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10話 狂った善意の押し付け


 「さっきから黙って聞いていればあなたは何様なの? あなたね、誠也君のことを下に見過ぎよ」


 まるで周囲の温度が一気に氷点下まで下がったかのように、星良から放たれるオーラは冷え冷えとしていた。


 うおっ……なんだか俺まで寒気がしてきた……。


 直接圧力を向けられていない俺ですら、一瞬だけとは言え内心で身震いしてしまう。

 無論この圧力を叩きつけられている双葉の顔色は青ざめており、俺を罵っていた口は強引に閉ざされた。

 

 「もうこれ以上、私の大事な人を傷つけることは許さないから」


 そう言いながら星良は俺に密着し、まるで自分の所有物であるかのように見せつける。

 その光景を前に、気圧され気味だった双葉も調子を取り戻し、星良の忠告などお構いなしに再度俺に対して中傷口撃をぶつけてくる。


 「はんっ、女の子に護られて情けないと思わないの? だからヘタレだって気付きなさいよ」


 「ちょっといい加減に……」


 「だから私やクラスの女子に笑いものにされるのよ! 悔しかったらもっと男らしく成長してみなさいよ! 昨日、私が告白を断った理由だってあんたの為なのよ!!」


 は……それ、どういう意味だよ……。


 彼女の口から出てきた内容に俺は眉を顰める。

 隣で言い返そうとしていた星良も、今の発言に訝し気な眼を向けていた。


 疑念を頭の上に浮かべる俺たちに構わず、双葉は依然と言葉を連ねる。


 「今のあんたってクラスのカーストでも下の方だって自覚しなさいよ! そんなあんたを少しでもマシな男にしようと私が骨を折ってあげたのよ!? 自信を付けさせるために演技までしてあげたっていうのにさ、恩義も感じないわけ!?」


 「それは……どういう事だよ……」


 心中に留まりきらない疑念が喉の奥から出る。

 脳内が大混乱している俺とは違い、双葉はいけしゃあしゃあと信じがたい事実を告げた。


 「だ~か~ら~、あんたをわざと見世物にして、その悔しさを糧にさせて成長を促そうとしたってことよ! その程度の事も理解できないわけ? だから舐められるのよ」


 理解なんて……できる訳がない……。


 つまり……どういうことだ? 双葉が友達と一緒に俺を笑いものにしたのは俺の為……だって言っているのか? 


 この時、俺の頭の中で思い返されるのは双葉のセリフの数々だった。


 『私があんたを好きになる訳ないじゃん。ただの幼馴染ってだけでチョーシ乗ってキモいって。罰ゲームでもなきゃあり得ないってそのオツムでも分からなかったのかな?』


 『うん嘘だよ~。私はアンタのことなんて微塵も好きじゃないから。全部アンタの身の程知らずの勘違いで~す。残念でちたぁ~』


 『あはははは、アンタ泣いちゃってるの? きも! マジでキショイから死んで!!』


 『アンタなんてありふれたモブなのよ。これからはモブはモブらしく分不相応に生きていけば? 少なくとも私の人生にアンタみたいなしょーもない幼馴染はいらないからさぁ!』


 昨日の吐き気すら込み上げる罵声の数々、それらが俺の為だった?

 

 無理だ……理解できない。あの暴力以上の暴力が幼馴染にとっての〝俺の為〟の優しだって? これを……善意だと俺に捉えろと?


 「うぐっ」


 「せ、誠也君!?」

 

 腹の奥底からヘドロの様な嫌な気配がこみ上げ、その場で俺は蹲ってしまう。

 そんな俺に心配そうに寄り添う星良の気遣いに対し、俺は手で大丈夫だとジェスチャーで示す事しかできなかった。

 ここで口を開いてしまえば、言葉でなく別のモノをぶちまけかねない。


 顔面蒼白状態の俺を見て、双葉は呆れ顔で追撃を加えてくる。


 「なっさけな! そんなやわなメンタルだから罰ゲーム要員に選ばれるのよ。もっとシャキッとしなさいよ!」


 「いい加減に……!」


 どこまで行っても身勝手で不遜な態度に、これまで冷静に対応していた星良もついに爆発しそうになる。


 だが彼女以上に先に怒りが噴火したのは、当の本人である俺だった。


 「ふざけるのも大概にしろぉッ!!」


 未だに込み上げる吐き気を気合でねじ伏せ、俺はかつてないほどの怒りを双葉へと叩きつけていた。


 「どこまで……お前はどこまで俺の心を踏みにじれば気が済むんだぁ!!」


 「え……誠也……?」


 俺に怒鳴られると思っていなかったのか、双葉は目を丸くして呆然としていた。


 確かに俺が双葉にここまで強く当たったことは初めてだ。だがしかし、ここまで尊厳を踏みにじれば誰だって逆鱗に触れると理解できない方がおかしいのだ。

 つまり、彼女にとって俺と言う人間は遥か下の存在なんだと、深層心理で位置付けている裏付けでもあった。

 昨日までは想いを寄せていた幼馴染は、もう俺にとって嫌悪感の塊と化していた。


 もうこれ以上は好き放題言わせない。そして俺の生き様を踏み砕かれないため、俺は今の自分の心からの激情を叩きつけてやった。


 この瞬間、ラインのブロックなど生温い拒絶を双葉は味わう事が確定したのだった。




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