↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】後宮の縁切り女官  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/83

真相

 

 魏祥《ぎしょう》は可愛い熊犬が殺され、半狂乱に陥った。顔を歪め叫ぼうとするが、おそろしさで声も出ない――男はすかさず大剣を振り回し、魏祥《ぎしょう》の首を一刀両断にした。


 絶命した瞬間、魏祥《ぎしょう》は叫び声を上げようとしていたため、まるで狂い笑いしているように壮絶に、裂けるほどに口を大きく開けていた。恐怖の絶頂で固まったその顔は、闇夜に舞い、月光を浴びておどろおどろしく映った。


 天高く刎ね上げられた魏祥《ぎしょう》の首を、境内を進んで来た黄《おう》賢妃《けんぴ》が目撃――狂ったように悲鳴を上げる。


 黄《おう》賢妃《けんぴ》に続き、豊紈《ほうかん》も宙を舞う首に気づく――そして呆気に取られた。

 豊紈《ほうかん》にはすぐに分かった――あれは魏祥《ぎしょう》の首だ――あれを刎ねたのは私の男だわ。


 豊紈《ほうかん》は狡賢く考えを巡らせた。こういう時に豊紈《ほうかん》は情に流されず、合理的に物事を判断することができる。

 そうね――魏祥《ぎしょう》に利用価値がないのなら、死体はあとで発見されてもいい――腹を裂く工作だけして、飛頭蛮《ひとうばん》の被害者に仕立ててみるのも、ありかも。首が胴と離れていて、腸をまき散らした状態で死んでいれば、いかにもそれっぽいじゃない?

 飛頭蛮《ひとうばん》に襲われて魏祥《ぎしょう》もあやかしになりかけたけれど、結局死んでしまったというふうに解釈されるでしょう。


 けれど待って……よくよく考えてみると、魏祥《ぎしょう》は沶竟《いけい》出身だった……つまり彼女の実家はここから近い! おまけに魏祥《ぎしょう》の家はものすごく裕福よ――これまでに沶竟《いけい》で誘拐した娘同様、上手くやれば金になるわ。

 そうなると死体が見つかるとまずいから、男に持ち去ってもらう必要がある。


 黄《おう》賢妃《けんぴ》が失神してしまったので、豊紈《ほうかん》は急ぎ階段下に駆けて行き、男に向かって早口に告げた。


「今のうちに逃げて――いいからほら、魏祥《ぎしょう》の死体をすべて持っていくのよ! 首も体も! 魏祥《ぎしょう》のうちはとびきり裕福だからね、これまでに誘拐した娘よりも、もっと高い金を搾《しぼ》り取れるわ」


 男は素直に頷き、言うとおりにした。


 あとには熊犬の死骸が残され――……。


 ここで豊紈《ほうかん》はふたたび考えを巡らせる――黄《おう》賢妃《けんぴ》が飛頭蛮《ひとうばん》を目撃した際、私も隣にいたわけよね――だとすると、「何も見ませんでした」と惚《とぼ》けるのは得策ではない。

 仕方ない――「飛頭蛮《ひとうばん》を私も見ました」と話を合わせるしかないわね。

 そうなると……熊犬の死骸が綺麗なのは、問題ではないかしら?


 そこで豊紈《ほうかん》は木立に入り手頃な棒を拾って来て、熊犬の腹に突き刺し、かき混ぜた。

 階段は血の海だ――犬の体から流れ出た血にしては多すぎる。当然だ、大部分は、魏祥《ぎしょう》の首を刎ねた時の血なのだから。

 けれど飛頭蛮《ひとうばん》が絡んでいるとなれば、多少奇妙な状況でも、怪しむ人などいないのではないかしら。

 熊犬の腸を出し終えたので、使った棒を木立の中に投げ捨て、息をつき階段を上がったところで、やって来た桃義《とうぎ》と出くわした。


 そのあとは寺院から去った男が魏祥《ぎしょう》の死体から指を切り、木箱に入れて、実家に送りつける準備を整えた。一緒につける脅迫文は、豊紈《ほうかん》が夜のうちに寺院で書いておいた。

 朝になり、豊紈《ほうかん》はこっそり外に出て、作成した脅迫文を男に渡した。

 なぜ簡単に寺院から抜け出せたのか?

 それは昨夜の小火《ぼや》騒ぎ、そして熊犬の死、黄《おう》賢妃《けんぴ》が寝込んでしまったこと――色々重なって警備が手薄になっていたからだ。

 すべてが上手く運び、見事、五百貫を手に入れた。

 だめもとであと五百貫、魏祥《ぎしょう》の親から引っ張ってみようか――払ってもらえれば、儲けものだ。


 この一件で大きく稼げたので、豊紈《ほうかん》は次の外出の機会を待ち、男と遠くに逃げるつもりだった。

 それで次の外出が決まったら、もう後宮には戻らない、勝ち逃げしてやる――もうすぐ自由、金、すべてが手に入る!

 勝ちは確定していたはずなのに、あと少しのところで、ばれてしまうなんて。


 豊紈《ほうかん》は縄をかけられ、暗くみじめな牢に連れて行かれた。

 収監されて終わりではない――豊紈《ほうかん》は極刑に処される。


 * * *


 すべてが決着し、雪華は肩の荷が下りた。

 とはいえ解決のためかなり際どいこともしたので、後味が良いとは言えなかった。

 けれど後悔はしていない。


 豊紈《ほうかん》を揺さぶり嵌《は》めるためには、同席している桃義《とうぎ》、田《でん》丹《たん》も怖い目に遭わせる必要があった。

 巻き添えを食うふたりは、さすがに気の毒だろうか……事前に少しだけ迷ったけれど。


 それでもやはり必要な犠牲だ。

 犯人の豊紈《ほうかん》は頭が回るので、同席しているほかの面々が『これは芝居である』というのを知りながら参加していると、それを巧みに嗅ぎ取り、おそらく尻尾を出さない。

 ただ黄《おう》賢妃《けんぴ》だけは別格で、すべてを知っているほうが本人に凄みが出るため、雪華は真相をあらかじめ話した上で参加してもらった。


 残る二名、桃義《とうぎ》と田《でん》丹《たん》は、肝を冷やすことになるだろう。

 可哀想? いいや――正直に言えば、あまり同情はできない。


 桃義《とうぎ》は不誠実な人間であり、雪華は彼女のために親身になることができなかった。以前から桃義《とうぎ》は姜《キョウ》道士にすり寄り、あるじの黄《おう》賢妃《けんぴ》の情報を流して裏切っていた。守秘義務があるのに黄《おう》賢妃《けんぴ》の出家先をべらべら話したのは問題がある。そして黄《おう》賢妃《けんぴ》がやつれて寝込んでいるのを、どこか冷笑的に眺めていたのも、印象は良くなかった。以前から虐げられていたならまだ分かるが、黄《おう》賢妃《けんぴ》ほど公正なあるじはなかなかいないと雪華は思っている。


 そして宦官の田《でん》丹《たん》――こいつも問題がある。田《でん》丹《たん》は、娘がいなくなったと聞いて狼狽している魏祥《ぎしょう》の両親を、きつく罵《ののし》った。「昨夜、娘さんが近くの寺院から逃げました。正直に言いなさい、こちらに戻っているのでしょう? 家のどこかに匿《かくま》っているなら、大変なことになりますよ!」――いきなりそうまくし立てられた魏祥《ぎしょう》の両親は、どんなにつらい思いをしたことか。


 だから雪華は、桃義《とうぎ》と田《でん》丹《たん》が八角卓の前でどんなに怯えても、心が動かなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。