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14話 誘導される悪意


 「みんなもちょっと冷静になりなさいよ。こんなヤツが学園のアイドル様と交際できると思う? 完全に不釣り合いカップルじゃん」


 教室に遅れてやって来た双葉は、朝の挨拶も抜きに俺を貶めるような発言を嬉々とした顔で語る。


 「私だって誠也の幼馴染だけどさ、コイツに惹かれる部分なんて全然ないんだよ?」

 

 俺を指差しながらヘラヘラ笑って俺を嘲る双葉に、思わず俺の頭に血が上り始めた。


 こいつは本当にいい加減にしろよ。クラスメイトを巻き込んでまで俺を下に見たいのか?


 「おい、お前いい加減に……」


 俺が黙らせようと双葉のセリフを遮ろうとした時だった。

 沈静化しつつあったクラスの反応がまたざわめき出す。


 「確かによくよく考えれば不自然だよな?」


 「いくら幼馴染だったと言ってもねぇ。大道君と北條さんじゃ……」


 おいおい、お前たちまで何を乗せられているんだよ?

 

 星良と俺の関係を受け入れてくれそうだった空気はまた一変、猜疑心の籠ったクラスメイト達の視線が俺に突き刺さる。

 そんな空気がよどむ中で双葉と、先ほど野次を飛ばしてきた女子グループが更に場を乱していく。


 「みんなもさ、もっと常識持った方がいいわよ。誠也と北條さんが付き合えるわけないって考える方が普通じゃない?」


 「双葉の言う通りだよ。もしかしてさ、北條さんが弱み握られているとか?」


 「やばー、ウチのクラスにパワハラモラハラのクズ男が居ますよー」


 双葉の暴言に息を合わせるよう、昨日のグループ共も俺にありもしない虚言をぶつけていく。

 思わず言い返そうとする俺だったが、それは他のクラスメイト達の圧によって遮られてしまう。


 「なあ大道、マジで北條さんを脅してるのか?」

 

 「さいってー……」


 気が付けばクラスの空気は双葉によってコントロールされ、俺はいつの間にか悪者に仕立て上げられていた。

 疑いや非難の入り混じる視線に晒され、俺は悔しさから歯噛みする。


 なんで……なんで誰も双葉の上辺だけの言動を信じるんだよ。

 

 確かに俺はこのクラスでは目立たない男さ。クラスからは『便利君』なんて呼ばれる事もある。

 それに対して双葉はカースト上位の女子で、クラス内でも顔が広くコミュ力も高い。だからあいつが俺よりも人気なのは納得するさ。


 でも……無条件であいつを信じて俺を疑うのは違うだろ……!


 この時に心中内で抱いたこの葛藤を声に出せなかった。

 何故なら既にこの教室内は双葉によって掌握されている。その中で彼女より格下と認識されている俺が異論を唱えても無駄どころではない。むしろ余計に拗らせるだけなのだ。


 「くそっ……」


 何一つ落ち度がないのに貶されていく現状に、俺は負け惜しみのように悔し気な一言漏らしていた。


 いや違う、落ち度がない訳ではない。こうして縮こまっている俺の性格こそが落ち度と言える。

 ここで強気に双葉の発言を否定しなければいけない。それなのに俺はだんまりを決め込む。大勢の視線に怯え、圧力に耐え切れないこの弱い心こそが俺の落ち度なのだ。


 理不尽な双葉への怒り、脆く弱い自分への失望に打ちひしがれていた時だった。

 俺の隣で、謂れのない言葉の暴力を一緒に聞いていた星良が、ドンッと近くの机を〝蹴った〟のだった。



 ◇◇◇



 すっかり孤立となった誠也を見て私の心は上機嫌だった。

 私と一緒に彼を非難した友人達も声を殺して笑っていた。

 

 今の誠也はきっと私に対して怒り心頭といった具合だろうけど、これは当然の報いだと受け入れるべきだ。


 この私の心をあれだけ傷付けたのだ。人を傷つければ報いを受ける、子供でも分かる当然のこの結末を予測できなかった誠也が何もかも悪いのだ。

 そう、私がクラスメイトを先導してヘイトを向けたこと、これは正当な報復なのだから私は罪悪感など感じなかった。


 それに私がクラス中から敵視させた理由は復讐だけではない。

 ここまでクラス連中を焚き付けのは、誠也と北條を破局させる為だった。


 ここまでボロクソに言われればクラスの皆も誠也とあの女の交際を祝福しないだろう。それどころか早く別かれるようにあの女を説得したり、誠也を裏で脅したりするかもしれない。


 追い込まれ、傷ついた誠也はクラス内で完全孤立。そこへ私が慈悲深い接し方をする。その流れなら、たとえ誠也がカースト底辺まで落ちぶれていたとしても、上位の私の評価がクラス内で下がることない。

 自分の地位を維持しつつ、誠也を自分の物にできるチャンスが巡ってくるはずだ。


 そんな理想に内心でほくそ笑んでいた私だが、その思考はガンッ、と机を蹴られる衝撃音で霧散する事となった。


 「きゃっ!?」


 いきなりの大きな音に思わず私の口から間抜けな悲鳴が漏れた。

 音の出処を見てみれば、そこには泥棒猫が鬼面を向けて私を睨みつけていた。




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