15話 あなた達は誠也君をどれだけ知っているの?(星良視点)
かつて幼き頃は、私や誠也と仲の良かった幼馴染の双葉ちゃんが、私の大好きな幼馴染を貶し続ける。
それはまるで昨日のデジャヴだった。校舎裏で嘘告白により見世物にされた時のように……。
いい加減に……したらどうなの……!
この時の私は怒りのあまり声を出す事すらできなかった。
憤怒を込めた視線を彼女に向ける。だが彼女は私の視線が突き刺さった事に気付いていないのか、それとも見て見ぬふりをしているのかは分からないが、気にも留めずに誠也君を嘲笑し続けた。
そして私の怒りの火に油を注いだのはクラスメイト達の反応だった。
少し双葉ちゃんが誠也君を貶しただけだというのに、クラスの皆はその考えに同調しだしたのだ。
『不釣り合いだ』、『裏で脅されている?』、『二人が付き合えるなんておかしい』
クラスの見知った顔の人達が口々と誠也君に疑惑の目を向け、罵声を飛ばす。
どうしてそんな誰かの言葉だけで彼を悪者にするの?
今の私をよく見てよ。本当に不幸せそうな顔をしている? 誠也君に脅されて、無理やり付き合っているようにあなた達には見えるの?
ちらりと的となっている誠也君を見て、私は息が詰まってしまう。
謂れもない誹謗中傷に晒され、まるで罪人のように扱われている彼は苦し気に下唇を噛んでいた。
私の大好きな人が、とても優しい心根を持つ彼が、ありもしないレッテルを貼られて苦しむ姿をまざまざと見せられた。
そして……そんな苦しむ彼を率先して更に追い詰める双葉ちゃんの醜悪な姿も瞳に映る。
気が付けば私は双葉ちゃんの机の脚を蹴りつけていた。
「きゃっ!?」
私が机を蹴って教室内に衝撃音が響く。
誠也君を罵っていた双葉ちゃんの暴言は止まり、クラスの喧騒が収まる。
騒ぎ立てていたクラス全員の視線が私へと向くが、毅然とした態度で私は全員に言ってやった。
「あのさみんな……さっきからいい加減にしたらどうなの」
怒りが滲み出た状態で発した声は自分でも驚くほどに冷え切っており、クラスメイト達も明らかに動揺が見え隠れしていた。特に女子の中では私に怯えを見せている娘すらいる。
だが私は目を丸くしているクラスメイト達に凛とした態度を貫き、私の愛している人を守る為に抗議してやった。
「黙って聞いていれば誠也君を一方的に悪者扱いして、どうして誰も違和感を抱かないの?」
私が質問をしても誰も答えようとせず、隣の人と目配せをして黙り込む。
誠也君を悪く言っていた時はあれだけ口の滑りが良かったくせに、真っ当な疑問をぶつけられればだんまりする。
「ねえ、さっきあなたは誠也君に私を脅しているのか訊いていたよね? どうしてそう思ったの?」
「あっ、その……」
誠也君にもっとも詰め寄っていた男子に質問するが、彼はもごもごと口元を動かすだけだった。やがて何か言わなければいけないと思ったのか、彼は小さな声でこう返した。
「ほら、三日月さんも不釣り合いだって言ったから……」
「ふ~ん……つまりあなたは三日月さんの言葉だけを捉え、誠也君を悪者に仕立て上げる事をヨシとしたんだね?」
「いやでも、三日月さんがそう言ったから……」
「誠也君の言う事は信じられないけど、三日月さんの言う事はすんなり受け入れる、その違いは何?」
私がそう言ってやるともう彼は何も言わなくなった。
いや、彼だけではない。誠也君を責め立てていた全ての生徒が俯き、そして黙り込んでしまっていた。
やっぱりそう、あなた達は自分で考えず、ただ同調しただけなんだね。
揃って目線を下に向ける皆を見て嫌でもわかる。
彼らは誠也君を自分よりも下だと決めつけている。その逆に双葉ちゃんは自分より上の存在、つまりはスクールカースト上位の言う事が正しいのだと酷い偏見を持っているのだ。
なんて馬鹿馬鹿しい、なんてくだらない、なんて悲しい人達なのだろう。
私が誠也君を好きになったのは彼の人間的魅力が理由だ。
小学生時代、怪我をした私をおぶって送り届けてくれたこと、悲しんでいるときに気持ちを明るくしてくれたこと、そんな一見些細だが、確かに気遣ってくれる優しい彼に惹かれ、そして恋をしたのだ。
だがこの場の皆はカーストだの外側のメッキだけで判断している。
私を前に無言なのもきっとそう、私が学園のアイドルなんて呼ばれているからだろう。
つまり、クラスメイトにとって私は皆より上の存在だと〝勝手〟に持ち上げられている。
「見た目で人を決めるなんておかしいよ……」
先程までは怒りで渦巻いていた心が、今は悲しみで埋め尽くされていた。
「さっきまでみんなは誠也君を悪く言っていたけど、みんなは誠也君の事をどれだけ知っているの? 幼馴染の私と同じくらい彼を知っているの?」
誰も何も言えない。ただ無言で私の言葉に俯き続ける。
クラスの皆の顔を見れば分かる。誰も彼もが場の勢いに流された事を自覚して、居心地の悪さに縮こまるのだ。
だがそんな中でただ1人、私と同じ誠也君の〝幼馴染〟である双葉ちゃんが反論を口にした。
「私は誠也のことを良く知ってるわよ! 幼稚園の頃から今日までずっと幼馴染だったんだからさ! だから私の言っている事が的外れだなんて言えない筈でしょ!?」
この期に及んでまだ誠也君を苦しめようとする彼女が許せず、無意識に私は彼女へ掴みかかろうとすらしていた。
「な、なに? 手を出すつもり?」
私が射殺さんばかりに睨みながら距離を縮めると、彼女の虚勢はあっさり崩れ私に怯えを見せる。
誠也君に対してはあれだけ強気なくせに、他の人間にはびくびくする。そんなところも私の苛立ちを加速させ、がりっと歯を噛みしめる。
だがそこへ穏やかな声が耳に届いた。
「落ち着いてくれ星良。ここで手を出したらダメだ」
視界が真っ赤に染まり激情に駆られそうな、そんな私の肩をそっと掴んで制止したのは、誰よりも痛みを伴っていた誠也君だった。




