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16話 変わる勇気


 下手をすれば、今にも双葉に掴みかかろうとしていた星良の肩を優しくつかみ、俺は彼女を諫めていた。


 「落ち着いてくれ星良。ここで手を出したらダメだ」


 俺のこの言葉に星良はどうして? と言わんばかりの困惑を見せていた。

 もしかしたら彼女の視点からすれば、自分を侮辱している人間を庇い立てしてるように映ったのかもしれない。


 だが俺が彼女を引き留めたのは双葉の為でない。星良の為なのだ。


 「こんな女の為に星良が手を汚すなんて理不尽だ」


 俺がそう言うと、真っ先に反応したのは星良でなく双葉だった。


 「はあッ!? 誠也ごときが何を言ってんのよ? カースト下位のモブ陰キャの分際でさぁ!!」

 

 星良の迫力に怯えていた双葉だが、俺が相手となるといつもの調子で噛み付いてくる。


 たくっ、本当に切り替えが早いよな。俺がちょっと言うだけでこれだからな。


 こうしてみると本当に双葉は俺を〝下の人間〟だと決めつけていると理解できた。

 そして同時、こんな決まった相手にしか粋がれない小さな人間に、今までへりくだっていた自分が許せなかった。


 これまでの俺は双葉の言う事には常にへりくだっていた。

 それは俺の中で彼女が〝大事な幼馴染〟、〝仲の良かった幼馴染〟、〝初恋の人〟などと特別な感情を持ち合わせていたからだ。

 だからこそ俺の常識は麻痺していたんだろう。他の人ならばともかく、長い時間を過ごした双葉なら多少の暴言は許してやるべきだと錯覚していたんだ。


 ほんっと……俺はこの女に対して盲目的になり過ぎていたんだ。


 共に過ごした長い時間があるのだから、いつかは昔の様な一緒に笑い合った関係に戻れると信じた。その結果が増長した幼馴染からの嘘告白となった。

 

 我慢に我慢し続けた結果があの未来なのだ。そしてあの悲劇を生みだした理由、それはどこまでも甘い自分の性根も原因の1つなのだ。

 もうこれ以上あんな想いなんてしたくない。そう本気で思うならここで言い返さなければいけないのだ。


 なにより今の俺はもう独りじゃない。もう1人の幼馴染だって俺の為に隣で戦ってくれているんだ。

 クラスメイト達の視線を真っ向から受け止め、俺が言いたいことを声に出して訴え、元凶である双葉と真正面からぶつかり合っている。


 ここで星良に全部丸投げするようなら、俺は彼女の彼氏を名乗る資格なんてない。

 

 「誠也君……」


 ふと声の方を見やると、俺のことを不安げに見つめる星良がそこにはいた。


 自分の愛する人に、自分を愛してくれる人にこんな顔させて俺は何やってんだ?


 気が付けば俺は自分の両頬を思いっきり叩いて気合を入れていた。

 俺の突如の奇行、乾いた破裂音に双葉だけでなく教室全体がビクッと揺れた。

 

 「ありがとう星良。でも、ここからは俺に任せてくれ」


 心配げに見つめる恋人に微笑み、そして俺の視線はクラス全体を見回す。

 

 「ここに居るみんなにハッキリ言っておくぞ」


 クラスメイト達を睨みつけながら俺は星良を自分の元に抱き寄せる。


 「せせ、誠也君」

 

 いきなり抱き寄せられた星良が赤面しつつ俺を見る。

 ただ気のせいかもしれないが、口元が少しにやけている気がしたが……。


 周りのクラスの連中は俺の行動に唖然としている。

 まあ呆気に取られるのも無理はないだろう。先程まで縮こまっていた俺が、しかも普段大人しい男がこんな大勢の前でこんな目立つ行動を取るのだ。

 これまでの俺ならこんな注目を集める行動は控えていただろう。だが今の俺は違う、星良の為にも自信を持ってこの宣言をする必要がある。


 「俺が星良を脅しているだとか、弱みを握っているだとか思っているならお門違いだ。俺と星良は相思相愛なんだよ」


 「なっ!?」


 静まり返る教室内に双葉の驚愕の声が漏れるが知った事か。


 「どいつもこいつも、三日月双葉って女に信頼を置いているようだがな、事実確認もしないで俺たちの関係に水を差すな。俺がいつまでも大人しい『便利君』のままだと思うなよ。彼女との関係を守るためならこれからは真っ向から挑んでやる」


 これまで双葉だけでなく、クラスの何人からも雑用など押し付けられていた。

 その結果がお人よしの『便利君』なんて、まるで召使のような立ち位置に立たされていた。


 そんな立ち位置から俺は脱却しなければならない。そうでなければ、俺を支えようと星良に過剰な迷惑をかけ続ける。


 そうでなければ……この幼馴染との縁は一生切り離せない。


 俺が鋭い眼光を双葉へと向けると、彼女は息を詰まらせた様子だった。

 それでもまだ俺を下に見ているためか、反抗的な目付きは抜けきっておらず睨み返しながら口を開く。


 「何よ、あんたが私に対してそんな目を向けて良いと思って……」


 「いいんだよ。俺とお前はもう幼馴染でなく、明確な〝敵〟なんだからな」


 「て、敵ってなによ? バカじゃないの?」


 「朝の通学路でも言ったけどな、お前とは正式に幼馴染の縁を切らせてもらう」


 俺はあえてクラス観衆の中で絶縁宣言を再度してやった。

 まさか人目のある場所、まして教室内で縁切りされるとは思っていなかったのか、彼女はパクパクと青ざめた顔を見せてきた。


 だがしばし青い顔をしていた彼女だったが、すぐにその顔は切り替わる。


 「ぐずっ……ひどいよ誠也。どうして幼馴染にそんなことが言えるの?」


 涙目になり嗚咽を漏らす彼女に、これまで黙り込んでいたクラスの皆が責めるような視線を向ける。

 だが長年の付き合いのある俺は分かる。嗚咽を漏らしてこそいるが、双葉の口元はいやらしく歪んでいる。


 はんっ、くだらないんだよ。ずっとお前を見てきた俺に噓泣きなんて通用するかよ。


 嘘告白は見抜けなかった俺だが、何度もされた嘘泣きの方なら見抜ける。

 だからこそ俺はここで手を緩めず、更に追撃を加えてやった。


 「おお、双葉は嘘泣きが上手いな。流石は昨日の放課後、罰ゲームで俺に嘘告白して騙しただけの実績はあるな」


 俺がわざとらしくそう告げると、双葉の嗚咽が途切れクラスの空気もまた変化を見せだした。




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