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後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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縁切り女官、それが私の仕事

 

 豊紈ほうかんの自白をもとに、男の根城に手入れが入った。

 男も捕縛され、厳しい取り調べを受けた結果、被害者の娘たちがどこに埋められたのかが明らかになった。

 無事掘り起こされ、すでに白骨と化していたものの、娘たちは皆、これで家に戻ることができる。身に着けていたものから、どの骨が誰なのかは、特定できたようだ。

 弔いを受けぬまま暗い山中で眠り続けるより、いくらか救いのある話だった。


 * * *


 雪華は朱翠影と供に、ふたたび沶竟いけいに向かった。

 県尉けんいの屋敷を訪ね、嘆き悲しむ家人に、娘さんを弔ってもよいかと尋ねる。

 夫妻は涙を流し、頭を下げた。


「ありがとうございます……娘はきっとまだ苦しんでいます。救ってやってください」


 魏祥ぎしょうの骨は、窓際に置かれた清潔な羅漢床らかんしょうの上に、綺麗に横たえられていた。生前のお気に入りだったのだろうか……陽光を透かした木の葉を思わせる、萌黄もえぎ色の襦裙じゅくんに包まれている。

 雪華はそばに歩み寄り、九字くじを切ったあとで、詩を詠んだ。


 石苔せきたい雨にもく

 滑りてがた

 水を渡り 林を穿うがちて

 きてまたかえ

 処処しょしょ鹿声ろくせい尋ね得ず

 白雲はくうん紅葉こうよう千山せんざん


 雪華に神通力はない。だからこれは両親の心を軽くするための儀式だった。

 慶昭帝が認める救国の巫女が丁重に弔ったとなれば、夫妻は心の安定を得られるだろう。微力ではあるのは分かっているが、ないよりはましだ。


 リィーン――……


 どこからともなく澄んだ鈴の音が響いてきて、雪華はかたわらに立つ朱翠影を見上げた。


 ……この音は?


 朱翠影も訳が分からないという顔で困惑している。

 ふと亡骸を見おろせば、白骨と化した魏祥ぎしょうの首に、緑の糸が絡まっているのが見えた。糸の先を辿ると、両親の首に繋がっている。


 幻聴だろうか……骨が語りかけてきた気がした。


『お願い、糸を切って――ふたりを解放してあげて』


 雪華は膝を折ってうやうやしく一礼してから、帯に挟んであった鋏を取り出し、額の前で捧げ持った。

 魏祥ぎしょうが生前に味わった恐怖、家人の苦しみが、どうかこれにて断ち切られますよう。


 ――ぱちん!


 おごそかに緑の糸を断ち切る。切られた糸は空間にとけるようにふわりと霧散した。

 すると開け放たれていた窓から、たゆたうように眩い光が差し込んできた。

 それに気づいた夫妻が「ああ」と息を漏らし、涙を零す。


 緑の糸は、両親の悔しさ、悲しみ、執着の具現化だったのかもしれない。

 愛ゆえの結びつきであっても、それが強すぎれば、魏祥ぎしょうが旅立つ邪魔になる。魏祥ぎしょうは優しい娘だった――死してなお自らの魂が今世に留まったとして、それで家族が幸せになれるなら良いけれど、そうでないと分かっているから、ここで縁を切ることを望んだ。

 悲しみを断ち切ることで、あとに強く残るものもある――それは互いを想う温かな愛だ。



「安らかにお眠りください」


 雪華は帯に鋏をしまい、魏祥ぎしょうの亡骸にそっと手を触れ、彼女のために祈った。


 その後雪華たちは亡骸が返された娘たちの実家を順に回り、同じことをした。

 不思議なことに、どの亡骸にも緑の糸が絡みついていた。


 縁切り女官――それが私の仕事。

 雪華は亡くなった娘たちの気持ちを汲み取り、丁寧に糸を断ち、祈りを捧げた。



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