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玄関は家の顔だと言われている。だとしたら、裏戸は何だろう……なんて考えたのは、屋敷を出る際、当主であるはずの先生が使用したのが他でもない裏口だったから。
なんでこんなところから?
内心だけでなく実際に首を傾げるわたしに、先生は苦笑して言う。
「目立ちたくないでしょう?」
「いや、家主がこんなところから出入りしていたら逆に目立つと思いますけど?」
城内での敵視されぶりを思い出せば、目立ちたくないのは本心。国の幹部である先生が何処の馬の骨かも分からないわたしを連れて歩くのだって、相当外聞が悪いだろうし。けれど、それなら変装でも何でもすればいい話。実際こちらに来る前は庶民だったのだ。ドレスでない衣服に袖を通すなんて何てこともない。
「いやいや、流石にこれをつけて表からは出られませんよ」
「これ?」
不思議な指示語を使った先生に首を傾げる。そんなわたしにニコリと微笑み、先生は繋いでいる方の手を持ち上げて顔の前へ。
見慣れた衣服の先生の腕に見慣れぬ装飾品。ユラユラと頼りなく揺れるソレからは、グルルと竜が唸るような波動を感じて身構える。
「それは?」
「魔具です。編んである皮に陣が刻んであり、その陣の持つ意味に沿った効果を発揮します。ちなみにこれは認識阻害の効果があります」
「認識阻害?」
「つまり、今のわたしはこの国の宰相ではなく……その家に仕える若造に見えるってことです」
そんなまさか、と思ったけれど、冗談を言っている雰囲気はない。……言っていたとしても見抜けない自信しかないけど。
「……まぁ、そんな訳ですので」なんとも言えない顔をしているわたしをクスリと笑い、先生は言う。
「今日のわたしは一般庶民。陛下のように豪華なドレスや馬車、フルコースの食事もご用意出来ません。それでも、一緒に過ごしていただけますか?」
相変わらずナチュラルにエスコートを申し出る先生は、残念ながらどこをどう見てもみそっかすには見えない。というより、みそっかすがこんな紳士的な振る舞いをしていたらそれはそれで不審なことだろう。
育ちは隠せないって言うよね。
端から見れば不自然この上ない現状に先生同様クスリと笑いを零せば、今度は先生が不思議そうな顔をする。城では見たことのない無防備な反応。それを見られたことが、私は少しだけ嬉しく思えた。
「姫様?」
笑いを引っ込めない私に先生が眉を顰める。
いけない。そろそろ頭を切り替えなきゃ。
コホン、と態とらしく咳払いをして私は淑女の礼で先生に答える。
「喜んで、ご一緒させていただきます。でも……」
「でも?」
ただって訳にはいかない。
先生だけ面白いことをするなんてズルい。
「私にも、そのブレスレットを貸してください」
「……はっ?」
「みそっかすの隣にはみそっかすがいるべき。そうでしょう?」
巷で噂の竜姫。厳しい先生のおかげで少しずつマナーも身についてきましたが……今日は、久しぶりに庶民に戻りたいと思います!
お久しぶりです。可嵐です。
今年度、メンタルをビシビシ削られて中々書く余力を持てずにいましたが、今日は少しだけスッキリしているので更新。本当、余暇は楽しく過ごすべきですね。
ではでは、読んでいただいてありがとうございました。
また次回!
可嵐




