11話 誠也の激昂
「俺を奮起させるために嘘の告白をした? それで俺が本気でありがたがるとでも思ったのかよ!!」
「ちょ、なに興奮してんのよ」
俺が双葉に対して怒声を上げる事などもうここ数年皆無だった。
だが俺の中では『やってしまった』などという後悔はなく、むしろ溜め込まれた不満のダムは決壊して、積もり積もった激情が氾濫する。
「クラスの友人達と一緒に俺を笑いものにする、それが俺を成長させる切っ掛けになると本気で思っていたのか? 一念発起するどころか、俺は危うく心が崩壊するところだったんだぞッ!!」
「そ、それは……」
俺がここまで本気で激怒したからか、今更ながらに双葉の顔には『もしかしてやりすぎた?』と言わんばかりの動揺の色が浮かぶ。
ここまで言わなければ俺が傷ついた事にすら気付けない、その心の無さが益々俺の中の火山を噴火させる。
ああもうダメだ。これ以上この女と関わってはいけない。
正直に言えば、俺の中ではまだ双葉は〝幼馴染〟のカテゴリーに入っていた。
確かに昨日のライン上ではもう他人でいよう、そう俺はメッセージを送信した。だが心の奥底ではもし彼女が謝るのならば、幼馴染としてもう一度……そんな甘い考えが残留していた。
だがもう限界だ。なにしろ彼女は謝るどころか、むしろ俺を情けない男だと叱責するぐらいなのだ。
「俺は断じてお前の人形なんかじゃねぇ! もう金輪際俺にかかわるな!」
「え…あ……そこまで言わなくても……」
「何がそこまで言わなくてもだ! 俺をここまで言わせたのは他の誰でもない、お前自身だろうがッ!!」
そこまで言うと俺の中の熱は一気に冷めていった。
鬱積していた黒いモノを吐き出し終えると、もう目の前の女のことなど心底〝どうでもいい〟と思えた。
「双葉、今ここでハッキリ言わせてもらう。お前とは今日限りで幼馴染としての縁を切らせてもらう」
「ちょ、ちょっと待ってってば。少し落ち着いて……」
「もうこれで俺とお前は他人だ。精々悪趣味なクラスの女子達と仲良くしてろよ」
そこまで言うと俺は返事も待たず背を向けて会話を打ち切った。
「じゃあな、俺たちはもう行くから。さあ行こう星良」
「うん……そうだね」
俺が双葉から目線を切って星良に向き直る。
彼女は俺が怒りを吐き出している中、ずっと行く末を見守り続けていた。
俺が感情を赤裸々にぶちまけていても、星良は特に俺に対してドン引きしたりなどしなかった。それでも彼女にとっても気分の悪い光景を見せたと思い軽く謝っておく。
「ごめん、目の前で嫌なもん見せちゃったな」
「ううん、誠也君の怒りはもっともだよ。それにもしも君が何も言わなかったら、私が口を出していたよ」
だから気にしないで、そう言いながら俺の手を取って笑顔を向けてくれた。
そうして双葉を取り残して登校を再開しようとするが、この期に及んで双葉は俺たちにズレた発言をぶつけてきた。
「ちょっと待ちなさいよ! 全然納得できないんだけどッ!?」
もう関わりたくないというのに、彼女はまだ会話を引き延ばそうとしてくる。
「さっきから一方的に何様のつもりよ!? 挙句の果てには幼馴染の縁を切る? どうしてそこまで冷酷な事ができるのよ!?」
俺のしている事は冷酷だぁ? じゃあお前が俺に働いた事は冷酷を通り越して鬼畜だろうが。
ここまで言われても未だに反省のはの字も見せない元・幼馴染に辟易する。何しろここに来てまだ彼女は『ごめんなさい』すら口にしてないのだ。
このまま無視して学校を目指そうとしたのだが、俺の隣に居た星良は振り返り、そして温度のないセリフを双葉に叩きつけた。
「どこまでも愚かで救いようがないわね。あなた、自分が理不尽な目に遭っていると思っているの? だとしたら思い上がりも甚だしいわ」
「うるさいッ、アンタには関係ない話でしょ! これは私と誠也の話なんだから、他人は入って来るんじゃないわよ!!」
「生憎だけど私は他人なんかじゃないわ。だって私は誠也君の恋人であり、そして幼馴染なんだから」
「……は? 幼馴染ってどういう……」
星良の口から幼馴染と言う単語が出てきて戸惑いを見せる双葉だが、やがてハッとなると震えた指先を彼女の方に向ける。
「もしかしてアンタ、小学生の頃の……だって男だったんじゃ……」
「ようやく思い出したようね。でもこれで理解できたかしら? 私と誠也は恋人と言うだけでなく幼馴染であり、対するあなたは誠也に縁を切られた元幼馴染。さぁ、この場合は、いったいどっちが〝他人〟に当てはまるかしら?」
冷笑と共にそう言われた双葉は言葉に詰まっていた。
彼女が星良に対して強気でいられたのは俺と幼馴染だったからだろう。
だが星良は恋人であり、幼馴染と言う自分以上に深い関係だと彼女は思い知らされた。しかもたった今、双葉は俺に縁を切られてしまったのだ。
どっちがより俺に近い存在なのか、その格差を前に双葉は閉口する。
「それじゃあもう私たちは行くから」
心底蔑んだ目を向けながら星良は俺の手を引き、俺たちはその場を去る。
残された双葉は涙目になりつつ、遠くなっていく俺たちの背を歯ぎしりと共に睨みつけていた。




