第三十五話 選択、再び:「先生、それ、一番正直な答えだと思います」
「先生、それ、一番正直な答えだと思います」
村瀬の夢が続いた。
毎晩だった。
匂いは五で止まっていた。上がらなかった。下がらなかった。
夏生は毎日記録した。
村瀬が送ってくる数字を、表に入れた。
五、五、五、五。
変わらなかった。
変わらないことが、良いのか悪いのか、わからなかった。
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十日目に、村瀬が来た。
「先生、一つ聞いていいですか」
「何だ」
「先生は、また入ろうと思っていますか」
夏生は村瀬を見た。
「なぜそれを聞く」
「なんとなくです。先生の顔が、そういう顔に見えます」
夏生は何も言わなかった。
「思っていますか」
「考えている」
村瀬はしばらく黙った。
「止めません」と言った。
「止めなくていい」
「でも」村瀬は夏生を見た。「一つだけ教えてください。なぜ入ろうと思っているのか」
夏生はしばらく考えた。
「村瀬が夢の中で読まれている。田所はコロニーと繋がった。私は手前にいる」
「それが理由ですか」
「手前にいる理由が、怖かったからなのか、観察者だったからなのか、まだわからない」
「どちらだと思いますか」
夏生は少し考えた。
「両方だったと思う。今は、どちらか確かめたい」
「確かめて、どうするんですか」
「わからない」
村瀬は少し笑った。
「先生、それ、一番正直な答えだと思います」
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翌日、委員会に書類を出した。
被験者として夏生自身が再度入ること。
一回限り。
村瀬が監視すること。
三日後、委員会から返答が来た。
「条件付きで承認。四十分上限。村瀬氏の常時監視必須。事後報告を速やかに提出すること」
夏生は一度読んで、村瀬に転送した。
返信が来た。
「わかりました。いつにしますか」
「明後日」
「わかりました」
少し間があった。
「先生」
「何」
「怖いですか」
夏生は少し考えた。
「少し」
「よかったです」と村瀬は言った。
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前日の夜、夏生は装置の前に座った。
ヘルメットを手に取った。
重さを確かめた。
最後に入ったのは、十回目だった。三時間の回だった。戦闘の回だった。
今回は四十分。
何が違うのか、何が同じなのか、まだわからなかった。
ハルが来た。
装置の椅子に乗った。
夏生を見た。
夏生はハルを見た。
「また座ったな」
ハルは動かなかった。
「どかないのか」
ハルは動かなかった。
ただ、夏生を見ていた。
夏生はヘルメットを置いた。
ハルの隣に手を置いた。
ハルは逃げなかった。
温かかった。
「お前は何を知っている」
ハルは答えなかった。
目を細めた。
少し、頭を夏生の手に押しつけた。
それだけだった。
夏生はしばらく、そのままでいた。
ヘルメットをもう一度手に取った。
持ったまま、しばらくいた。
置いた。
明日でいい、と思った。
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ノートを開いた。
今日の日付。
《明日、入る。》
その四文字を見た。
第一回の前夜には、何も書かなかった。
今回は、四文字だけ書いた。
次の行に何か書こうとした。
やめた。
四文字だけで、今夜は十分だった。
ハルが装置の椅子から降りた。
夏生の膝に来た。
乗った。
夏生はノートを閉じた。
ハルの背中に手を置いた。
温かかった。
土の匂いがした。
一だった。
変わらなかった。
ずっと変わらなかった。
それが今夜は、少し、心強かった。
夏生は、もう一度入ると決めました。
理由を聞かれて、「わからない」と答えます。
四文字だけ、ノートに書きました。
ハルは装置の椅子に座って、動きませんでした。




