縁切り女官、それが私の仕事
豊紈の自白をもとに、男の根城に手入れが入った。
男も捕縛され、厳しい取り調べを受けた結果、被害者の娘たちがどこに埋められたのかが明らかになった。
無事掘り起こされ、すでに白骨と化していたものの、娘たちは皆、これで家に戻ることができる。身に着けていたものから、どの骨が誰なのかは、特定できたようだ。
弔いを受けぬまま暗い山中で眠り続けるより、いくらか救いのある話だった。
* * *
雪華は朱翠影と供に、ふたたび沶竟に向かった。
魏県尉の屋敷を訪ね、嘆き悲しむ家人に、娘さんを弔ってもよいかと尋ねる。
夫妻は涙を流し、頭を下げた。
「ありがとうございます……娘はきっとまだ苦しんでいます。救ってやってください」
魏祥の骨は、窓際に置かれた清潔な羅漢床の上に、綺麗に横たえられていた。生前のお気に入りだったのだろうか……陽光を透かした木の葉を思わせる、萌黄色の襦裙に包まれている。
雪華はそばに歩み寄り、九字を切ったあとで、詩を詠んだ。
石苔雨に沐し
滑りて攀じ難し
水を渡り 林を穿ちて
往きて又還る
処処の鹿声尋ね得ず
白雲紅葉千山に満つ
雪華に神通力はない。だからこれは両親の心を軽くするための儀式だった。
慶昭帝が認める救国の巫女が丁重に弔ったとなれば、夫妻は心の安定を得られるだろう。微力ではあるのは分かっているが、ないよりはましだ。
リィーン――……
どこからともなく澄んだ鈴の音が響いてきて、雪華はかたわらに立つ朱翠影を見上げた。
……この音は?
朱翠影も訳が分からないという顔で困惑している。
ふと亡骸を見おろせば、白骨と化した魏祥の首に、緑の糸が絡まっているのが見えた。糸の先を辿ると、両親の首に繋がっている。
幻聴だろうか……骨が語りかけてきた気がした。
『お願い、糸を切って――ふたりを解放してあげて』
雪華は膝を折って恭しく一礼してから、帯に挟んであった鋏を取り出し、額の前で捧げ持った。
魏祥が生前に味わった恐怖、家人の苦しみが、どうかこれにて断ち切られますよう。
――ぱちん!
厳かに緑の糸を断ち切る。切られた糸は空間にとけるようにふわりと霧散した。
すると開け放たれていた窓から、たゆたうように眩い光が差し込んできた。
それに気づいた夫妻が「ああ」と息を漏らし、涙を零す。
緑の糸は、両親の悔しさ、悲しみ、執着の具現化だったのかもしれない。
愛ゆえの結びつきであっても、それが強すぎれば、魏祥が旅立つ邪魔になる。魏祥は優しい娘だった――死してなお自らの魂が今世に留まったとして、それで家族が幸せになれるなら良いけれど、そうでないと分かっているから、ここで縁を切ることを望んだ。
悲しみを断ち切ることで、あとに強く残るものもある――それは互いを想う温かな愛だ。
「安らかにお眠りください」
雪華は帯に鋏をしまい、魏祥の亡骸にそっと手を触れ、彼女のために祈った。
その後雪華たちは亡骸が返された娘たちの実家を順に回り、同じことをした。
不思議なことに、どの亡骸にも緑の糸が絡みついていた。
縁切り女官――それが私の仕事。
雪華は亡くなった娘たちの気持ちを汲み取り、丁寧に糸を断ち、祈りを捧げた。




