこか不満げな顔を浮かべていた。


 「む~……私はちょっと納得いかない気もするけど……」

 

 「ん、何が?」


 「だって朝はあれだけ誠也君を非難していたのにあの掌返し、どこか腑に落ちないよ」


 教室の質疑応答の際はすました表情の星良だったか、どうやら朝にあれだけ俺を悪く言っておいて、その日の内に心変わりした事を根に持っていたらしい。

 とはいえ星良も本気で怒気を帯びている訳でなく、頬をリスの様に愛らしくぷくっと膨らませているだけだ。


 そんな彼女が微笑ましく、俺は頭を撫でてやる。

 俺の掌が乗せられた直後、ふくれっ面は満面の笑みに早変わりした。


 「ところでさ、放課後に行きたい場所があるって言ってたけど……」


 クラスメイトの包囲から脱出した際、星良はどうしても顔を出したい場所があると言っていた。

 あの時は俺も星良もひとまず教室を出る事に必死だった。だから落ち着いた今ごろに遅れながら尋ねると、彼女は笑顔でこう言ってきた。


 「もちろん、誠也君の家だよ」


 「いっ、俺ん家?」


 「うんそう。確か誠也君のお母さんって専業主婦だったよね?」


 ああなるほど、つまり星良の目的は正式に交際した事実を俺の家族に報告したいらしい。

 確かに小学生の頃からうちの母さんと星良は仲も良く、母さんも幼馴染である星良や双葉とは実の娘の様に接してくれた。


 「それにね、純粋に久しぶりに誠也君のお母さんに会いたいし……ダメ?」


 「全然ダメじゃないよ。それに母さんだって喜ぶよ」


 「よかった。それじゃあ誠也君の家にレッツゴー!」


 俺が二つ返事で了承を出すと、彼女は天真爛漫な笑顔で俺を引っ張る。


 「おいおいそんな急がなくても」


 「いいからいいから」


 学園の3代アイドルなど言われている星良だが、俺の前ではかつて男友達だと思っていた頃の無邪気さを見せてくれる。

 俺にだけ魅せてくれる、本当の星良の姿に過去の情景が脳裏を駆け巡る。


 『ほらほら、はやく虫取りに行くぞせいや!』


 『待ってくれよせっくん!』


 純粋無垢な少年少女時代に共に遊んだ記憶が蘇り、俺は小さく笑った。

 そして、そんな俺たち二人の後をいつだって追いかけてきた彼女のことも……。


 『せいやー、せっくんー、おいてかないでよー!』


 本当なら3人全員でまた一緒の時間を過ごしたかった、その未練がましさを俺は気付かぬふりをするのだった。



 ◇◇◇



 誠也たちが帰路についてたその頃、2年のサッカー部の先輩達を相手に双葉は泣き真似をして、とんでもない事をやっていた。


 「なんだって!? じゃあその幼馴染の男は三日月ちゃんをあっさり捨てたのか!?」


 「はいぃ……ぐずっ、そうなんですぅ……」


 「ひでぇな。幼稚園の頃からの幼馴染によくそんな真似できるな……」


 同情的な視線を向けられながら双葉は内心醜悪な笑みを浮かべる。


 ほんっとにバカばっかり。ちょっと泣いたふりしただけでチョロすぎなんですけど~。


 休憩中のサッカー部の先輩達はすっかり私の作り話を信じ込んでいた。

 

 私が彼等に語った創作ストーリ、それは私が誠也に捨てられたというシナリオだった。

 まだ正式な恋仲ではなかったが、私と誠也の二人はいつ結ばれておかしくない両想いの幼馴染。だがそんな彼はクラスのアイドルに告白されるとあっさり手のひらを返し、私を捨てて北條星良を選んだというものだ。


 「今でも信じられません。ずっと一緒に居た私に『お前よりアイドル様の方がステータス高いんだよ』なんて言われて捨てられるなんて……」


 「さ、最低だなソイツ」


 「ぐずっ、ごめんなさい。愚痴を聞かせてしまって……」


 表面上は申し訳なさそうな顔を見せれば、この連中はもう疑わない。


 「いや、三日月ちゃんは悪くねぇよ」


 「その1年、ちょっと見過ごせねぇな」


 「ああ、こんないい娘に鬼畜過ぎんだろ」


 目論見通り誠也へのヘイトが一気に溜まっていく。

 これならば私が何も指示せずとも、彼等は明日にでも誠也に迫る事だろう。大勢の先輩に非難の的とされ、日に日に誠也の心は死んでいくはずだ。

 

 「安心しろよ三日月ちゃん。そいつには俺たちがきっちり言いつけてやるから」


 そう言いながら爽やかな笑みを向けたのは2年の中島馬頭(なかじまばとう)

 私が手名付けているこの連中の中でも、もっとも私にお熱になっている猿だ。


 精々この無駄に体格のいい傀儡どもには働いてもらうとする。そして傷心で疲弊した彼の心に私はするりと入り込んでみせる。

 もう私に歯向かえないよう、そして私から離れないように徹底的に躾てみせる。


 待っていなさい誠也。あなたにとって〝理想の幼馴染〟は北條星良でなく、三日月双葉だと思い知らせてやるんだから!!




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