第二十話 深度:止めたいかどうかじゃない。止めるべきかどうか、だ。
波形は越えていた。匂いは越えていなかった。
七回目の前に、夏生は村瀬に言った。
「今日は四十分で切る」
「なぜですか」
「波形が深くなってる。六回目は私の記録を超えた」
村瀬は少し間を置いた。
「超えた、というのは」
「同じ回数で比べると、お前の方が速い」
「速い」
「同化が、速い」
村瀬は何も言わなかった。
「止めるわけじゃない。今日は短くする」
「わかりました」
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四十分で切った。
村瀬が戻ってきた。
目を開けた。天井を見た。息を吐いた。
「今回は途中で切られました」
「そうだ」
村瀬は起き上がった。夏生を見た。
「先生、私は大丈夫です」
「そう見えない」
「どう見えますか」
夏生は少し考えた。
「速すぎる」
「先生も速かったんじゃないですか」
「私より速い」
村瀬は何も言わなかった。
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帰り際、村瀬が言った。
「先生、一つだけ聞いていいですか」
「何」
「先生は、止めたいですか。私の潜入を」
夏生は答えなかった。
「止めたいなら、止めてください。従います」
「止めたいかどうかじゃない」
「じゃあ何ですか」
「止めるべきかどうか、だ」
村瀬は少し考えた。
「違いがありますか」
「ある」と夏生は言った。「私が止めたいと思うのは、お前が心配だからだ。止めるべきかどうかは、研究として判断することだ」
「どちらが勝ちますか」
夏生は答えなかった。
村瀬はそれ以上聞かなかった。
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夜、データを開いた。
七回目の波形を見た。
深かった。
自分の七回目と並べた。
越えていた。
深さだけではなかった。
持続時間も、変容のタイミングも、全部が自分の七回目を越えていた。
夏生は画面を閉じた。
開いた。
もう一度見た。
変わらなかった。
ノートを開いた。
今日の日付。
《七回目。四十分で切断。波形、全指標で先行を上回る。》
次の行を書こうとした。
書けなかった。
「先行」という言葉を見た。
自分のことを「先行」と書いた。
研究者の言葉だった。
正確だった。
正確すぎた。
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翌朝、村瀬から連絡が来た。
「昨夜、土の匂いがしました」
夏生はしばらく、その文字を見た。
「強さは」と返信した。
「三か四だと思います」
「初回から何日目だ」
「四十二日です」
夏生は自分の記録を探した。
初回から四十二日目。
六だった。
自分は六だった。
村瀬は三か四だった。
波形は越えていた。
匂いは越えていなかった。
何かが違った。
どこかがずれていた。
それが何を意味するのか、まだわからなかった。
返信した。
「記録しておけ」
村瀬からすぐ返信が来た。
「してます」
夏生はその二文字を見た。
してます。
自分が育てたのか、巣が育てたのか、わからなかった。
どちらも正しい気がした。
七回目、夏生は四十分で切りました。
村瀬の波形は、夏生を越えていました。
匂いは、越えていませんでした。
自分を「先行」と書いたノートの一行は、正確すぎました。




