表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命の灯火  作者:
9/18

第九話『アフター③』




翌日。




凛はほとんど眠れなかった。


鏡の中の女。


最後に聞いた言葉。





邪魔。





あの声が頭から離れない。


仕事中も。


食事中も。


気を抜くと。


鏡の中の女が思い出される。




夜。





凛は命の灯火へ向かった。





店内はまだ暇な時間だった。





カウンターの奥。



尾鹿がグラスを磨いている。



「いらっしゃい」




いつもの声。


それを聞いて少し安心した。


「尾鹿さん」



「ん?」


凛は少し迷う。


どう説明すればいいか分からなかった。


だが。


言葉にする前に。


尾鹿の方が口を開いた。





「白い服か」




凛は固まる。




「長い髪」




「……」



「女だろ」





数秒。







店内が静かになる。






「尾鹿さん」





「見たのか」





凛はゆっくり頷いた。


「見ました」


「鏡で」


尾鹿はため息を吐く。


「そうか」


「尾鹿さんも?」


「あぁ」


凛は少しだけ安心した。


自分だけじゃなかった。


頭がおかしくなった訳じゃない。





「何なんですかあれ」


「俺が知りたい」


尾鹿はグラスを置く。


少し考える。


そして。





「飯田さん呼ぶか」



「飯田さん?」



「たぶん知ってる」



「たぶん?」



「知ってるけど教えない人だ」







凛は嫌な予感しかしなかった。










一時間後。







店のドアが開く。







「よっ」



飯田だった。


コンビニ帰りみたいな顔で入ってくる。


凛は思わず顔をしかめてしまう


「この人が飯田さん?」


「おぉ」


「...本当に信用出来る人なんですか?」


「アッハッハ!言うねぇ!」





飯田は笑う。







尾鹿は呆れた顔をした。







「飯田さん」







「ん?」







「ひめちゃんの話です」







飯田の動きが少し止まる。







ほんの少しだけ。







「へぇ」







「もうそこまで行ったか」







そう言って。







なぜか嬉しそうに笑った。




「ひめちゃんだよ」







「は?」







正確には、「幽世比売かくりよひめ」ってんだ







店内が静かになる。




凛は尾鹿を見る。







尾鹿も嫌そうな顔をしている。



つまり。



知らないらしい。







「何なんですか、それ」




「神様みたいなもん」




「みたいって何ですか」




「神様じゃないから」




「じゃあ何なんですか」




「分からん」




凛は頭を抱えたくなった。




尾鹿は慣れているのか無反応だった。






「飯田さん」



「ん?」



「ちゃんと説明してください」



飯田は少し考える。



珍しく。



少しだけ。



真面目な顔になった。



「人間がさ」



「死んだらどこ行くと思う?」







「知りませんよ」



尾鹿はぶっきらぼうに言う



「俺も知らん」



「……」







「でも」








飯田は続ける。







「向こう側はある」







「向こう側?」




「うん」




「そんで」




「ひめちゃんは向こう側の住人」







凛は眉をひそめる。



「幽霊ですか?」



「違う」



「妖怪?」



「違う」



「神様?」



「違う」



「じゃあ何なんですか」



飯田は笑った。



「だから分からんって」






「ただ」



飯田はあなたと一瞬目が合う



「昔からいる」






「昔?」



「少なくとも俺が知ってる限りじゃ」







「ずっと」







その言葉だけ妙に重かった。





「見つかるとどうなるんですか」


凛が聞く。


飯田は即答した。


「近付いてくる」


「近付く?」


「見れば見るほど」


「知れば知るほど」


「向こうもこっちを見る」


凛の背筋が冷える。





写真。







通知。







鏡。






全部思い出した。


「じゃあ」


「私もう駄目なんですか」





飯田は少し考える。


「まだ平気」


凛は少し安心した。


しかし。


飯田は続ける。


「たぶん」






「たぶん?」







「凛ちゃんはおまけだから」







空気が止まる。







「……おまけ?」







「本指名はこっち」




飯田は尾鹿を指差した。



「は?」



「尾鹿」



「お前だよ」



店内が静かになる。






「何で俺なんですか」



「知らん」



「知らんじゃないでしょう」



「恋に理由いる?」



「気持ち悪い事言わないでください」



飯田は楽しそうに笑う。



「でもまぁ」



「ひめちゃんからしたら」



「お前は特別なんだろうな」







凛は思い出す。







鏡の中の女。







最後に聞いた言葉。







邪魔






あれは。


自分に向けられた言葉だった。




「解決方法はあるんですか」


凛が聞く。


飯田は少し黙った。


それから。


肩を竦める。







「知らん」







「……」







「というか」



「聞いたことない」







その一言で。


二人の顔色が変わった。






飯田は立ち上がる。


「ま」


「頑張れ」





「待ってください」


「もっと何かないんですか」


飯田はドアへ向かう。


そして振り返る。


「あるよ」


飯田は笑った。


「調べろ」


「ひめちゃんの事」


「見つかるかもしれないぞ」





「昔の被害者」






そう言い残して。



飯田は店を出て行った。



ドアベルが鳴る。






残された尾鹿と凛は顔を見合わせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ