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21話 更に元幼馴染は堕ち続ける(双葉視点)


 「ああイラつく、どうして私が責められなきゃいけないのよ!?」


 授業が終わった放課後の校内を双葉は悔し気な顔で歩いていた。

 

 今日一日はハッキリ言って散々だ。

 クラス中から白い眼を向けられ、仲の良かったグループからは絶交された。


 『双葉が巻き込んだせいでうち等まで肩身が狭くなったじゃん! もうアンタとは関わりたくもない!』


 これまで一緒の時間を過ごしてきた友人達はあっさり私を切り離した。 


 「なによ、罰ゲームの件はアンタ等も同罪のクセに……」


 全ての責任を私に擦り付けようとするあんな連中、こっちの方から願い下げだ。

  

 だが私がもっとも怒りを募らせたのはグループから外された事じゃない。私の大事な幼馴染を横からぶんどった北條星良の存在が怒りの九割を占めていた。

 放課後まで誠也はあの泥棒猫にベタベタしており、私の方など見向きもしなかった。同じクラスに居るのに誠也はまるで私を居ないかのように扱う。それなのに私は見たくもない彼と北條とのイチャイチャっぷりを見させられる。


 「どうして私を見てくれないのよ……」


 私へは向けてくれない笑顔、それを誠也は何度も北條に送っている。

 そして北條もまた、同じように笑顔を返して二人は愛し合っている。


 どうしてどうしてどうしてよ!? 私の誠也なのに、どうしてアンタが盗るのよ!? 学園の3代美女なんて呼ばれているアンタならいくらでもいい男が手に入る癖に!!


 私にとって理想の相手は幼馴染の誠也しか考えられなかった。その大事な人を、今更戻って来たあんな女に奪われるなんて認めたくなかった。


 本来であれば双葉にとっても星良は再会を喜ぶべき友人だった。

 だが自身の意中相手を奪われた今、双葉の中では星良はもう幼馴染のカテゴリーに入っておらず、明確な敵でしかなかった。

 小学生時代、彼女が転校するまでの輝かしい思い出も、今となっては砕け散ってしまっていた。


 「一刻も早く手を打たないと。このままだと誠也の心が私から離れちゃう」


 驚くことに双葉の中では、まだ誠也の心は完全に離れ切っていないという認識だった。

 あれだけ拒絶されてもまだ、彼女の中ではもう一度仲睦まじかった昔の関係に戻れると信じていた。


 今の誠也は一度私に振られたショックで気が動転してるだけ、そのせいで少し優しくされた北條へ盲目的になってるだけなんだから……。


 そうでもなければ幼稚園から高校まで、ずっと同じ時間を過ごした幼馴染の私でなく、ふらっと戻って来たあんな女を誠也が選ぶ訳がないのだ。


 「とにかく、あの二人の関係を終わらせないと……」


 あんなに優しかった誠也が今でも私を許さない理由、それは間違いなく北條が原因に決まっている。

 きっとあの女は誠也の気持ちを巧みに誘導し、私に対して敵意を向かせるように操っているのだ。


 私の脳裏では、虚ろな瞳で北條に縋りつく誠也のイメージが浮かぶ。


 「待っていてね誠也。すぐに私があなたの本当の気持ちを取り戻すから」


 どこまでも意地汚く、そして卑しい女には罰を与えなければならない。

 そして洗脳された彼を取り戻し、本来辿り着くハッピーエンドを迎えて見せるんだから!


 もしも張本人である誠也が彼女の心中を読み取れたとしたら、もはや言葉にもならないだろう。

 好きな人を陥れ嘲笑の的にした事を反省せず、挙句の果てには何一つ罪のない、かつての幼馴染を泥棒猫呼ばわりする。こんな身勝手な人間から心が離れる事の方が自然だと言うのに、自分の行いに疑問すら持つことがない、もはや戦慄すら覚える事だろう。

 

 「誠也を取り戻すためなら私はなんだって出来るんだ」


 自分の胸の内の覚悟を口に出しながら、私がやって来たのはサッカー部だった。


 放課後のグラウンドでは体操着のサッカー部員が練習に勤しんでいる。

 私はしばしその練習を欠伸をしつつ眺め、彼等が小休憩に入るタイミングで声をかける。


 「お疲れ様です~。先輩方頑張ってますね~」


 私が気軽に話しかけると、男子部員の数人が笑顔で応対してくれた。


 「あっ、三日月ちゃんじゃん!」


 「もしかしてまた差し入れか? いや~ありがたいな」


 私にすり寄って来たのは2年の先輩達だった。

 

 高校入学してから私は自らの好感度を高めるべく、大勢の運動部の男子学生と交流を持っていた。

 まあ交流と言っても私がした事は猫なで声で接し、時折運動部の男どもに心にもない差し入れをした程度だ。かなり面倒だと思いつつ、学園内で上位の地位を確立するために媚びを売っていた。

 案の定単純な運動バカの男どもは、私を気遣いのできる女子と認識し、それなりに私の人気上昇に貢献してくれた。その中でもサッカー部の馬鹿な2年の先輩達からは気に入られたようで、時折面倒ごとなどを押し付けている。私としても、来年卒業の3年や、同じ学年の1年生より、先輩であり来年以降も学年に留まる2年生が一番手頃でちょうどよかった。


 今回こいつ等の前に顔を出したのはお願いを聞いてもらうためだ。

 そして数ある運動部の中でサッカー部を選んだ理由、この部の1年生には私のクラスの男子が所属してないからだった。


 そう、朝の教室での私の醜態を知っている人間がこの部に存在しない事が大事なのだ。


 「ごめんなさい。今日は差し入れ用意してなくて……」


 「いいよいいよ。三日月ちゃんの応援だけで充分さ」


 「いやー三日月ちゃんがウチのマネージャーになってくれたらな~」


 下心の見え隠れする雄どもに心の中で唾を飛ばしつつ、私は当初の目的を果たしにかかる。

 こんな汗臭い猿どもにわざわざ逢いに来たのは目的があるからだ。


 目尻に涙を溜めるふりをして、私はわざとらしく振舞う。


 「ぐずっ、先輩達の元気な姿を見て良かったです。私もおかげで立ち直れそうです」


 「おいおいどうしたんだよ三日月ちゃん?」


 奥歯に物が挟まった含みのある態度を取ると、バカな男どもが私を気遣い出す。

 

 「実はですね……今日の朝の教室でちょっと……」


 「何か悩んでるなら遠慮なく相談してくれよ」


 完全に同情を集める事に成功した私は内心で笑いを堪えつつ、木偶人形同然の馬鹿な男どもをマリオネットとして活用する下準備を整えた。


 「実は私、幼馴染の男の子がいるんですけど……」




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